魔王さんのガチペット

回路メグル

文字の大きさ
352 / 368
第10章 その後の世界 / パーティーとやりたいことの話

パーティーの日/本番(3)

しおりを挟む

 夕方から始まったパーティーだけど、窓の外はもう暗い。
 全員との挨拶が終わって、予定ではあと三〇分で閉会の時間だ。

「イユリちゃん、そろそろお土産の用意お願い」
「承知いたしました」

 斜め後ろに立っていたイユリちゃんに声をかけると、魔王さんが少しだけ俺を支える腕の力を強くする。

「もうそんな時間か」

 魔王さん、みんなの前で俺を膝に乗せるの、好きすぎる。かわいいなぁ。

「うん。でも、今日は俺が配るんじゃないから。もう少しこのままでいられるよ」
「え? そうなのか!」

 魔王さん、前回大好評だったから俺がみんなにお土産を渡して回ると思った?
 今日は違うんだよね……
 最後に、メインイベントがあるから。

――フッ

「……!?」

 急に部屋の照明がすべて消える。
 同時に、楽団の音楽も、参加者の会話も止まった。

「ライト!」

 魔王さんが慌てて俺を強く抱きしめてくれて……事故かなにかだと思って、守ってくれているんだよね?
 優しい。その優しさが嬉しい。
 でも、これは大丈夫。

「魔王さん、大丈夫だよ。楽しんでね?」
「え?」

 俺が優しく耳元で声をかければ、魔王さんの腕の力が少し緩んだ。

「ライト様、魔王様、ペット契約一〇周年、おめでとうございます」

 暗闇の中イユリちゃんの声が響くと同時に、楽団の曲が再開した。
 会話を邪魔しないBGMのような曲ではなく、この国の慶事の祭典でよく演奏される、明るくめでたい曲だ。

「……!」

 魔王さんが息をのんだ瞬間、部屋が明るくなる。
 でも、照明がついたわけではない。
 部屋のいたるところで花火のような光魔法が上がったからだ。

「魔王様、ライト様、おめでとうございます」
「おめでとうございます!」

 ローズウェルさんやリリリさん、ドーラルさん、給仕をしてくれていた執事さんやメイドさんたちからのお祝いの魔法だ。パーティー会場の外で警備していた騎士さんや調理場の人たちも数人駆けつけてくれている。
 その魔法が消えた瞬間、部屋の中が緑色に輝いた。
 ギルドマスターさんの魔法だ。
 
「魔王様、ライト様。お二人の出会いで世界が豊かになりました。ありがとうございます」
「……っ!」

 魔王さんが更に驚く。お客さんまで魔法を使ってくれると思わなかった?

「魔王様、ライト様、おめでとうございます」
「お二人とも、一〇周年、おめでとうございます」
「魔王、ライト様、これからも、末永くお幸せに」

 他の来賓もギルドマスターさんに続いて、部屋の中はどんどん色が変わる。
 さっきは花火みたいだったけど、今はプロジェクションマッピングっぽいな。

「ライト様、おめでとうございます」

 ……導王様、俺の名前しか呼ばないのはわざとかな? でも、誰よりも気合いの入ったオーロラのような魔法で祝ってくれた。さすが黒髪の魔族さんだ。
 そして最後は……

「おめでとうございます。これは、兄の分も。特別ですよ?」

 森の王様が、エルフの国の式典で見た光魔法を使ってくれた。花火のような光から水滴のように降ってくる光、羽が生えた生き物のように部屋の中を飛び回る光もあって……式典よりは場所も小さいし時間も短いけど、あの日感動した精霊魔法だ。

「……すごい……」

 魔王さんの反応が今までの「嬉しい」という驚きから、「感動」に変わった。
 ローズウェルさんたちも初めて見た時に感動していたから、この世界の色々なものを見てきた魔王さんだとしても、この魔法は特別な物なんじゃないかなと思ったんだよね。どうやら大正解。

「……」

 目の前の魔法もきれいで見ていたいけど……うん。魔王さんの嬉しそうな顔。これが見られるのも最高。
 魔王さんは魔法に、俺は魔王さんの顔にくぎ付けになっているうちに森の王様の魔法が終わり、部屋が元の明るさに戻った。

「あ……な、なんて、素晴らしい魔法だ!」

 明るくなってすぐに魔王さんの顔は俺の方を向いて、抱きしめる腕の力も強くなる。
 興奮しているのが至近距離で伝わってくる。

「キレイだよね。シンくんの退位式で光魔法が次々に使われる光景を見て感動しちゃったから……魔王さんにも見せたかったんだ」
「ライト……!」

 俺がこの世界で見たもので、一番感動したのがこれ。
 つまりそれって……

「この前のデートで、魔王さんが俺に『好きな景色』を見せてくれたから、お返し。あと、一〇年分の感謝の気持ちが大きすぎて、俺一人では表現できなくて……みなさんに『手伝って!』ってお願いしちゃった」
「あ……」

 魔王さんがもう感動しすぎて言葉が出なくなっている。
 いわゆる、「一〇周年のサプライズ」。
 魔王さんにはしっかり喜んでもらえたみたいだ。よかったよかった。
 これも協力してくれた人たちのお陰だよね。

「皆さん! ご協力ありがとう! すっごくきれいだったし、魔王さんに感動してもらえた!」

 魔王さんにはもう少し感動に浸っておいてもらうことにして、来賓のほうへ手を振りながら声をあげる。
 パーティーを私的に使って怒られるかなと心配ではあったんだけど……

「おめでとうございます!」
「こちらこそ、ライト様が来てくださってありがとうございます!」
「う、うぅ、飼い主のためにこんなことを企画するなんて……かわいいッ!」
「ペットがこんな……感動で涙が……」

 俺、好かれすぎ。
 他所の国とはいえ、「かわいいペットちゃんにねだられたら仕方がないなぁ!」って感じで受けてくれた人が多かった。
 もちろん、参加者の中には俺に対してそこまで大きな気持ちを持っていない人もいるだろうし、「魔王にいい顔しておくか」って感じで仕方なく手伝ってくれた人もいると思う。
 でも、パーティー会場内のお客さんの顔は、みんな明るい。

「他国の光魔法なんてなかなか見られないからなぁ」
「久しぶりに腕前を見せられた!」
「精霊魔法があのように美しいとは……悔しいが見ごたえがあったな」

 たまにはこういうのもいいよね?
 毎回同じパーティーだとつまらないし。
 ただ、森の王様は一番負担が大きかったから申し訳ないけど……

「あまり他所で魔法を使うのは好きではないのですが、ライト様に喜んでいただけて、魔王の驚く顔が面白かったから楽しめました。兄へのいい土産話になりましたしね」

 シンくんからも頼んでくれていたみたいだし助かった。後日、シンくんにも改めてお礼をしないとな。
 でも、その前にお礼と言えば……

しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。