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番外編3 一番の●●
何よりも大事なもの(6)
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私は、オファのために何でも差し出せる。
だが、私は王で、私の持ち物はこの国だ。
私が差し出すと言ったものは、愛すべき国民の物でもある。
「人工魔法石の増産は、特に問題ないと思います」
執務室で、魔王との取り決めをまとめた紙を眺めるダリアラが険しい顔をする。
ダリアラ自身はこの取引には賛成で、魔王にも感謝をしていたが……。
「期限を三ヶ月として頂けたのが助かりましたね」
「あぁ」
魔王とも話し合って、仮に天然物の上級三〇〇〇個分を渡すことになった。
あの魔法を発動させるためには仕方がない。国民に負担をかけるが、就労時間が長くなる分の賃金は城の蓄えから出せる。
時間も、三ヶ月あれば毎日遅くまで残業と言うほどではないはずだ。
それでなんとか理解を得られればとは思う。
「問題は、魔王の国に渡すということと、研究への参加か……」
この国で大切に使い、大切に育てている技術なのに。
研究は、国内の優秀な魔法研究者たちが頑張ってくれているのに。
「……まずは、研究所に話を付けてくる」
私も元々頻繁に顔を出す、城の裏手の研究所だ。
自分で言う方が早いだろう。
「私だったら、よそ者に大事な研究について口を出されるのは嫌だ……」
研究所員たちの気持ちが解るだけに、気が重かった。
◆
「オファ様が……」
「異世界……?」
研究所の責任者から現場のものまで、揃いの濃紺のローブを着た老若男女二五人。
全員を会議室に集め、向かい合って立った所員たちに向けて頭を下げた。
ざわざわと囁き合っている声が聞こえた後、濃い赤髪を長く伸ばして後ろで縛っている、もう一五〇〇歳近い年配の研究所長が震える声を上げた。
「こ、こんなことを言っては不謹慎ですが……」
あぁ、きちんと嫌なことは嫌と言ってくれるのだな?
「異世界への異動魔法なんて……この目で……この目で見せて頂きたかった……ッ!」
「え?」
所長が悔しそうに唇を噛んだのを切っ掛けに、他の所員たちも口々に声を上げる。
「導王様は見たんですよね? 後で詳細を教えてください!」
「上級の魔法石を一〇〇〇個も使う大掛かりで贅沢な魔法……見て見たかったぁ!」
私もたいがい魔法好きだが……さすが我が国民といえばいいのか……?
「導王様、ぜひ、ぜひ次に発動の機会があれば、私共にも拝見する機会をお与えください! お願い致します!」
「あ、あぁ……魔王に、相談しておく」
私が戸惑いながら頷くと、所長を始め、他の所員たちも皆笑顔になった。
「ありがとうございます導王様」
一度頭を下げた所長は、今度は穏やかな……慈しむような深い笑顔になっていた。
「……私どもは、このように魔王の国の魔法にもとても興味があります」
「……あ」
まさか……それを伝えたくて、わざとらしく……?
「魔王の国にも、優秀な魔法士が沢山います。研究所で所蔵している魔導書の著者もおられます。きっと、新しい視点をこの研究所にもたらしてくれます」
「導王様、研究者なので政治的なことにあまり興味がなくてすみません。私たちは他国の研究者なんて面白そうな存在、本当に大歓迎なんです!」
「それに、これでオファ様が救えるなんて……オファ様はいつも中庭で城付きの他の魔族のペットと楽しそうにボール遊びをされていますよね? そのお姿が……所員の癒しだったんです。あの方は本当に楽しそうに遊ばれますから」
「それに、導王様とライト様の話題でとても親し気にお話しされるご様子もおかわいらしくて……あのような距離感のペットはまずいません。オファ様は特別にかわいい貴重な存在です!」
「かわいいだけでなく、勉強熱心な方ですよね。城の図書館で借りて行かれる本が日に日に難しいものになっていて……城付きの魔族や研究所員はみんな、オファ様の勉強を、成長を、応援しているんです」
そうなんだ。
オファは本当に素直なかわいい子で、いつも楽しそうで、笑顔で、釣られて笑顔になってしまうんだ。
それに、ライト様と出会ってからは距離が近くなって、沢山気軽に話してくれて、その反面、人間には必要ない難しい勉強もするようになって……。
どこをとっても好きだ。大好きだ。
「そう……だな」
私の表情が緩むと、周りの魔族たちの笑顔が一層優しくなった。
「しかし導王様、私たちは本当に大歓迎でも、国民の中にはよく思わない者もいるかもしれません」
「……あぁ」
私の表情も緩みかけたが、所長の言葉に体が竦む。
