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【後日談】

俺だって溺愛したい【1】

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 付き合い始めても、仕事の間は今まで通りだった。
 恋人だからといって特別扱いされることはなく……まぁ、今までも特別扱いだったような気はするけど、それは恩人だからと言うことにさせてもらおう。
 とにかく、いつも通り。
 ただ、一歩事務所を出ると……

「桜田さん、今日もお疲れ様です」

 事務所からたった一ブロックの浅野さんの家に行くまでの間、手を握られる。

「お……お疲れ様です」

 この年で、男同士で、恥ずかしいと言えば恥ずかしいけど、付き合いたてのカップルが手を繋ぐのは普通だと思ったし、こうやって手が触れ合うだけで一日の仕事の疲れがリセットできるような気がする。

「今日は桜田さんと飲もうと思って、美味しいビールを買ってあるんです」
「明日も仕事なのに?」
「一杯だけ、だめですか? 仕事の後のビールって格別に美味しくないですか?」
「うっ……確かに」

 転職してから、仕事の後のビールの美味しさが解ったし、平日でも少しだけなら翌日の仕事に響かないということも解った。前の会社ならこんなことできない。
 浅野さんのお陰で知ったことばかりだ。

「おつまみは、枝豆と薬味たっぷりの冷ややっこ。〆にソース焼きそば……塩焼きそばにも変更できます」
「いいですね、夏っぽい。絶対にビールだ」
「でしょう?」

 浅野さんが嬉しそうに笑って、マンションの入り口に着いた。
 オートロックの入り口を開けるために、名残惜しそうに手が離れる。

「グラスも冷やしているんですよ」
「天才ですね」

 オートロックの扉を抜けてすぐ、ちょうど一階に降りていたエレベーターに乗り込む。

「……桜田さん」
「あ、ちょっ……!」

 エレベーターの扉が閉まってすぐ、腰を抱き寄せられて、耳の付け根辺りに浅野さんの唇が触れた。
 他の人は乗っていない。
 でも、防犯カメラはあるよな? もうすぐ次の階……ドア、開かないか?

「あ、浅野さん……!」

 身体をよじっても、それに合わせて浅野さんが俺の背後にぴったりとくっついてくるだけだ。
 うぅ、こんな場所で恥ずかしい……けど、抱きしめられるの好きだから……。

「ん……」

 ……俺、ちょろすぎる。
 両手で後ろから抱きしめられるともう抵抗できない。

「……桜田さん」

 大きな掌に胸元をまさぐられて、後頭部にキスをされて、ちょっと気持ちが昂ったところで……目の前のドアが開いた。
 
「っ……!」

 慌ててエレベーターから降りて後ろを振り向くと、浅野さんは全く悪びれずにただただ嬉しそうに笑っていて……怒るに怒れなかった。
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