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第10章 その後の世界 / パーティーとやりたいことの話
パーティーの日/本番(3)
しおりを挟む夕方から始まったパーティーだけど、窓の外はもう暗い。
全員との挨拶が終わって、予定ではあと三〇分で閉会の時間だ。
「イユリちゃん、そろそろお土産の用意お願い」
「承知いたしました」
斜め後ろに立っていたイユリちゃんに声をかけると、魔王さんが少しだけ俺を支える腕の力を強くする。
「もうそんな時間か」
魔王さん、みんなの前で俺を膝に乗せるの、好きすぎる。かわいいなぁ。
「うん。でも、今日は俺が配るんじゃないから。もう少しこのままでいられるよ」
「え? そうなのか!」
魔王さん、前回大好評だったから俺がみんなにお土産を渡して回ると思った?
今日は違うんだよね……
最後に、メインイベントがあるから。
――フッ
「……!?」
急に部屋の照明がすべて消える。
同時に、楽団の音楽も、参加者の会話も止まった。
「ライト!」
魔王さんが慌てて俺を強く抱きしめてくれて……事故かなにかだと思って、守ってくれているんだよね?
優しい。その優しさが嬉しい。
でも、これは大丈夫。
「魔王さん、大丈夫だよ。楽しんでね?」
「え?」
俺が優しく耳元で声をかければ、魔王さんの腕の力が少し緩んだ。
「ライト様、魔王様、ペット契約一〇周年、おめでとうございます」
暗闇の中イユリちゃんの声が響くと同時に、楽団の曲が再開した。
会話を邪魔しないBGMのような曲ではなく、この国の慶事の祭典でよく演奏される、明るくめでたい曲だ。
「……!」
魔王さんが息をのんだ瞬間、部屋が明るくなる。
でも、照明がついたわけではない。
部屋のいたるところで花火のような光魔法が上がったからだ。
「魔王様、ライト様、おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
ローズウェルさんやリリリさん、ドーラルさん、給仕をしてくれていた執事さんやメイドさんたちからのお祝いの魔法だ。パーティー会場の外で警備していた騎士さんや調理場の人たちも数人駆けつけてくれている。
その魔法が消えた瞬間、部屋の中が緑色に輝いた。
ギルドマスターさんの魔法だ。
「魔王様、ライト様。お二人の出会いで世界が豊かになりました。ありがとうございます」
「……っ!」
魔王さんが更に驚く。お客さんまで魔法を使ってくれると思わなかった?
「魔王様、ライト様、おめでとうございます」
「お二人とも、一〇周年、おめでとうございます」
「魔王、ライト様、これからも、末永くお幸せに」
他の来賓もギルドマスターさんに続いて、部屋の中はどんどん色が変わる。
さっきは花火みたいだったけど、今はプロジェクションマッピングっぽいな。
「ライト様、おめでとうございます」
……導王様、俺の名前しか呼ばないのはわざとかな? でも、誰よりも気合いの入ったオーロラのような魔法で祝ってくれた。さすが黒髪の魔族さんだ。
そして最後は……
「おめでとうございます。これは、兄の分も。特別ですよ?」
森の王様が、エルフの国の式典で見た光魔法を使ってくれた。花火のような光から水滴のように降ってくる光、羽が生えた生き物のように部屋の中を飛び回る光もあって……式典よりは場所も小さいし時間も短いけど、あの日感動した精霊魔法だ。
「……すごい……」
魔王さんの反応が今までの「嬉しい」という驚きから、「感動」に変わった。
ローズウェルさんたちも初めて見た時に感動していたから、この世界の色々なものを見てきた魔王さんだとしても、この魔法は特別な物なんじゃないかなと思ったんだよね。どうやら大正解。
「……」
目の前の魔法もきれいで見ていたいけど……うん。魔王さんの嬉しそうな顔。これが見られるのも最高。
魔王さんは魔法に、俺は魔王さんの顔にくぎ付けになっているうちに森の王様の魔法が終わり、部屋が元の明るさに戻った。
「あ……な、なんて、素晴らしい魔法だ!」
明るくなってすぐに魔王さんの顔は俺の方を向いて、抱きしめる腕の力も強くなる。
興奮しているのが至近距離で伝わってくる。
「キレイだよね。シンくんの退位式で光魔法が次々に使われる光景を見て感動しちゃったから……魔王さんにも見せたかったんだ」
「ライト……!」
俺がこの世界で見たもので、一番感動したのがこれ。
つまりそれって……
「この前のデートで、魔王さんが俺に『好きな景色』を見せてくれたから、お返し。あと、一〇年分の感謝の気持ちが大きすぎて、俺一人では表現できなくて……みなさんに『手伝って!』ってお願いしちゃった」
「あ……」
魔王さんがもう感動しすぎて言葉が出なくなっている。
いわゆる、「一〇周年のサプライズ」。
魔王さんにはしっかり喜んでもらえたみたいだ。よかったよかった。
これも協力してくれた人たちのお陰だよね。
「皆さん! ご協力ありがとう! すっごくきれいだったし、魔王さんに感動してもらえた!」
魔王さんにはもう少し感動に浸っておいてもらうことにして、来賓のほうへ手を振りながら声をあげる。
パーティーを私的に使って怒られるかなと心配ではあったんだけど……
「おめでとうございます!」
「こちらこそ、ライト様が来てくださってありがとうございます!」
「う、うぅ、飼い主のためにこんなことを企画するなんて……かわいいッ!」
「ペットがこんな……感動で涙が……」
俺、好かれすぎ。
他所の国とはいえ、「かわいいペットちゃんにねだられたら仕方がないなぁ!」って感じで受けてくれた人が多かった。
もちろん、参加者の中には俺に対してそこまで大きな気持ちを持っていない人もいるだろうし、「魔王にいい顔しておくか」って感じで仕方なく手伝ってくれた人もいると思う。
でも、パーティー会場内のお客さんの顔は、みんな明るい。
「他国の光魔法なんてなかなか見られないからなぁ」
「久しぶりに腕前を見せられた!」
「精霊魔法があのように美しいとは……悔しいが見ごたえがあったな」
たまにはこういうのもいいよね?
毎回同じパーティーだとつまらないし。
ただ、森の王様は一番負担が大きかったから申し訳ないけど……
「あまり他所で魔法を使うのは好きではないのですが、ライト様に喜んでいただけて、魔王の驚く顔が面白かったから楽しめました。兄へのいい土産話になりましたしね」
シンくんからも頼んでくれていたみたいだし助かった。後日、シンくんにも改めてお礼をしないとな。
でも、その前にお礼と言えば……
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