魔王さんのガチペット

回路メグル

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第10章 その後の世界 / パーティーとやりたいことの話

パーティーの日/護られる(1)

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 会議もパーティーも無事に終わって、来賓が帰った後のお城はまだ慌ただしい。

「会議の議事録をすぐに……新聞で発表するものは明朝までにはまとめて……」
「不足分の資料を明日送らないといけないので……」

 魔王さんやファイさんたちは、会議関連のお仕事のために執務室に行ってしまった。
 準備も大変だったのに、会議後も大変なんだよね。
 これは、「頑張ってね」と応援することしかできない。
 そして他の人は……

「カーテン外します。下に入らないでください!」
「食器の回収はグラス優先で……!」
「あ、すみません! そちらはうちの店のグラスで」
「あれ? カトラリーの数が……」
「テーブル移動しまーす!」
 
 パーティー会場も準備と同じくらい片付けが大変だ。
 お城のメイドさん執事さん、調理場の人たち、応援に来てくれているお店のスタッフさん、力仕事は警備担当の兵隊さんも何人か手伝ってくれている。

「俺もなにか手伝い……」

 おもてなし担当は俺で、いつもと違うお店のスタッフさんや食器だから片付けに手間取っている責任も俺。
 手伝うべきだと思うんだけど……

「いえ! ライト様は今日一日大活躍でしたので!」
「細かい片付けが終われば、あとは魔法道具も使って一気に片付けますので」
「じゃあ……」

 むしろ、こういうときには魔法が使えなくて小柄な人間は邪魔か。申し訳ないけど、任せよう。

「じゃあ、遠慮なく。部屋で今日のお礼状でも書いていようかな」
「それも明日で大丈夫ですよ」
「ライト様が疲れた顔をされると魔王様が悲しまれますし」

 ローズウェルさんとリリリさんが大きなテーブルクロスを畳みながら俺に声をかけて、すぐに二人とも次の作業に入っていく。

「確かにそうか」

 寝る前に魔王さんがちょっとだけ顔を見に来るかもしれないしね。

「それじゃあ、俺は部屋に戻らせてもらうね。みんな、今日は……今日までの間も、本当にありがとう。みんなのおかげで大成功だったよ!」

 俺が声を上げると、慌ただしく動いていた人たちが一瞬手を止める。

「そんな……成功はライト様のおかげです!」
「ライト様と一緒に準備ができるなんて、とても楽しい時間でした!」
「いつもよりスケジュールに余裕がありましたしね」
「指示も的確で楽でしたよ」
「それに……」
「なにより……」

 みんな口々に俺を褒めてくれるけど……

「「「「魔王様のあの笑顔!」」」」
「だよね!」

 お城のみんなは俺のことも大好きでいてくれるけど、魔王さんが大好きだからね。
 魔王さんを喜ばせられたことを、一緒に喜べて……喜びが二倍!

「いいものを見られました!」
「こちらまで幸せな気分になりましたわ」
「ありがとうございますライト様」
「俺も魔王さんに喜んでもらえて嬉しかった! みんなありがとう」

 笑顔で手を振って廊下に出るまでの間も、お互いに「ありがとう」を何度も言い合ってからパーティー会場を後にした。

 適度な疲労感。今日まで頑張ったことが報われた達成感。
 みんなの笑顔、魔王さんの笑顔。

 気分いいな。

 このお城にきて一〇年。いろいろな幸せな出来事はあったけど、どれとも違う気持ちよさを感じながら部屋に入ろうとしたときだった。

「ライト様!」

 フロックコートの裾と後ろで一つに結んだ長めの茶髪を揺らした、牛角の若い男性魔族が叫びながら駆け寄ってきた。 
 声も顔も緊迫した様子で、ドキっとする。
 でも、あれ? この人……

「魔王様がお怪我をされました! 馬車で診療所へ運びますのでライト様もお付き添いください!」
「……?」

 この魔族さん、なにを言っているんだろう?
 細くて吊り上がった目は真剣だし、事実だとしたら大変なことだけど……俺は全く焦ることはなかった。

「魔王さん怪我なんかしていないよ」
「え? いえ、さきほど、されて……」
「してないって。専属化している俺が辛くないから絶対にしていない。怪我したとしても、かすり傷程度じゃない?」

 魔王さんが怪我をすると、そのまま怪我の具合が反映されるわけではないんだけど、怪我をする=体内の魔力の流れが悪くなるから、俺の体にも影響が出る。
 紙で指先を切ったくらいならわからないけど、大怪我なら絶対にわかる。
 だから、この人の言っていることは嘘。

「あ……」

 しまったって顔だな。もう、嘘だって認めているね?
 こんな簡単なことになんで気づかなかったんだろう?
 それに……

「っていうか誰? 知らない顔だけど?」
「え? あ、調理担当の店の……」

 あぁ、もう。言い訳までバレバレすぎ! なにも考えていないのかな?
 全部聞く気にもならない。

「違うよね? 俺が自分で交渉した店だし、朝から何度も打ち合わせしたよ。スタッフさんは全員顔も名前も覚えているから」

 今日は俺が責任者なんだから、出入りの業者も全部把握している。こんなバレバレな嘘をつくなんて、俺のこと知らなさすぎる。

「は? 人間がなんで? ……いや、クソ!」

 もう取り繕うのもやめたのか、いかにも悪人らしく顔を歪ませながらフロックコートのポケットからナイフを取り出した。

「……」

 ナイフかぁ……だめだ。ますます呆れてしまう。
 さすがにちょっと怖いけど……俺は多分……

――ガギッ!

 呆れている間に俺の太ももあたりをめがけて振り下ろされたナイフは、空中で止まった。


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