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番外編3 一番の●●
マティオラ(4)
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「魔王」
「導王! 」
ペットを王座の横に立たせた魔王は、私が近づくと立ち上がって迎えてくれた。
「活躍しているそうじゃないか」
新しく給仕が運んできたワイングラスを私と魔王で合わせると、屈託のない笑顔でそんなことを言ってくれるが……。
「人工魔法石の噂は聞いているぞ。大発明だな? 導王の魔法技術の高さには毎回驚かされるが……今回もとても、とても驚いた。きっと国民は喜んでいるのだろう?」
喜んでいる?
国民と一丸になって作ったものだ。
いや、今日は言葉に噛みついている場合ではない。
「あぁ。お陰で国民からとてもかわいいペットを献上してもらった。ほら、マティオラ。挨拶を」
私が促すと、マティオラは恭しくローブの裾を持って魔王へ頭を下げた。
「はい。導王様のペットのマティオラです。お会いできて光栄です」
挨拶も上手だ。
魔王の威圧感で怯えてしまわないように、城の魔族相手に沢山練習してくれていたものな。
「そうか! 導王もペットを……! とてもかわいい子だ!」
魔王が屈託のない笑顔を浮かべ、マティオラを観ながら何度も頷く。
「あぁ、とてもかわいい」
「そうだな! 人間はとてもかわいく、癒される存在だよな! うちのニマもとてもかわいいんだ……ほら、ニマ?」
魔王の横……斜め後ろ辺りに控えめに立っていた、銀色のパーティー用ジャケットを着た金髪の人間が魔王に並んだ。
前回のパーティーでは他にペットがいなかったから特別に可愛く感じたが、今日は別に……ん?
「初めまして、お会いできて光栄です……」
ん?
遠目では気が付かなかったが、このペット……名前は「ニマ」で、美形で、金髪で、背格好も髪型も年頃も、前回の会議の時のペットと同じに見えたが……まだ慣れていないようなぎこちない笑顔を浮かべる顔は……こんな子だったか?
しかも、今、何と言った?
「初めまして……? 前回のペットとは、別人か?」
「あぁ。そうだ。ペットは三年間契約にしている」
「三年……?」
「常に、一番かわいい姿が見られるし、三年以上も部屋に閉じ込めるのは可哀そうだろう?」
魔王は、優しくペットの肩を抱き寄せるが……は?
優しいようで、残酷なことを言っていると思うのは私だけか?
容姿がかわいいころだけ愛でて、歳をとれば用済みということか?
しかも、部屋に閉じ込める? 部屋から出してやらないのか?
まるで囚人ではないか。
魔王に、こんなにかわいい人間を飼う資格があるように思えない。
「あぁ、マティオラ様が身につけているその魔法石、人工魔法石か? とてもよくできて……」
私が黙ってしまったので、魔王が話を広げようとしてくれたのだろう。魔王の手がマティオラの首にかかる人工魔法石のネックレスへと手が伸びて……。
嫌だ。
人工魔法石にも、マティオラにも、触れられたくない!
嫌だ!
「触るな!」
反射的に魔王の手をはたいていた。
思いのほか大きなパン! という音が大広間に響く。
「あ……」
しまった。
やってしまった……。
「あ……あ、あぁ。そうだな。大事なペットに触れるのは、マナー違反だな。悪かった」
「あ、いや、私も……反射的に、すまない」
魔王は素直に謝ってくれたし、自分でもやりすぎたと後悔した。
お互いに頭を下げて解決することだった。
だが……
「気持ちは解るが、やりすぎだろう?」
「ペットより、魔法石を取られると焦ったのではないか? 貧しい国だからな?」
「まぁまぁ、即位して一〇年も経たない若造だ。マナーも、王としての品格も、これからこれから」
後ろから、私に聞こえるように言っているであろう声が聞こえる。下品な笑い声も。
「導王、すまない。本当に俺が悪かった」
魔王はまた謝ってくれるが……こいつが謝れば謝るほど、私は悪者になる。
「……っ」
腹立たしい。
魔王に? 背後の王たちに?
いや……不甲斐ない自分に、か……。
「あ、あの!」
私が何も言えなくなっていると、マティオラが声を上げてくれた。
震えている。
声も、私の腕を抱く手も。
「私が、私が……魔族様は、畏れ多く、導王様以外には、まだ、なれ、慣れて……おらずえっと、だから……、失礼をしてしまうかもしれないので……導王様は、お気遣いを……なのです!」
「マティオラ……」
緊張なのか、畏れなのか、声は震えているし、言葉もたどたどしい。
人間にとってこんな場所で魔族の……しかも、他国の魔族の王に言葉をかけるなどどれほど怖いことだろう。
私のために、勇気を振り絞ってくれたのか。
あぁ……なんて……
なんて……
「かわい……」
「かわいいいいいいい!」
「かっわいい!!!!」
「か、か、か、かわいい!」
思わず口からこぼれた言葉に重なって、背後から叫ぶような声が聞こえた。
「うわぁ……かわいい……」
目の前の魔王も、口元を押さえて呆然とマティオラを眺めている。
「え……?」
マティオラ本人は戸惑いながら周囲や私の顔を見るが……それもまたかわいかった。
無自覚で、私のためにこんな……。
「マティオラ、ありがとう」
「あ……お役に立てたなら、嬉しいです」
まだ騒がしい声を聴きながら微笑みかけると、一瞬で安心したような笑顔になってくれるところもかわいかった。
このかわいいかわいいペットを、誰よりも大切にしようと思った。
「導王! 」
ペットを王座の横に立たせた魔王は、私が近づくと立ち上がって迎えてくれた。
「活躍しているそうじゃないか」
新しく給仕が運んできたワイングラスを私と魔王で合わせると、屈託のない笑顔でそんなことを言ってくれるが……。
「人工魔法石の噂は聞いているぞ。大発明だな? 導王の魔法技術の高さには毎回驚かされるが……今回もとても、とても驚いた。きっと国民は喜んでいるのだろう?」
喜んでいる?
