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1巻
1-3
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普通に考えたらそのはずなのに、リリリさんは困ったように眉を寄せてしまった。
「わかりません。ただ……その箱は魔王様の指示で数代前から入れていますが、まだ封も切られていない新品です」
「あぁ、そういえば蓋が糊づけされている」
これは……どう考えても魔王さんの「誘われ待ち」だな。
ペットに「これで遊んで」って……犬がボール咥えて「あそんで~!」って駆け寄ってくるような、アレを求めている気がする。
よし。ここぞという時の機嫌とりに置いておこう。
ボードゲームはチェストの奥にそっと仕舞い込んだ。
◆
「あ、魔王さんお疲れ様~」
「あぁ……」
午後七時。魔王さんが俺の部屋にやってきた。
魔王さんは昨日と似たような服装で、後ろには執事長のローズウェルさんがついている。
「魔王さんもお昼ご飯は一二時だった?」
「そうだ」
「じゃあお腹空いたね。今日の夕飯なにかな~」
「あぁ……」
魔王さんは少し戸惑いながら俺の向かいのソファに座り、それを見たローズウェルさんが一度部屋の外に出て、廊下からワゴンを押して入ってくる。
「では、ご用意致します」
俺の目の前に、ソースのかかったステーキと、肉団子のようなものが浮いたスープ、クリーム系ソースのショートパスタ風のもの、ずっしり重いパンが並ぶ。
魔王さんの前にも同じメニューの皿が並ぶけど、量はおそらく俺の……五倍くらい? いくら体格差があるといっても、すごい量だな。
「食後のお茶と焼き菓子は後ほどお持ち致します」
ローズウェルさんがお辞儀をして部屋の外に出る。
昨日もそうだったけど、このお城はコースじゃなく一気に料理を出すのがスタンダードか。
ペットに対してだけでなく、一番偉い人にもこの出し方なら、これが普通なんだろう。
ちなみに、どういう仕組みかわからないけど、皿に置いていればずっと料理があつあつだ。魔法かな? この仕組みいいな。
「美味しそう。それじゃあ、いただきます」
「……?」
俺が手を合わせてからフォークに手を伸ばすと、魔王さんは不思議そうな顔をした。
「あぁ、食べる前になにか言わない?」
「特に言うことはない」
「そっか。俺は言うけど気にしないで。俺のいた国の風習だから」
「風習?」
魔王さんがすごく不思議そうにしながらナイフとフォークを手に取る。
今までに異世界から来たペットもいるらしいのに……日本人じゃなかったのかな?
「これはね、色々な命をいただきます、美味しくいただきます、材料も料理も作ってくれてありがとうございます……みたいな感謝の気持ちで言って、食べ終わったらごちそうさまって言うのが決まり」
「感謝……なるほど、ライトの種族は優しい種族なのだな」
「そうなのかな?」
「そのちょこんと手を合わせる姿もかわいらしいし、いい風習だと思う」
魔王さんは少し照れたような笑顔でステーキを大きく切って口に運ぶ。
ちょこんと?
かわいい?
指先までかっこよく見えるように意識はしているけど……かわいいか。この世界の基準、掴めているようで掴めていないな。
まぁ、そのうちわかるか。あ、このステーキ美味しい。
「ん……そうだ。これ、魔王さんと俺と、同じメニュー?」
「あぁ。ペットは俺と同じように丁重に扱うように言っているからな。量だけは、体に合わせて調整しているが」
「体……確かに魔王さん大きいけど、そんなに食べるんだ?」
「魔王は魔力が人一倍必要だからな。食事からも摂取しないといけないんだ……」
楽しそうだった魔王さんが、憂鬱そうにため息をつく。
その量、魔王さん的には嫌なのかな?
「そっか。でも、ご飯が同じならよかった」
「……?」
「味の感想とか言い合いながら食べられるね」
「味……」
魔王さんが意外そうにしながらステーキを口に入れる。もう二枚目だ。
「このお城のご飯、どれも美味しいから。『これ美味しいね~』って言いながら食べたかったんだ」
「……そうか……」
「このステーキ、焼き加減が絶妙だし上にかかっているソースもトマトベース? 甘酸っぱくて美味しい」
「……そう、だな……」
「魔王さん、今日の料理ならどれが好き?」
ショートパスタをスプーンですくいながら尋ねると、魔王さんはまた意外そうな顔をした後、すぐに手前の皿を指差した。
「え? あぁ……地味かもしれないが、この丸いパンが好きだな。ライ麦を混ぜたパンにバターをたっぷりつけて食べるのが好きで、城のパン職人も腕利きを雇っているんだ」
「あ! 朝もこのパンじゃなかった? 美味しいけど……朝のほうが焼きたてで、もっと美味しかったかも」
「そうなんだ。職人の負担も考えて朝に一日分をまとめて焼かせるから、朝が一番美味い」
魔王さんの表情があからさまに緩んだ。
うんうん。好きなものの話をするのっていいよね。
「今も充分美味しいけどね。毎日このパン?」
「いや、日替わりだ。ただ、俺がこれが好きだから、他のパンよりもよく出てくる」
「へ~。みんな魔王さんに美味しいものを食べてもらうために考えているんだね」
俺の言葉に魔王さんの手が止まる。
「ライト……」
「なに?」
濃厚なパスタを味わいながら笑顔で首を傾げると、魔王さんは少し泣きそうな笑顔になった。
「誰かと、美味いと言い合いながら食べる食事は、一層美味く感じるんだな。それに……」
魔王さんが再び手を動かして、大きく切ったステーキを頬張った。
「ライトが美味そうに食べる顔を見ると、俺も食う気になる」
「そうだね。このお城のご飯、全部美味しいよね」
とぼけて笑顔を向けると、魔王さんは笑顔を深めてうなずき、残りの料理も美味しそうに食べていた。
食事の後は、三〇分ほどゆっくり紅茶と焼き菓子を楽しんでいたけど「まだ仕事が残っているんだ」と言って魔王さんは部屋を出ていってしまった。
今日はこれで終わりか……ペットの役割を果たせたかは微妙だけど、まだ二日目。
ゆっくり様子を見よう。
◆
翌朝、朝食のワゴンを押してきたリリリさんと一緒に、ローズウェルさんと、お城のお世話係と言っていたドーラルさんも入ってきた。
「「「おはようございます、ライト様」」」
「おはよう。今朝は人が多いね」
今朝は少し早めに起きたから、着替えもヘアセットも済んでいてよかったけど……この人数、なんだろう?
