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番外編3 一番の●●
軋轢(2)
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「どちらの気持ちも解る」
沈黙を破ったのは、私の隣に座っているエルフの国の森の王だった。
もうすぐ代替わりすると聞いている高齢だがエルフらしいゾっとするような美形の王で、普段はあまり発言しないのだが……エルフは精霊系の魔法を使うので、私たちが魔法石と呼ぶものとは別の魔法石「精霊石」を使う種族だ。この話題に関しては、この場で一番中立と言える。
「それぞれ言い分はあるだろう。しかし、権利は導王の国だ。権利者が断るならこの話は終了。それだけのことだろう?」
「それは……だが、例えば条件を設定するなど……」
魔王は食い下がるが、森の王は肩を竦めた。
「導王、例えば金を好きなだけやるとか、魔法石でも魔導書でも好きなだけやるとか、そんなことを言われても許可は出さないのではないか?」
「あぁ」
「ほら、対話が無駄なこともある。これで話がこじれてまた戦争になると民が泣くだろう?」
「……一度、持ち帰る」
魔王が折れて、この話題は終了となった。
魔王はまだ納得がいっていないようで、その様子に怒りが収まらないが……「味方」と言えるほどでなくても、理解してくれる王がこの場にいたことが嬉しく、その後の会議はなんとかいつも通りこなすことができた。
◆
「森の王、先ほどは助かった」
会議後のパーティーの席で、真っ先に森の王に声をかけた。
この中では珍しくペットを伴わず、いつも一人で黙々と酒を空けている森の王は、ワインのグラスを片手に少し面倒くさそうに呟いた。
「別に。お前はいつも精霊魔法を馬鹿にしないからな。お前の国の技術も尊重すべきと思っている」
そうか……確かに、他の王たちは自分たちの魔力系魔法とは違う精霊魔法を見下しがちだ。
しかし、私は違う。幼いころから魔法に関する正しい知識を身に着け、あらゆる分野に触れて来た。そんな中、自分には扱えない神秘のベールをかぶった精霊魔法は尊敬こそすれ、馬鹿にすることは一度も無かった。いつか詳しく知りたい憧れの魔法だった。
「森の王……! あぁ、精霊魔法は魔力系の魔法とは違った素晴らしい魔法でとても興味がある。もし良ければ、後日魔法に関する会談の場を設けさせてくれないか?」
「……」
森の王は一瞬私の顔を見た後、なぜか私に隠れるように斜め後ろにいるペットのラセイタを一瞥し……ため息を吐いた。
「悪いが、もうすぐ息子に継ぐ。あいつと仲良くしてやってくれ」
「え? あ、あぁ……」
森の王は酒の瓶を持って一番奥のテーブルに行ってしまった。
エルフと仲良くなって精霊魔法の話が聞ければ……そして、誰でも良いからこの針の筵のような王会議の場で、「友だち」と呼べるものができれば……そんな淡い期待は一瞬でかき消された。
「あ、わ、私、何か失礼なことをしましたか?」
私の後ろでラセイタが戸惑った小さな声を上げる。
ラセイタはとても大人しい子で、大人しい子なのに私には慕って、慣れて、自分から近づいてくれるところがかわいい子だ。こういう場所も本当はとても苦手なのに、私のためにいつも頑張ってくれる。
外見もマティオラによく似ていて、でも、マティオラよりは全体的に線が細くて、どこか放っておけない感じもかわいかった。
だが、ラセイタはもう七〇歳を過ぎた。
このパーティー会場の人間で一番高齢なのは誰の目にもあきらかだ。
「いや、大丈夫だ。私の話し方が悪かったんだろう」
ほとんど白くなった頭を撫でてやると、ラセイタはほっとしたように表情を緩めた。
あぁ、かわいい。
心が穏やかになる。
会議中もラセイタが横にいてくれればもう少し落ち着いて発言ができるのに。
沈黙を破ったのは、私の隣に座っているエルフの国の森の王だった。
もうすぐ代替わりすると聞いている高齢だがエルフらしいゾっとするような美形の王で、普段はあまり発言しないのだが……エルフは精霊系の魔法を使うので、私たちが魔法石と呼ぶものとは別の魔法石「精霊石」を使う種族だ。この話題に関しては、この場で一番中立と言える。
「それぞれ言い分はあるだろう。しかし、権利は導王の国だ。権利者が断るならこの話は終了。それだけのことだろう?」
「それは……だが、例えば条件を設定するなど……」
魔王は食い下がるが、森の王は肩を竦めた。
「導王、例えば金を好きなだけやるとか、魔法石でも魔導書でも好きなだけやるとか、そんなことを言われても許可は出さないのではないか?」
「あぁ」
「ほら、対話が無駄なこともある。これで話がこじれてまた戦争になると民が泣くだろう?」
「……一度、持ち帰る」
魔王が折れて、この話題は終了となった。
魔王はまだ納得がいっていないようで、その様子に怒りが収まらないが……「味方」と言えるほどでなくても、理解してくれる王がこの場にいたことが嬉しく、その後の会議はなんとかいつも通りこなすことができた。
◆
「森の王、先ほどは助かった」
会議後のパーティーの席で、真っ先に森の王に声をかけた。
この中では珍しくペットを伴わず、いつも一人で黙々と酒を空けている森の王は、ワインのグラスを片手に少し面倒くさそうに呟いた。
「別に。お前はいつも精霊魔法を馬鹿にしないからな。お前の国の技術も尊重すべきと思っている」
そうか……確かに、他の王たちは自分たちの魔力系魔法とは違う精霊魔法を見下しがちだ。
しかし、私は違う。幼いころから魔法に関する正しい知識を身に着け、あらゆる分野に触れて来た。そんな中、自分には扱えない神秘のベールをかぶった精霊魔法は尊敬こそすれ、馬鹿にすることは一度も無かった。いつか詳しく知りたい憧れの魔法だった。
「森の王……! あぁ、精霊魔法は魔力系の魔法とは違った素晴らしい魔法でとても興味がある。もし良ければ、後日魔法に関する会談の場を設けさせてくれないか?」
「……」
森の王は一瞬私の顔を見た後、なぜか私に隠れるように斜め後ろにいるペットのラセイタを一瞥し……ため息を吐いた。
「悪いが、もうすぐ息子に継ぐ。あいつと仲良くしてやってくれ」
「え? あ、あぁ……」
森の王は酒の瓶を持って一番奥のテーブルに行ってしまった。
エルフと仲良くなって精霊魔法の話が聞ければ……そして、誰でも良いからこの針の筵のような王会議の場で、「友だち」と呼べるものができれば……そんな淡い期待は一瞬でかき消された。
「あ、わ、私、何か失礼なことをしましたか?」
私の後ろでラセイタが戸惑った小さな声を上げる。
ラセイタはとても大人しい子で、大人しい子なのに私には慕って、慣れて、自分から近づいてくれるところがかわいい子だ。こういう場所も本当はとても苦手なのに、私のためにいつも頑張ってくれる。
外見もマティオラによく似ていて、でも、マティオラよりは全体的に線が細くて、どこか放っておけない感じもかわいかった。
だが、ラセイタはもう七〇歳を過ぎた。
このパーティー会場の人間で一番高齢なのは誰の目にもあきらかだ。
「いや、大丈夫だ。私の話し方が悪かったんだろう」
ほとんど白くなった頭を撫でてやると、ラセイタはほっとしたように表情を緩めた。
あぁ、かわいい。
心が穏やかになる。
会議中もラセイタが横にいてくれればもう少し落ち着いて発言ができるのに。
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