魔王さんのガチペット

回路メグル

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第9章 その後の世界 / 新しい仲間と遊びの話

お泊り会(7)

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「とりあえず……こんな話になったけど、どう? イユリちゃん」

 魔王さんの首に腕をまわしたまま振り返ると、イユリちゃんは……うわ。

「う、うぅ、ライトさまぁ……ぼく、が、がんばります! うぅう、せいいっぱい、おつとめ、します! ライト、さまの、くださったチャンス……ぜったい、ぜったい……う、うわぁぁぁん!」

 大号泣。
 まぁ……そうか。そうだよね。ここまで必死に俺に食らいついてきていたけど、まだ一五歳だもんね?

「イユリちゃん……」
「す、すみませっ、こんな……雇用して、いただく、のにっ……こんな、こどもみたいな、すみません、すみませっ、でも、うれしくて……ずっと……僕……ずっと……」
 
 あぁもう、せっかく美青年なのにぐっちゃぐちゃに泣いちゃって。
 もっとキレイで他人の心を掴む泣き方も教えてあげないとな。
 でも今は……

「イユリちゃん」
「ライトさまぁ!」

 立ち上がってイユリちゃんのそばまで行くと、イユリちゃんはぐちゃぐちゃで、一気に幼く見えるようになった笑顔で俺に抱き着いた。

「う、うぅっ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
「ふふっ。俺ね、元の世界に弟が二人いて、ずっと『お兄ちゃん』だったんだ」
「……ひっぐ……うぅ……?」
「イユリちゃんが来てくれると、久しぶりに『お兄ちゃん』できるのも楽しみだな」

 頭をなでると、少しずつ涙が減っていく。

「お兄ちゃんモードの俺って、すっごく過保護でね……めちゃくちゃ優しくするけど、めちゃくちゃ厳しくもするから。覚悟してね?」
「あ……はい!」

 頷いたイユリちゃんは、まだ涙でぐちゃぐちゃだけど、きちんと決意が見える顔になっていた。

「詳しくは、明日のギルドマスターさんとの面会の時に話をしよう。ギルドマスターさんがもし反対したら上手に説得してね? 俺、ギルドマスターさんに嫌われたくないから」
「はい!」

 この様子だとギルドマスターさんへの根回しはできていないだろうから、もめたら嫌だな……こんなしっかりした子、ギルドマスターさんだって自分のギルドで働いてもらうことを楽しみにしていただろうし。

「……はぁ」

 ん?
 ここまでずっとこわばった顔で見守っていたミチュチュちゃんが大きなため息を吐いた。

「まさかイユリがこんなことを考えていたなんて……」
「ミチュチュさん……すみません、僕……」

 ミチュチュちゃんはイユリちゃんが何かを言う前にふっと表情を緩めて頭を撫でた。

「ハレアザート様がもし反対されるなら、僕も一緒に説得する。だから、少しくらいギルドにも貢献してよ?」
「あ……はい! もちろんです! ハレアザート様には絶対に恩返しします! ミチュチュさんや……ギルドの、お兄ちゃんたちにも!」
「うん。僕たちもイユリのことを弟みたいに思っているんだから。ライト様ほど頼りにならないと思うけど、もっと相談したり頼ったりしてよ」
「う、うぅ、ミチュチュさぁん……」

 イユリちゃんは俺の腕の中から離れてミチュチュちゃんに抱き着いた。
 あぁ、俺に抱き着く時よりも遠慮のない距離感だな。

「もう! そんな泣き虫だと安心してライト様のところに送り出せないよ! ほら、ハンカチ使って!」

 二人は血のつながった兄弟ではないはずなんだけど、いいなぁ。微笑ましいな。

「ふふっ」
「……」

 二人から離れて魔王さんの方に戻ると……あれ? かわいい人間同士が目の前で仲良くしているのに魔王さんは険しい顔で何か考え込んでいるようだった。
 雇用に関する懸念とか?

「魔王さん?」

 顔を覗き込みながら隣に座ると、魔王さんは慌てて俺に笑顔を向けてくれた。

「あ、いや……なんだか賑やかになりそうだな」
「うん。ごめんね? お城は魔王さんのお仕事の場なのに」
「構わない。ライトが来てくれてから、どんどん城の雰囲気が明るくにぎやかになっていて……仕事中も気分がいい」
「それならよかった」

 まぁ、懸念点はいろいろあるよね。
 それはこれから俺も一緒に考えてクリアしていこう。なるべく魔王さんの負担にならないように。

「さて、お話も済んだし人間だけのお泊り会に戻ろうか。魔王さん、もうお部屋に帰っていいよ」
「あぁ……そうだな」

 魔王さん、真顔のようでめちゃくちゃ残念そうだな。
 残念に思ってくれるのは嬉しいけど、魔王さんがいると二人が気を使っちゃうだろうし……

「俺が呼んだのに追い出してごめんね? でも、早く帰ってくれないと、魔王さんのこと惚気られないから」
「……惚気るのか?」
「うん。お泊り会の定番の話題と言えば、恋バナだからね。好きな人のことたくさん惚気るの、楽しみにしてたんだ。あ、もちろん、二人がギルドマスターさんのことを惚気るのも楽しみ!」

 ……俺、魔王さんの扱いが上手すぎる。たったこれだけでもう魔王さんは腰を上げた。
 魔王さん、緩んじゃう口元を必死に引き締めようともぞもぞさせるの、かわいいね?

「そうか、そうか! 人間同士はそんなかわいいおしゃべりをするのか! だったら邪魔をしてはいけないな。 俺は部屋に戻ろう」
「うん。俺がいなくてもちゃんとたくさんご飯食べて、ベッドで寝てね?」
「あぁ。ライトに心配をかけないようにする」
「それじゃあ、また明日ね」
「あぁ、また明日」

 俺も立ち上がって……魔王さんの首に手を伸ばした。

「ん……」

 背伸びでも届かないから、首に回した手に力を込めると、魔王さんはその力に一切抵抗せず体を屈めて……唇を重ねてくれた。

「ん……」
「ふっ……ちゅっ」

 唇を重ねて、離すときにわざとらしくリップ音をさせて啄んでから顔を離す。

「っ……」
「じゃあね、魔王さん。今日も大好きだよ」
「あ、あぁ……」

 魔王さんは思い切りにやける顔を大きな掌で隠して……隠しきれない目じりとか耳とかを真っ赤にして、自分の部屋へと戻っていった。
 もう八年間、数えきれないくらいキスをしているのに。
 人目があるときに俺からキスをするとか、ストレートに「好き」って言うとか、魔王さんが喜ぶことをすると最初と同じテンションで喜んでくれる。
 魔族って時間の進みが違うから、みんないつまでも初心なのかな?
 こういう反応をされると、俺もずっと同じテンションで「好き」って思えちゃうからいいんだけど。

「さて、楽しいおしゃべりを再開しようか。こっちのお酒もあけちゃおう!」
「「はい」」

 人間だけに戻った部屋の中で、本当に魔王さんのことを三時間以上惚気たけど二人はずっと楽しそうに聞いてくれた。

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