「実は、ライト様におうかがいしたいことがありまして」
俺が座るソファの横に立った黒いゴシックドレスで紫髪のドーラルさんが、一礼してから口を開く。
「ライト様……もしかして昨夜のお食事、ライト様が魔王様の分も召し上がったのですか?」
「え? 食べてないよ。自分の分で充分お腹いっぱいだったから」
「では、魔王様が全てご自身で召し上がられたのですね……!」
「うん。自分の皿の料理は全部食べていたよ」
俺の返事に、朝食をテーブルに並べていたリリリさん、ポットからお茶を注いでいたローズウェルさんも手を止めて感嘆の声を上げた。
「あぁ……!」
「おぉ……!」
「ライト様、魔王様になにかなさったのですか!?」
「なにか? これ美味しいね~って言いながら食べていたら、魔王さんも『美味いと言いながら食べると美味いな』とか『ライトが美味そうに食べると食欲が湧く』みたいな感じのことを言ってくれたけど……それ以外は、別に?」
「すごいです!」
「なんと!」
「やはりライト様のお陰!」
三人の声が明らかに弾んで、かしこまった顔から子供のように嬉しそうな笑顔になる。
喜んでもらえるのは嬉しいけど、この喜ばれ方は完全に想定外だな……
「いつもあんなに食べないの? すごい量だったから、残す前提の料理なのかと思ったけど」
「えぇ、そうなんです! でも、魔王様にはあの量が必要なんです!」
必要?
お上品なマダムだと思っていたドーラルさんが、興奮した様子で続ける。
「魔王様はお仕事で膨大な量の魔力を使われるので、召し上がっていただかないといけないのですが、魔王様は食が細くて……ねぇ!?」
「はい! 料理長はもちろん、私たちメイドも、執事も、味つけや器、見た目……色々と工夫をしていたんですが……」
「ライト様! これからも毎日、魔王様とお食事をとっていただけますかしら!?」
圧がすごい……元々そのつもりだけど。
「うん。いいよ。でも、あんまり期待しないでね? 偶然かもしれないから」
「偶然でもなんでも、一度でもあの量を食べていただけたことが奇跡ですわ!」
「はぁ……よかった……本当に、よかった……」
えぇ……ローズウェルさん涙ぐんでない?
そこまで? ……なんか、逆に申し訳ないな……
「失礼致します」
「あ、料理長ですわ。彼もどうしてもお礼が言いたいと!」
「料理長さん……?」
ドアが開いて入ってきたのは白いコックスーツを着た全体的に丸っこい感じの、茶髪で茶色い口髭のおじさん。
白い帽子からは牛っぽい角が出ていて……えぇー……最初から泣いている。
「ありがとうございます、ライト様! 今朝の魔王様の魔力量、申し分ない量でした! ライト様とのお食事のお陰です! ありがとうございます!」
「なんかよくわからないけど……魔王さんの体調がいいってこと? よかった」
「うぅ、お優しい、かわいらしい……天使様だ……」
料理長さんがどこから取り出したのか、ハンカチで涙を拭くし、その横でローズウェルさんも涙ぐむどころか完璧に泣いていた。
「う、うぅ、魔王様……よかった……ライト様、見た目が美しいだけでなく、心まで美しい……」
ローズウェルさん、クール系だと思ったのに……号泣になっている。
……さすがに、そろそろ笑顔が引きつりそう。
「う、うぅ、私たち料理人がいくら料理を工夫してもなかなか全ての量は召し上がらなくて……料理は褒めていただき、労っていただくのですが……やっと、やっと私たちの料理が報われました! ライト様には感謝してもしきれません! ささやかですがお礼として、どうぞ、ライト様のお好きな食べ物や料理へのリクエストなどありましたら、なんなりとお申しつけください!」
泣きながら頭を下げられるようなことは絶対にしていないんだけど……ちょっと気になっていたことがあるし、せっかくならお願いするか。
「じゃあ、一つお願いしようかな」
◆
午後七時。昨日と同じく魔王さんが部屋にやってきた。
「お疲れ様。あれ? 今日、顔色いいね」
「あぁ。今日は魔力に余裕があるからだろう。昨夜ライトとたっぷり食事をとったお陰だな」
「そういえば昨日言ってたね。食事から魔力を摂取するって」
「そこからだけではないが、食事は大事な要素の一つだな」
ソファに向かい合って座り、今日もローズウェルさんがテーブルに食事をセッティングしてくれる。今日のメインはハンバーグか……魔王さんのハンバーグは俺のハンバーグの五倍くらい大きいけど、中までちゃんと火が通っているのかな?
