魔王さんのガチペット

回路メグル

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第9章 その後の世界 / 新しい仲間と遊びの話

デート(2)

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「魔王様、ライト様、ようこそいらっしゃいました。店は貸し切っておりますので、どうぞ気になった品を存分にお試しください」

 薄茶色の髪で茶色の羊角がついた年配の男性魔族さんが頭を下げて、その後ろで同じ髪と角の若い男性魔族さん、女性魔族さんも頭を下げる。店員さんかな?

「うわ……いっぱいある。この中から選ぶって大変。でも……」

 一歩店内に入ると、高級老舗テーラーという雰囲気ではあるけど、置いてある服の数は多い。商品の密集度でいうと百貨店に入るブランド店というよりは、ショッピングモールのファストファッション店に近いな。たくさん置かれた棚やラックに、大量の服が畳んで置かれたり吊られたりしている。
 ところどころに置かれたトルソーが着ている服は、特別豪華な式典用の服が多いけど、楽そうな普段着もたくさん並んでいる。値段も高いものと安いもので桁が二つは違う。
 
「すっごく楽しそう!」
「そうか。どれでも好きなものを選んでくれ」
「魔王さんの服は俺が選んでいいの?」
「そうだな。俺はそういうセンスがない」
「俺の服は?」
「ライトが着たいものを選べばいい。だが……俺の好みも少しだけ……口を出すかもしれない」
「うん。口出しして。俺、魔王さんの好みをわかっているつもりだけど……もっと知りたい」
「あぁ……」
「俺が着やすくて、魔王さんがかわいいって思ってくれる服、どれかな~」

 俺が魔王さんから腕を離して店内を見渡すと……

「「「うぐっ」」」

 すぐ横でうめき声が三人分、聞こえた。
 さっきの店員さんたちだ。

「なんて……なんて、おかわいらしいぃ……」
「うぐぅ、これが本物のライト様……!」
「魔王様の、好み、かわいいって、こんな、見た目も、考え方も、か、かわいい……! かわいいッ!」

 うん。
 そうだった。
 俺、見た目がかわいいうえに魔王さん大好きなところが魔族さんにとってかわいくて仕方がないんだった。
 最近、同じ人とばかり会っていたから、この反応は新鮮。
 こういう意味でもデート、楽しいな。

「どの服も素敵だけど、俺もこの世界の一般的なデートコーデって知らないんだよね。どうしようかな~。いつもと違う雰囲気で……元の世界風のコーディネートをしてもらうのもいいかも」
「それは面白そうだな。ライトが元の世界でどのような格好をしていたのかは興味がある」
「そう? じゃあ……」

 もう一度、店内を見渡す。
 ホスト時代は、わざわざお金を払って会いに来てもらうのにどこでも買えるファストファッションだとつまらないかなと思って、ラグジュアリーブランドとかデザイナーズブランドのマネキンそのままとかファッション雑誌のモデルのコーディネートそのままとか、「これさえ着ていればちょっと凝ったオシャレ」みたいな服を選んでいた。
 ホストの煌びやかな世界ではアレでよかったと思うけど、派手な美形顔にオシャレすぎる服は非日常すぎて……私服やヒモ時代はできるだけシンプルな服を選んでいたな。

「似た服はあるか……」

 シンプルな服の形状って、結局はどの世界や国でも似てくるのかな?
 ジャケットやシャツやズボンは元の世界とあまり変わらない。
 違いが出せるとしたら……

「ジャケットのインナーを変えるとか……?」

 この世界、特に魔族はボタンのついたシャツばっかりだよね。
 俺の服も最初はシャツばかりで、魔王さんのフェチでもあったみたいだけど……どの国に行っても、いろいろな職業の魔族さんに会っても、Tシャツやカットソー姿の魔族さんはほとんどいなかった。
 だから、魔王さんが着たら新鮮で、元の世界っぽくなるはず。
 魔王さん、お仕事でも式典でも詰襟だから首元があいた服は珍しいし、オンオフの切り替えができそうだし……魔王さんのたくましい首筋と鎖骨が見えるのも、いいな。

「魔族様用のお服でしたら、こちらのコーナーです」

 なんとか背筋を伸ばした年配の店員さんが促してくれた棚で、目立つように飾ってあった黒い光沢のあるジャケットを手に取る。

「あぁ、こういうテーラードジャケット! 元の世界の気合いが入ったデートコーデっぽい。あとは……あれ?」
「なにかお探しですか?」
「うん。カットソーとか、Tシャツとか……ボタンのない服って……?」

 見当たらない。
 俺の「魔王さん大好きTシャツ」が大人気商品になるくらいだから、Tシャツはあると思うのに。
 
「申し訳ございません。そういった被り物のお服は、人間のペット様向けのご用意しかございません」
「え? そうなんだ……」

 高級店だから取り扱いがないとか?
 俺が首をかしげていると、ローズウェルさんがそっと近寄ってきてくれた。

「ライト様、我々魔族には角がありますので……」

 角……? あ。
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