その通りだ。そして、国民がそう思ってしまうのは、王である私の今までの行いのせいだ。
「そこで、こちらの条件に関しては、表向きはオファ様の件とは切り離したプロジェクトということにしませんか?」
だが、私は王で、私の持ち物はこの国だ。
私が差し出すと言ったものは、愛すべき国民の物でもある。
「人工魔法石の増産は、特に問題ないと思います」
執務室で、魔王との取り決めをまとめた紙を眺めるダリアラが険しい顔をする。
ダリアラ自身はこの取引には賛成で、魔王にも感謝をしていたが……。
「期限を三ヶ月として頂けたのが助かりましたね」
「あぁ」
魔王とも話し合って、仮に天然物の上級三〇〇〇個分を渡すことになった。
あの魔法を発動させるためには仕方がない。国民に負担をかけるが、就労時間が長くなる分の賃金は城の蓄えから出せる。
時間も、三ヶ月あれば毎日遅くまで残業と言うほどではないはずだ。
それでなんとか理解を得られればとは思う。
「問題は、魔王の国に渡すということと、研究への参加か……」
この国で大切に使い、大切に育てている技術なのに。
研究は、国内の優秀な魔法研究者たちが頑張ってくれているのに。
「……まずは、研究所に話を付けてくる」
私も元々頻繁に顔を出す、城の裏手の研究所だ。
自分で言う方が早いだろう。
「私だったら、よそ者に大事な研究について口を出されるのは嫌だ……」
研究所員たちの気持ちが解るだけに、気が重かった。
◆
「オファ様が……」
「異世界……?」
研究所の責任者から現場のものまで、揃いの濃紺のローブを着た老若男女二五人。
全員を会議室に集め、向かい合って立った所員たちに向けて頭を下げた。
ざわざわと囁き合っている声が聞こえた後、濃い赤髪を長く伸ばして後ろで縛っている、もう一五〇〇歳近い年配の研究所長が震える声を上げた。
「こ、こんなことを言っては不謹慎ですが……」
あぁ、きちんと嫌なことは嫌と言ってくれるのだな?
「異世界への異動魔法なんて……この目で……この目で見せて頂きたかった……ッ!」
「え?」
所長が悔しそうに唇を噛んだのを切っ掛けに、他の所員たちも口々に声を上げる。
「導王様は見たんですよね? 後で詳細を教えてください!」
「上級の魔法石を一〇〇〇個も使う大掛かりで贅沢な魔法……見て見たかったぁ!」
私もたいがい魔法好きだが……さすが我が国民といえばいいのか……?
「導王様、ぜひ、ぜひ次に発動の機会があれば、私共にも拝見する機会をお与えください! お願い致します!」
「あ、あぁ……魔王に、相談しておく」
私が戸惑いながら頷くと、所長を始め、他の所員たちも皆笑顔になった。
「ありがとうございます導王様」
一度頭を下げた所長は、今度は穏やかな……慈しむような深い笑顔になっていた。
「……私どもは、このように魔王の国の魔法にもとても興味があります」
「……あ」
まさか……それを伝えたくて、わざとらしく……?
「魔王の国にも、優秀な魔法士が沢山います。研究所で所蔵している魔導書の著者もおられます。きっと、新しい視点をこの研究所にもたらしてくれます」
「導王様、研究者なので政治的なことにあまり興味がなくてすみません。私たちは他国の研究者なんて面白そうな存在、本当に大歓迎なんです!」
「それに、これでオファ様が救えるなんて……オファ様はいつも中庭で城付きの他の魔族のペットと楽しそうにボール遊びをされていますよね? そのお姿が……所員の癒しだったんです。あの方は本当に楽しそうに遊ばれますから」
「それに、導王様とライト様の話題でとても親し気にお話しされるご様子もおかわいらしくて……あのような距離感のペットはまずいません。オファ様は特別にかわいい貴重な存在です!」
「かわいいだけでなく、勉強熱心な方ですよね。城の図書館で借りて行かれる本が日に日に難しいものになっていて……城付きの魔族や研究所員はみんな、オファ様の勉強を、成長を、応援しているんです」
そうなんだ。
オファは本当に素直なかわいい子で、いつも楽しそうで、笑顔で、釣られて笑顔になってしまうんだ。
それに、ライト様と出会ってからは距離が近くなって、沢山気軽に話してくれて、その反面、人間には必要ない難しい勉強もするようになって……。
どこをとっても好きだ。大好きだ。
「そう……だな」
私の表情が緩むと、周りの魔族たちの笑顔が一層優しくなった。
「しかし導王様、私たちは本当に大歓迎でも、国民の中にはよく思わない者もいるかもしれません」
「……あぁ」
私の表情も緩みかけたが、所長の言葉に体が竦む。
その通りだ。そして、国民がそう思ってしまうのは、王である私の今までの行いのせいだ。
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