「へぇ。じゃあ今日もいっぱい食べないとね」
「そうだな」
ローズウェルさんが部屋を出た後、俺が「いただきます」と手を合わせるのを眩しそうに眺めてから、魔王さんの手にナイフとフォークが握られる。
メイン以外はベーコン? ハム? たっぷりのトマトソースのショートパスタと、ポタージュっぽいスープ……これ、押し麦だっけ? つぶつぶしたものが入っている。あとはパンとバター、それに……
「……それは?」
「あぁ、これは俺だけのスペシャルメニュー。料理長さんに我儘言っちゃった」
俺の食事は全体的に昨日より量を少なくしてもらって、代わりに一品多い。
オリーブオイルと塩のかかった、ほうれん草とトマトと玉ねぎのサラダだ。
「ライトは野菜が好きなのか?」
「味は普通かな。お肉のほうが美味しいと思う」
「では、なぜ?」
魔王さんが不思議そうに、ハンバーグを噛みしめながら首を傾げた。
やっぱり、魔族は人間の生態を知らないんだな……
「美容と健康のため」
「美容と……健康?」
「そう。人間って、野菜に含まれる栄養をとらないと肌が荒れたり内臓が弱ったり……美容にも健康にもよくないから」
料理長さんと相談したけど、魔族は主に肉と穀物……おそらくたんぱく質と炭水化物からエネルギーをとるみたいで、野菜や果物は「味や彩りのため」に少し使う程度らしい。
人間の村では普通に野菜もたくさん食べていたけど、歴代のペットたちも、自分たちの食生活に野菜がどれくらい必要かは把握していなかったのかも。
村では科学的に解明されていないけど、体が欲して食べているとかそういうことだと思う。
だから、お城ではずっと魔王さんと同じ、肉と穀物中心の食事を受け入れていたみたいなんだけど……
「では、野菜を食べないと……し、死ぬのか?」
「すぐに死ぬことはないよ。でも、まったく食べていなかったら……長生きは難しいかもね」
「そう、だったのか……俺は、今までの人間に……」
「大丈夫、大丈夫、俺は人一倍美容と健康に気をつけているだけだから、若い男の人は三年くらい肉と麦ばっかり食べていてもおかしくならないよ」
……たぶん。
栄養士でもなんでもない俺のなんとなくの感覚だけど。
ソースなんかで多少はトマトとか野菜も摂取できるし。スイーツにフルーツも使うみたいだし。
「しかし……いや、そうか。俺は人間を可愛がっているつもりで……これからは気をつける。教えてくれてありがとう、ライト」
「俺のほうこそ、料理長さんに我儘言ってごめんね?」
実は、昼食と夕食にサラダか温野菜、野菜スープなんかをつけてほしいというのと、朝ご飯にスムージーを作ってほしいという我儘も言っている。冷凍技術があるらしいから、作り置きの方法も伝えたけど……快く引き受けてくれた料理長さんには感謝しかない。絶対に手間だからね。
「いや、他にもライトの健康のために必要なことがあれば、なんでも遠慮なく言ってほしい。料理長たちにも伝えておく」
すでに料理長さんは「それくらいのこと、いくらでもお任せください! 魔王様のお食事への心配に比べればこれくらいなんてことないですし、野菜料理なんてあまり作らないから面白いです」と言ってくれている。いい人だなぁ。
それに、魔王さんのこと大好きなんだろうな。
「俺の健康も気遣ってくれてありがとう。でも、魔王さんも自分の体を気遣ってね? ほら、お皿にまだいっぱい残ってるよ」
「あ、あぁ……」
ちょっと真面目な話をしたから食が進まないのか、特大ハンバーグはまだ三分の一も減っていない。
サラダをつけてもらった分、仕事するか。
「あー! 魔王さんのハンバーグのほうが分厚くて美味しそう! 一口ちょうだい?」
「そうか? 好きなだけ食べればいい」
無邪気に声を上げると、魔王さんは俺へお皿を向けてくれる。
遠慮なく一口サイズに切って口に運び……こんなに分厚いのにちゃんと中まで火が通っていてジューシーで美味しい……元の世界よりシンプルな味のような気はするけど、普通に美味しい。よしよし。
「……んん! うん! やっぱり分厚いほうが美味しい!」
口の中に肉汁が広がった瞬間、満足感を素直に表情に出すと、魔王さんは楽しそうに俺に向ける目を細めた。
食事の手は止まってしまっているけど……
「ほら、魔王さんも食べ比べてみて? はい、あーん」
「え?」
俺の皿のほうのハンバーグを切って、魔王さんの口元に近づける。
魔王さんは戸惑っているけど……もう一押し。
「お口、あーんって開けて?」
「あ、あーん?」
俺が口を開けてみせると、魔王さんもぎこちなく口を開けてくれた。
わ。デカいし、牙とまでいかないけど犬歯が尖っていて強そうな口。
肉料理がよく似合うな。
「これが俺のほうね? で、次が魔王さんの分厚いほう。はい、あーん」
ハンバーグを押し込んで、咀嚼している間に魔王さんの皿のハンバーグを大きめに切る。
「あーん……」
今度は魔王さんからすぐに口を開けてくれたので、そっとハンバーグを入れる。
「ね? 魔王さんのほうが美味しいよね?」
「……そう……かもな」
「えぇ、絶対にそうだよ! ほら、もう一口! よく味わってみて? あーん」
「あ、あーん……」
なんだかんだ言っているうちに、俺のハンバーグの五倍はあったハンバーグが、魔王さんの胃袋に消えた。よしよし。
◆
食後は、食器を片づけに来たローズウェルさんが置いていってくれたお茶と焼き菓子。
クッキー? ビスケット? ガレット? みたいなものから、マドレーヌ? マフィン? パウンドケーキ? みたいなものまで八種類。昨日も似たようなお菓子を用意されて、俺は一つだけ食べた。
味はよかったんだけど……バターも砂糖もたっぷりで胃に重いし……カロリーを考えると……我慢した。
魔王さんは四つくらい食べていたかな。
食べている時の反応からして、どうやら魔王さんは焼き菓子が好きなようなんだけど、俺が食べないから遠慮しているのか食欲が湧かないのか……意外と繊細な人みたいだ。
だから今日は、考えがある。
「俺、お腹いっぱいだから一つだけにしておこうと思うんだよね」
「そうか……」
魔王さんが少し寂しそうに眉尻を下げる。
ほら、やっぱり俺と一緒に好物を食べたい感じ?