国民と一丸になって作ったものだ。
いや、今日は言葉に噛みついている場合ではない。
「あぁ。お陰で国民からとてもかわいいペットを献上してもらった。ほら、マティオラ。挨拶を」
私が促すと、マティオラは恭しくローブの裾を持って魔王へ頭を下げた。
「はい。導王様のペットのマティオラです。お会いできて光栄です」
挨拶も上手だ。
魔王の威圧感で怯えてしまわないように、城の魔族相手に沢山練習してくれていたものな。
「そうか! 導王もペットを……! とてもかわいい子だ!」
魔王が屈託のない笑顔を浮かべ、マティオラを観ながら何度も頷く。
「あぁ、とてもかわいい」
「そうだな! 人間はとてもかわいく、癒される存在だよな! うちのニマもとてもかわいいんだ……ほら、ニマ?」
魔王の横……斜め後ろ辺りに控えめに立っていた、銀色のパーティー用ジャケットを着た金髪の人間が魔王に並んだ。
前回のパーティーでは他にペットがいなかったから特別に可愛く感じたが、今日は別に……ん?
「初めまして、お会いできて光栄です……」
ん?
遠目では気が付かなかったが、このペット……名前は「ニマ」で、美形で、金髪で、背格好も髪型も年頃も、前回の会議の時のペットと同じに見えたが……まだ慣れていないようなぎこちない笑顔を浮かべる顔は……こんな子だったか?
しかも、今、何と言った?
「初めまして……? 前回のペットとは、別人か?」
「あぁ。そうだ。ペットは三年間契約にしている」
「三年……?」
「常に、一番かわいい姿が見られるし、三年以上も部屋に閉じ込めるのは可哀そうだろう?」
魔王は、優しくペットの肩を抱き寄せるが……は?
優しいようで、残酷なことを言っていると思うのは私だけか?
容姿がかわいいころだけ愛でて、歳をとれば用済みということか?
しかも、部屋に閉じ込める? 部屋から出してやらないのか?
まるで囚人ではないか。
魔王に、こんなにかわいい人間を飼う資格があるように思えない。
「あぁ、マティオラ様が身につけているその魔法石、人工魔法石か? とてもよくできて……」
私が黙ってしまったので、魔王が話を広げようとしてくれたのだろう。魔王の手がマティオラの首にかかる人工魔法石のネックレスへと手が伸びて……。
嫌だ。
人工魔法石にも、マティオラにも、触れられたくない!
嫌だ!
「触るな!」
反射的に魔王の手をはたいていた。
思いのほか大きなパン! という音が大広間に響く。
「あ……」
しまった。
やってしまった……。
「あ……あ、あぁ。そうだな。大事なペットに触れるのは、マナー違反だな。悪かった」
「あ、いや、私も……反射的に、すまない」
魔王は素直に謝ってくれたし、自分でもやりすぎたと後悔した。
お互いに頭を下げて解決することだった。
だが……
「気持ちは解るが、やりすぎだろう?」
「ペットより、魔法石を取られると焦ったのではないか? 貧しい国だからな?」
「まぁまぁ、即位して一〇年も経たない若造だ。マナーも、王としての品格も、これからこれから」
後ろから、私に聞こえるように言っているであろう声が聞こえる。下品な笑い声も。
「導王、すまない。本当に俺が悪かった」
魔王はまた謝ってくれるが……こいつが謝れば謝るほど、私は悪者になる。
「……っ」
腹立たしい。
魔王に? 背後の王たちに?
いや……不甲斐ない自分に、か……。
「あ、あの!」
私が何も言えなくなっていると、マティオラが声を上げてくれた。
震えている。
声も、私の腕を抱く手も。
「私が、私が……魔族様は、畏れ多く、導王様以外には、まだ、なれ、慣れて……おらずえっと、だから……、失礼をしてしまうかもしれないので……導王様は、お気遣いを……なのです!」
「マティオラ……」
緊張なのか、畏れなのか、声は震えているし、言葉もたどたどしい。
人間にとってこんな場所で魔族の……しかも、他国の魔族の王に言葉をかけるなどどれほど怖いことだろう。
私のために、勇気を振り絞ってくれたのか。
あぁ……なんて……
なんて……
「かわい……」
「かわいいいいいいい!」
「かっわいい!!!!」
「か、か、か、かわいい!」
思わず口からこぼれた言葉に重なって、背後から叫ぶような声が聞こえた。
「うわぁ……かわいい……」
目の前の魔王も、口元を押さえて呆然とマティオラを眺めている。
「え……?」
マティオラ本人は戸惑いながら周囲や私の顔を見るが……それもまたかわいかった。
無自覚で、私のためにこんな……。
「マティオラ、ありがとう」
「あ……お役に立てたなら、嬉しいです」
まだ騒がしい声を聴きながら微笑みかけると、一瞬で安心したような笑顔になってくれるところもかわいかった。
このかわいいかわいいペットを、誰よりも大切にしようと思った。
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