だったら……
「でも、八種類もあるから、すごく悩む」
「そうだろうな」
「だから、魔王さんが全種類食べて一番美味しかったのを俺に教えて? 俺、それだけ食べるから」
悪びれもせずお茶の入ったカップを持ち上げると、魔王さんは驚いた顔をした後、楽しそうに声を上げた。
「は、ははっ、便利に使われてしまうな」
「ごめんね?」
「まぁいい。これも飼い主の仕事だろう。そうだな……まずはこれから」
魔王さんは楽しそうに焼き菓子を一つずつ食べて、簡単に味を解説してくれた。
食レポは……まぁ、上手でも下手でもない。
「俺はこれが好きだ。でも、甘いほうがいいならこっちだな」
「じゃあ魔王さんオススメの……ナッツのクッキー?」
「あぁ」
「いただきまーす。ん、うん。美味しい。ナッツも美味しいけど、まず生地がいいよね。このお城、小麦を使った料理もお菓子もよく出てくるけど全部美味しい! でも、よかった。俺は小麦アレルギーじゃないけど弟にはあるから……弟がこの世界に来ていたら、食事困っただろうな」
「小麦……アレルギー?」
美味しいけど口の中の水分を奪っていくクッキーをのみ込み、お茶で口内を潤していると、魔王さんが不思議そうに首をひねる。
「人間って、人によって合わない食材があるんだ。俺もお医者さんじゃないからちゃんとした説明ができないんだけど……小麦が合わないとか、卵が合わないとか、牛乳、えび、そば、りんご、大豆、はちみつ……食材以外にもホコリとか花粉とかがダメな人もいるね」
「それは、食べるとどうなるんだ?」
「体がかゆくなったり目とか口とか鼻がしんどくなったり……ひどい時は呼吸がちゃんとできなくて死んじゃう場合もあるよ」
「死……!?」
魔王さんがひどく驚いた顔をする。
そりゃあそうか。人間好きからしたら、人間が死ぬのは嫌だよね。
「人間全員によくない、わかりやすい毒とは違って、個人差があるのが厄介だよね。それに、子供の頃は大丈夫だったのに、大人になってからダメになる場合もあるし、逆に大丈夫になる場合もあるし……」
「人間は……そんなにも個人差があるのか」
「そうだよ。魔王さんから見たら人間はみんな等しくかわいいペットかもしれないけど、個性が色々あるんだよ。ほら、俺なんか特に他の人間より美人でしょう?」
「はは。そうだな。ライトが一番美人だ」
一瞬複雑そうな顔をした後、魔王さんはいつもの蕩けそうな笑顔で俺を見ていた。
でも、熱っぽい視線なのに……ちょっと寂しそうな気がした。
◆
お城に来て四日目の朝。
「ライト様、今朝も魔王様の魔力量が多く、料理長はじめ、みんなとても感謝しております!」
「そう? よかった。俺も野菜いっぱいで肌の調子も体の調子もいいよ」
リリリさんが運んでくれた今日の朝食は、パン、目玉焼き、そして俺のリクエストのグリーンスムージー。
「特にこれ、手間かけちゃったよね。料理長さんにお礼言っておいて」
「承知致しました」
スムージーは、正直に言えば美味しくはないけど、ちゃんと俺がリクエストした食材っぽい味がして、健康のためには最高の出来だった。この世界、ミキサーがないみたいで、「すり鉢やおろし金で作ります」って言っていたから……もう、本当、感謝しかない。
「あの……ライト様。よろしければ、お食事が終わったら御髪を結いましょうか?」
「ん? あぁ、今日は下ろしておこうかなと思っているんだけど」
いつもは俺の自慢の顔がよく見えるように、緩く後ろに流したハーフアップ。
ずっとそれでもいいんだけど、毎日縛っていると毛根が……とか言わない?
だから、たまに下ろして真ん中辺りで分けたワンレンボブにすることにしている。
こっちの髪型だと、キレイな顔がチラ見えして色っぽい……とよく言われる。
「えっと……あの、ペットの方には結っていただく決まりで」
「そうなの? 下ろしているとマナー違反? だらしない?」
「いえ、そうではなく……」
リリリさんが困ったように眉を寄せる……この流れ、覚えがある。
「あ、もしかして魔王さんの好みってこと?」
「そ……そんな感じ、です」
シャツに続き、魔王さんの性癖か。
ハーフアップは俺も好きだけど、うーん。そうだなぁ……
「リリリさん、魔王さんが特に好きな結い方ってあるの?」
俺が朝食の皿をほぼ空にして、お茶のカップを持ち上げながら首を傾げると、リリリさんはなぜか嬉しそうに声を上げた。
「はい、あります!」
「じゃあ、今日はそれをやってみてもらおうかな」
「承知致しました! 少々お待ちください」
食器を片づけたリリリさんは洗面所へ走っていき、手鏡やブラシ、青色のリボンを手に戻ってくる。
「では、魔王様が一番好まれる『ニマ風』にさせていただきます!」
「よろしく~」
ソファの後ろに回ったリリリさんは、手際よく俺の髪にブラシをあてて、慣れた手つきで編み込んだり結んだり凝った髪型にしてくれる。
魔王さんの好みなら覚えておいてもいいんだけど……思ったより面倒そうだな。
それに、ニマ風?
ニマって歴代ペットの名前だよね? なんだろう……ニマってタマとかポチみたいな定番のペット名だと思っていたけど、違うのか……?
「できました!」
リリリさんが大きめの手鏡二枚を使って後ろ側も見せてくれた。「ニマ風」は、左側は普通に編み込みで、右側は細めの青いリボンを髪と共に編み込んだハーフアップ。まとめたところはリボンを……これどう結んでいるんだろう? 花みたいになっている。
「かわいいけど、自分ではできないやつだ。リリリさんありがとう」
「いえ! メイドの仕事の一つですし……かわいいペット様をかわいくするのはとても楽しい……いえ、光栄なことですので!」
リリリさんがすごく楽しそうでよかったけど……あれか。犬や猫、かわいいお人形を着飾って遊びたい的な? まぁ、楽しいなら俺も楽しいし、いいんだけど……できあがったこの髪型を見ても、先ほどの疑問は解消しない。
聞くしかないか。
「ねぇ、これってなんで『ニマ風』って言うの?」
「それは、えーっと……魔王様が『ペットといえばこれだ』と思われていて、ペットといえば、ニマ様なので……あの、普段はペット様をニマ様と呼ぶので……」
説明の歯切れが悪い。
リリリさんが説明ベタなのか、それとも……
「ニマっていうのが、魔王さんの理想のペット像って感じ?」
「えっと……そうといえば、そうですね……」
元の世界で言う、「タマ」「ポチ」みたいな、スタンダードなペットのイメージがあるのかと思ったけど、違うのか。
ということは……
「魔王さんのペット、一人目からニマって名前だったんだよね?」
「はい。そうです」
「ふーん。じゃあ、その初代ニマちゃんが素敵だったから、その後のペットにも同じようなことを求めているとか?」
テキトーな憶測だったけど、リリリさんがピクッと顔を引きつらせて固まってしまう。
あ。正解?
「だから、容姿や年齢の基準が厳しいんだ? なるほどね」
「すみません。別に口止めはされていないのですが……他の人間の代わりだなんて言うのはペット様に申し訳ないと思って、その……」
リリリさんは頭を下げるけど、別にリリリさんがなにかしたわけじゃないよね?
「なんで謝るの? むしろ教えてくれてありがとう。魔王さんの求めているものがわかるほうが、俺もやりやすいよ」
「……ライト様……」
「ねぇ、もう少しそのニマちゃんのこと教えてくれる?」
「あ……はい!」
顔を上げたリリリさんは、笑顔で初代ニマちゃんについて色々と教えてくれた。
リリリさんはきっと、俺が魔王さんに気に入られるために「ニマちゃんに近づこうとしている」と思ったんじゃないかな。
ごめんね。違う。
正直「マズイ」と思ったんだ。
これは早急に、魔王さんがペットに「ニマ像」を求めることをやめてもらわないと。
様々な人間の個性を楽しもうって思ってもらわないと。
そうじゃないと、ここから三年間、俺を愛してもらうのが難しくなってしまうかもしれない。
凝ったハーフアップにされた頭が、いや、髪が……髪の根元が、妙に重く感じた。
「わかりません。ただ……その箱は魔王様の指示で数代前から入れていますが、まだ封も切られていない新品です」
「あぁ、そういえば蓋が糊づけされている」
これは……どう考えても魔王さんの「誘われ待ち」だな。
ペットに「これで遊んで」って……犬がボール咥えて「あそんで~!」って駆け寄ってくるような、アレを求めている気がする。
よし。ここぞという時の機嫌とりに置いておこう。
ボードゲームはチェストの奥にそっと仕舞い込んだ。
◆
「あ、魔王さんお疲れ様~」
「あぁ……」
午後七時。魔王さんが俺の部屋にやってきた。
魔王さんは昨日と似たような服装で、後ろには執事長のローズウェルさんがついている。
「魔王さんもお昼ご飯は一二時だった?」
「そうだ」
「じゃあお腹空いたね。今日の夕飯なにかな~」
「あぁ……」
魔王さんは少し戸惑いながら俺の向かいのソファに座り、それを見たローズウェルさんが一度部屋の外に出て、廊下からワゴンを押して入ってくる。
「では、ご用意致します」
俺の目の前に、ソースのかかったステーキと、肉団子のようなものが浮いたスープ、クリーム系ソースのショートパスタ風のもの、ずっしり重いパンが並ぶ。
魔王さんの前にも同じメニューの皿が並ぶけど、量はおそらく俺の……五倍くらい? いくら体格差があるといっても、すごい量だな。
「食後のお茶と焼き菓子は後ほどお持ち致します」
ローズウェルさんがお辞儀をして部屋の外に出る。
昨日もそうだったけど、このお城はコースじゃなく一気に料理を出すのがスタンダードか。
ペットに対してだけでなく、一番偉い人にもこの出し方なら、これが普通なんだろう。
ちなみに、どういう仕組みかわからないけど、皿に置いていればずっと料理があつあつだ。魔法かな? この仕組みいいな。
「美味しそう。それじゃあ、いただきます」
「……?」
俺が手を合わせてからフォークに手を伸ばすと、魔王さんは不思議そうな顔をした。
「あぁ、食べる前になにか言わない?」
「特に言うことはない」
「そっか。俺は言うけど気にしないで。俺のいた国の風習だから」
「風習?」
魔王さんがすごく不思議そうにしながらナイフとフォークを手に取る。
今までに異世界から来たペットもいるらしいのに……日本人じゃなかったのかな?
「これはね、色々な命をいただきます、美味しくいただきます、材料も料理も作ってくれてありがとうございます……みたいな感謝の気持ちで言って、食べ終わったらごちそうさまって言うのが決まり」
「感謝……なるほど、ライトの種族は優しい種族なのだな」
「そうなのかな?」
「そのちょこんと手を合わせる姿もかわいらしいし、いい風習だと思う」
魔王さんは少し照れたような笑顔でステーキを大きく切って口に運ぶ。
ちょこんと?
かわいい?
指先までかっこよく見えるように意識はしているけど……かわいいか。この世界の基準、掴めているようで掴めていないな。
まぁ、そのうちわかるか。あ、このステーキ美味しい。
「ん……そうだ。これ、魔王さんと俺と、同じメニュー?」
「あぁ。ペットは俺と同じように丁重に扱うように言っているからな。量だけは、体に合わせて調整しているが」
「体……確かに魔王さん大きいけど、そんなに食べるんだ?」
「魔王は魔力が人一倍必要だからな。食事からも摂取しないといけないんだ……」
楽しそうだった魔王さんが、憂鬱そうにため息をつく。
その量、魔王さん的には嫌なのかな?
「そっか。でも、ご飯が同じならよかった」
「……?」
「味の感想とか言い合いながら食べられるね」
「味……」
魔王さんが意外そうにしながらステーキを口に入れる。もう二枚目だ。
「このお城のご飯、どれも美味しいから。『これ美味しいね~』って言いながら食べたかったんだ」
「……そうか……」
「このステーキ、焼き加減が絶妙だし上にかかっているソースもトマトベース? 甘酸っぱくて美味しい」
「……そう、だな……」
「魔王さん、今日の料理ならどれが好き?」
ショートパスタをスプーンですくいながら尋ねると、魔王さんはまた意外そうな顔をした後、すぐに手前の皿を指差した。
「え? あぁ……地味かもしれないが、この丸いパンが好きだな。ライ麦を混ぜたパンにバターをたっぷりつけて食べるのが好きで、城のパン職人も腕利きを雇っているんだ」
「あ! 朝もこのパンじゃなかった? 美味しいけど……朝のほうが焼きたてで、もっと美味しかったかも」
「そうなんだ。職人の負担も考えて朝に一日分をまとめて焼かせるから、朝が一番美味い」
魔王さんの表情があからさまに緩んだ。
うんうん。好きなものの話をするのっていいよね。
「今も充分美味しいけどね。毎日このパン?」
「いや、日替わりだ。ただ、俺がこれが好きだから、他のパンよりもよく出てくる」
「へ~。みんな魔王さんに美味しいものを食べてもらうために考えているんだね」
俺の言葉に魔王さんの手が止まる。
「ライト……」
「なに?」
濃厚なパスタを味わいながら笑顔で首を傾げると、魔王さんは少し泣きそうな笑顔になった。
「誰かと、美味いと言い合いながら食べる食事は、一層美味く感じるんだな。それに……」
魔王さんが再び手を動かして、大きく切ったステーキを頬張った。
「ライトが美味そうに食べる顔を見ると、俺も食う気になる」
「そうだね。このお城のご飯、全部美味しいよね」
とぼけて笑顔を向けると、魔王さんは笑顔を深めてうなずき、残りの料理も美味しそうに食べていた。
食事の後は、三〇分ほどゆっくり紅茶と焼き菓子を楽しんでいたけど「まだ仕事が残っているんだ」と言って魔王さんは部屋を出ていってしまった。
今日はこれで終わりか……ペットの役割を果たせたかは微妙だけど、まだ二日目。
ゆっくり様子を見よう。
◆
翌朝、朝食のワゴンを押してきたリリリさんと一緒に、ローズウェルさんと、お城のお世話係と言っていたドーラルさんも入ってきた。
「「「おはようございます、ライト様」」」
「おはよう。今朝は人が多いね」
今朝は少し早めに起きたから、着替えもヘアセットも済んでいてよかったけど……この人数、なんだろう?
「実は、ライト様におうかがいしたいことがありまして」
俺が座るソファの横に立った黒いゴシックドレスで紫髪のドーラルさんが、一礼してから口を開く。
「ライト様……もしかして昨夜のお食事、ライト様が魔王様の分も召し上がったのですか?」
「え? 食べてないよ。自分の分で充分お腹いっぱいだったから」
「では、魔王様が全てご自身で召し上がられたのですね……!」
「うん。自分の皿の料理は全部食べていたよ」
俺の返事に、朝食をテーブルに並べていたリリリさん、ポットからお茶を注いでいたローズウェルさんも手を止めて感嘆の声を上げた。
「あぁ……!」
「おぉ……!」
「ライト様、魔王様になにかなさったのですか!?」
「なにか? これ美味しいね~って言いながら食べていたら、魔王さんも『美味いと言いながら食べると美味いな』とか『ライトが美味そうに食べると食欲が湧く』みたいな感じのことを言ってくれたけど……それ以外は、別に?」
「すごいです!」
「なんと!」
「やはりライト様のお陰!」
三人の声が明らかに弾んで、かしこまった顔から子供のように嬉しそうな笑顔になる。
喜んでもらえるのは嬉しいけど、この喜ばれ方は完全に想定外だな……
「いつもあんなに食べないの? すごい量だったから、残す前提の料理なのかと思ったけど」
「えぇ、そうなんです! でも、魔王様にはあの量が必要なんです!」
必要?
お上品なマダムだと思っていたドーラルさんが、興奮した様子で続ける。
「魔王様はお仕事で膨大な量の魔力を使われるので、召し上がっていただかないといけないのですが、魔王様は食が細くて……ねぇ!?」
「はい! 料理長はもちろん、私たちメイドも、執事も、味つけや器、見た目……色々と工夫をしていたんですが……」
「ライト様! これからも毎日、魔王様とお食事をとっていただけますかしら!?」
圧がすごい……元々そのつもりだけど。
「うん。いいよ。でも、あんまり期待しないでね? 偶然かもしれないから」
「偶然でもなんでも、一度でもあの量を食べていただけたことが奇跡ですわ!」
「はぁ……よかった……本当に、よかった……」
えぇ……ローズウェルさん涙ぐんでない?
そこまで? ……なんか、逆に申し訳ないな……
「失礼致します」
「あ、料理長ですわ。彼もどうしてもお礼が言いたいと!」
「料理長さん……?」
ドアが開いて入ってきたのは白いコックスーツを着た全体的に丸っこい感じの、茶髪で茶色い口髭のおじさん。
白い帽子からは牛っぽい角が出ていて……えぇー……最初から泣いている。
「ありがとうございます、ライト様! 今朝の魔王様の魔力量、申し分ない量でした! ライト様とのお食事のお陰です! ありがとうございます!」
「なんかよくわからないけど……魔王さんの体調がいいってこと? よかった」
「うぅ、お優しい、かわいらしい……天使様だ……」
料理長さんがどこから取り出したのか、ハンカチで涙を拭くし、その横でローズウェルさんも涙ぐむどころか完璧に泣いていた。
「う、うぅ、魔王様……よかった……ライト様、見た目が美しいだけでなく、心まで美しい……」
ローズウェルさん、クール系だと思ったのに……号泣になっている。
……さすがに、そろそろ笑顔が引きつりそう。
「う、うぅ、私たち料理人がいくら料理を工夫してもなかなか全ての量は召し上がらなくて……料理は褒めていただき、労っていただくのですが……やっと、やっと私たちの料理が報われました! ライト様には感謝してもしきれません! ささやかですがお礼として、どうぞ、ライト様のお好きな食べ物や料理へのリクエストなどありましたら、なんなりとお申しつけください!」
泣きながら頭を下げられるようなことは絶対にしていないんだけど……ちょっと気になっていたことがあるし、せっかくならお願いするか。
「じゃあ、一つお願いしようかな」
◆
午後七時。昨日と同じく魔王さんが部屋にやってきた。
「お疲れ様。あれ? 今日、顔色いいね」
「あぁ。今日は魔力に余裕があるからだろう。昨夜ライトとたっぷり食事をとったお陰だな」
「そういえば昨日言ってたね。食事から魔力を摂取するって」
「そこからだけではないが、食事は大事な要素の一つだな」
ソファに向かい合って座り、今日もローズウェルさんがテーブルに食事をセッティングしてくれる。今日のメインはハンバーグか……魔王さんのハンバーグは俺のハンバーグの五倍くらい大きいけど、中までちゃんと火が通っているのかな?
「へぇ。じゃあ今日もいっぱい食べないとね」
「そうだな」
ローズウェルさんが部屋を出た後、俺が「いただきます」と手を合わせるのを眩しそうに眺めてから、魔王さんの手にナイフとフォークが握られる。
メイン以外はベーコン? ハム? たっぷりのトマトソースのショートパスタと、ポタージュっぽいスープ……これ、押し麦だっけ? つぶつぶしたものが入っている。あとはパンとバター、それに……
「……それは?」
「あぁ、これは俺だけのスペシャルメニュー。料理長さんに我儘言っちゃった」
俺の食事は全体的に昨日より量を少なくしてもらって、代わりに一品多い。
オリーブオイルと塩のかかった、ほうれん草とトマトと玉ねぎのサラダだ。
「ライトは野菜が好きなのか?」
「味は普通かな。お肉のほうが美味しいと思う」
「では、なぜ?」
魔王さんが不思議そうに、ハンバーグを噛みしめながら首を傾げた。
やっぱり、魔族は人間の生態を知らないんだな……
「美容と健康のため」
「美容と……健康?」
「そう。人間って、野菜に含まれる栄養をとらないと肌が荒れたり内臓が弱ったり……美容にも健康にもよくないから」
料理長さんと相談したけど、魔族は主に肉と穀物……おそらくたんぱく質と炭水化物からエネルギーをとるみたいで、野菜や果物は「味や彩りのため」に少し使う程度らしい。
人間の村では普通に野菜もたくさん食べていたけど、歴代のペットたちも、自分たちの食生活に野菜がどれくらい必要かは把握していなかったのかも。
村では科学的に解明されていないけど、体が欲して食べているとかそういうことだと思う。
だから、お城ではずっと魔王さんと同じ、肉と穀物中心の食事を受け入れていたみたいなんだけど……
「では、野菜を食べないと……し、死ぬのか?」
「すぐに死ぬことはないよ。でも、まったく食べていなかったら……長生きは難しいかもね」
「そう、だったのか……俺は、今までの人間に……」
「大丈夫、大丈夫、俺は人一倍美容と健康に気をつけているだけだから、若い男の人は三年くらい肉と麦ばっかり食べていてもおかしくならないよ」
……たぶん。
栄養士でもなんでもない俺のなんとなくの感覚だけど。
ソースなんかで多少はトマトとか野菜も摂取できるし。スイーツにフルーツも使うみたいだし。
「しかし……いや、そうか。俺は人間を可愛がっているつもりで……これからは気をつける。教えてくれてありがとう、ライト」
「俺のほうこそ、料理長さんに我儘言ってごめんね?」
実は、昼食と夕食にサラダか温野菜、野菜スープなんかをつけてほしいというのと、朝ご飯にスムージーを作ってほしいという我儘も言っている。冷凍技術があるらしいから、作り置きの方法も伝えたけど……快く引き受けてくれた料理長さんには感謝しかない。絶対に手間だからね。
「いや、他にもライトの健康のために必要なことがあれば、なんでも遠慮なく言ってほしい。料理長たちにも伝えておく」
すでに料理長さんは「それくらいのこと、いくらでもお任せください! 魔王様のお食事への心配に比べればこれくらいなんてことないですし、野菜料理なんてあまり作らないから面白いです」と言ってくれている。いい人だなぁ。
それに、魔王さんのこと大好きなんだろうな。
「俺の健康も気遣ってくれてありがとう。でも、魔王さんも自分の体を気遣ってね? ほら、お皿にまだいっぱい残ってるよ」
「あ、あぁ……」
ちょっと真面目な話をしたから食が進まないのか、特大ハンバーグはまだ三分の一も減っていない。
サラダをつけてもらった分、仕事するか。
「あー! 魔王さんのハンバーグのほうが分厚くて美味しそう! 一口ちょうだい?」
「そうか? 好きなだけ食べればいい」
無邪気に声を上げると、魔王さんは俺へお皿を向けてくれる。
遠慮なく一口サイズに切って口に運び……こんなに分厚いのにちゃんと中まで火が通っていてジューシーで美味しい……元の世界よりシンプルな味のような気はするけど、普通に美味しい。よしよし。
「……んん! うん! やっぱり分厚いほうが美味しい!」
口の中に肉汁が広がった瞬間、満足感を素直に表情に出すと、魔王さんは楽しそうに俺に向ける目を細めた。
食事の手は止まってしまっているけど……
「ほら、魔王さんも食べ比べてみて? はい、あーん」
「え?」
俺の皿のほうのハンバーグを切って、魔王さんの口元に近づける。
魔王さんは戸惑っているけど……もう一押し。
「お口、あーんって開けて?」
「あ、あーん?」
俺が口を開けてみせると、魔王さんもぎこちなく口を開けてくれた。
わ。デカいし、牙とまでいかないけど犬歯が尖っていて強そうな口。
肉料理がよく似合うな。
「これが俺のほうね? で、次が魔王さんの分厚いほう。はい、あーん」
ハンバーグを押し込んで、咀嚼している間に魔王さんの皿のハンバーグを大きめに切る。
「あーん……」
今度は魔王さんからすぐに口を開けてくれたので、そっとハンバーグを入れる。
「ね? 魔王さんのほうが美味しいよね?」
「……そう……かもな」
「えぇ、絶対にそうだよ! ほら、もう一口! よく味わってみて? あーん」
「あ、あーん……」
なんだかんだ言っているうちに、俺のハンバーグの五倍はあったハンバーグが、魔王さんの胃袋に消えた。よしよし。
◆
食後は、食器を片づけに来たローズウェルさんが置いていってくれたお茶と焼き菓子。
クッキー? ビスケット? ガレット? みたいなものから、マドレーヌ? マフィン? パウンドケーキ? みたいなものまで八種類。昨日も似たようなお菓子を用意されて、俺は一つだけ食べた。
味はよかったんだけど……バターも砂糖もたっぷりで胃に重いし……カロリーを考えると……我慢した。
魔王さんは四つくらい食べていたかな。
食べている時の反応からして、どうやら魔王さんは焼き菓子が好きなようなんだけど、俺が食べないから遠慮しているのか食欲が湧かないのか……意外と繊細な人みたいだ。
だから今日は、考えがある。
「俺、お腹いっぱいだから一つだけにしておこうと思うんだよね」
「そうか……」
魔王さんが少し寂しそうに眉尻を下げる。
ほら、やっぱり俺と一緒に好物を食べたい感じ?
だったら……
「でも、八種類もあるから、すごく悩む」
「そうだろうな」
「だから、魔王さんが全種類食べて一番美味しかったのを俺に教えて? 俺、それだけ食べるから」
悪びれもせずお茶の入ったカップを持ち上げると、魔王さんは驚いた顔をした後、楽しそうに声を上げた。
「は、ははっ、便利に使われてしまうな」
「ごめんね?」
「まぁいい。これも飼い主の仕事だろう。そうだな……まずはこれから」
魔王さんは楽しそうに焼き菓子を一つずつ食べて、簡単に味を解説してくれた。
食レポは……まぁ、上手でも下手でもない。
「俺はこれが好きだ。でも、甘いほうがいいならこっちだな」
「じゃあ魔王さんオススメの……ナッツのクッキー?」
「あぁ」
「いただきまーす。ん、うん。美味しい。ナッツも美味しいけど、まず生地がいいよね。このお城、小麦を使った料理もお菓子もよく出てくるけど全部美味しい! でも、よかった。俺は小麦アレルギーじゃないけど弟にはあるから……弟がこの世界に来ていたら、食事困っただろうな」
「小麦……アレルギー?」
美味しいけど口の中の水分を奪っていくクッキーをのみ込み、お茶で口内を潤していると、魔王さんが不思議そうに首をひねる。
「人間って、人によって合わない食材があるんだ。俺もお医者さんじゃないからちゃんとした説明ができないんだけど……小麦が合わないとか、卵が合わないとか、牛乳、えび、そば、りんご、大豆、はちみつ……食材以外にもホコリとか花粉とかがダメな人もいるね」
「それは、食べるとどうなるんだ?」
「体がかゆくなったり目とか口とか鼻がしんどくなったり……ひどい時は呼吸がちゃんとできなくて死んじゃう場合もあるよ」
「死……!?」
魔王さんがひどく驚いた顔をする。
そりゃあそうか。人間好きからしたら、人間が死ぬのは嫌だよね。
「人間全員によくない、わかりやすい毒とは違って、個人差があるのが厄介だよね。それに、子供の頃は大丈夫だったのに、大人になってからダメになる場合もあるし、逆に大丈夫になる場合もあるし……」
「人間は……そんなにも個人差があるのか」
「そうだよ。魔王さんから見たら人間はみんな等しくかわいいペットかもしれないけど、個性が色々あるんだよ。ほら、俺なんか特に他の人間より美人でしょう?」
「はは。そうだな。ライトが一番美人だ」
一瞬複雑そうな顔をした後、魔王さんはいつもの蕩けそうな笑顔で俺を見ていた。
でも、熱っぽい視線なのに……ちょっと寂しそうな気がした。
◆
お城に来て四日目の朝。
「ライト様、今朝も魔王様の魔力量が多く、料理長はじめ、みんなとても感謝しております!」
「そう? よかった。俺も野菜いっぱいで肌の調子も体の調子もいいよ」
リリリさんが運んでくれた今日の朝食は、パン、目玉焼き、そして俺のリクエストのグリーンスムージー。
「特にこれ、手間かけちゃったよね。料理長さんにお礼言っておいて」
「承知致しました」
スムージーは、正直に言えば美味しくはないけど、ちゃんと俺がリクエストした食材っぽい味がして、健康のためには最高の出来だった。この世界、ミキサーがないみたいで、「すり鉢やおろし金で作ります」って言っていたから……もう、本当、感謝しかない。
「あの……ライト様。よろしければ、お食事が終わったら御髪を結いましょうか?」
「ん? あぁ、今日は下ろしておこうかなと思っているんだけど」
いつもは俺の自慢の顔がよく見えるように、緩く後ろに流したハーフアップ。
ずっとそれでもいいんだけど、毎日縛っていると毛根が……とか言わない?
だから、たまに下ろして真ん中辺りで分けたワンレンボブにすることにしている。
こっちの髪型だと、キレイな顔がチラ見えして色っぽい……とよく言われる。
「えっと……あの、ペットの方には結っていただく決まりで」
「そうなの? 下ろしているとマナー違反? だらしない?」
「いえ、そうではなく……」
リリリさんが困ったように眉を寄せる……この流れ、覚えがある。
「あ、もしかして魔王さんの好みってこと?」
「そ……そんな感じ、です」
シャツに続き、魔王さんの性癖か。
ハーフアップは俺も好きだけど、うーん。そうだなぁ……
「リリリさん、魔王さんが特に好きな結い方ってあるの?」
俺が朝食の皿をほぼ空にして、お茶のカップを持ち上げながら首を傾げると、リリリさんはなぜか嬉しそうに声を上げた。
「はい、あります!」
「じゃあ、今日はそれをやってみてもらおうかな」
「承知致しました! 少々お待ちください」
食器を片づけたリリリさんは洗面所へ走っていき、手鏡やブラシ、青色のリボンを手に戻ってくる。
「では、魔王様が一番好まれる『ニマ風』にさせていただきます!」
「よろしく~」
ソファの後ろに回ったリリリさんは、手際よく俺の髪にブラシをあてて、慣れた手つきで編み込んだり結んだり凝った髪型にしてくれる。
魔王さんの好みなら覚えておいてもいいんだけど……思ったより面倒そうだな。
それに、ニマ風?
ニマって歴代ペットの名前だよね? なんだろう……ニマってタマとかポチみたいな定番のペット名だと思っていたけど、違うのか……?
「できました!」
リリリさんが大きめの手鏡二枚を使って後ろ側も見せてくれた。「ニマ風」は、左側は普通に編み込みで、右側は細めの青いリボンを髪と共に編み込んだハーフアップ。まとめたところはリボンを……これどう結んでいるんだろう? 花みたいになっている。
「かわいいけど、自分ではできないやつだ。リリリさんありがとう」
「いえ! メイドの仕事の一つですし……かわいいペット様をかわいくするのはとても楽しい……いえ、光栄なことですので!」
リリリさんがすごく楽しそうでよかったけど……あれか。犬や猫、かわいいお人形を着飾って遊びたい的な? まぁ、楽しいなら俺も楽しいし、いいんだけど……できあがったこの髪型を見ても、先ほどの疑問は解消しない。
聞くしかないか。
「ねぇ、これってなんで『ニマ風』って言うの?」
「それは、えーっと……魔王様が『ペットといえばこれだ』と思われていて、ペットといえば、ニマ様なので……あの、普段はペット様をニマ様と呼ぶので……」
説明の歯切れが悪い。
リリリさんが説明ベタなのか、それとも……
「ニマっていうのが、魔王さんの理想のペット像って感じ?」
「えっと……そうといえば、そうですね……」
元の世界で言う、「タマ」「ポチ」みたいな、スタンダードなペットのイメージがあるのかと思ったけど、違うのか。
ということは……
「魔王さんのペット、一人目からニマって名前だったんだよね?」
「はい。そうです」
「ふーん。じゃあ、その初代ニマちゃんが素敵だったから、その後のペットにも同じようなことを求めているとか?」
テキトーな憶測だったけど、リリリさんがピクッと顔を引きつらせて固まってしまう。
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「すみません。別に口止めはされていないのですが……他の人間の代わりだなんて言うのはペット様に申し訳ないと思って、その……」
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「なんで謝るの? むしろ教えてくれてありがとう。魔王さんの求めているものがわかるほうが、俺もやりやすいよ」
「……ライト様……」
「ねぇ、もう少しそのニマちゃんのこと教えてくれる?」
「あ……はい!」
顔を上げたリリリさんは、笑顔で初代ニマちゃんについて色々と教えてくれた。
リリリさんはきっと、俺が魔王さんに気に入られるために「ニマちゃんに近づこうとしている」と思ったんじゃないかな。
ごめんね。違う。
正直「マズイ」と思ったんだ。
これは早急に、魔王さんがペットに「ニマ像」を求めることをやめてもらわないと。
様々な人間の個性を楽しもうって思ってもらわないと。
そうじゃないと、ここから三年間、俺を愛してもらうのが難しくなってしまうかもしれない。
凝ったハーフアップにされた頭が、いや、髪が……髪の根元が、妙に重く感じた。
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