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第8話 外堀(2)
しおりを挟む「これでも反省していたんだ。枕営業なんてさせてしまったせいで、お前がまともに恋愛ができなくなってしまったんじゃないかって」
「あ、ちが……あの、遠野さん……」
誤解! 枕営業なのに、言葉のアヤで勘違いされただけ!
「伊月さんには少し怒られてしまった。アオはできることがあればなんでもしてしまう、目的のためなら無茶をしてしまう子だから、どんなことでも言われればしてしまう。そこをセーブさせるのが事務所の役割ではないのかと。その通りだ。事務所はいつも、アオが頑張るというから……頑張らせ過ぎた」
そうだけど……そうじゃない!
「事務所はみんな、アオの味方だ。伊月さんもアオの仕事を理解して公表せず内密に付き合うと言ってくれているし、二人が順調にお付き合いできるようにサポートするからな」
それはありがたいけど……違う。
根本的に、違う!
「遠野さん、待って、俺……」
ちゃんと誤解を解こうと、やっと言葉らしい言葉が口から出た瞬間、ドアが開いた。
「おはよう! あ、アオ!」
「社長!」
ちょうどよかった。社長にも話を聞いてもらって……
「あぁ! ありがとう、ありがとうアオ!」
「え?」
部屋に入って来た社長は、真っすぐ俺に向かってきて、そのまま勢いよく抱きしめられる。
抱きしめる腕の力が強くて……え? 泣いてる?
「お前が伊月さんに頼んでくれたんだってな!? お前たちには心配をかけないようにしていたつもりだったのに、バレていたのか……」
は?
頼んだ?
なにも頼んでなんていない。
しかも、バレる? 知らない。なんのことか……わからない!
「不動産トラブルなんて、所属しているお前たちには全く関係ない、事務所で処理しなければいけないことだったのに……あぁ、これで、事務所が存続できる!」
不動産?
本当に全く知らない話だ。
助けを求めるように遠野さんを見たけど、遠野さんは興奮した様子で社長の言葉に頷いた。
「よかったですね、社長! まさかこの欠陥が見つかって取り壊すしかないビルを買い取ってくれるなんて……解体後に上手く運用されるんだとは思いますが、うちじゃあそこまで資金が待たなかったですからね」
「あぁ。中古だけど頑張って三年前に買った自社ビルだからな。悔しいが……でも、伊月さんの援助のお陰で来月からは港区の有名オフィスビルだ!」
「しかもワンフロア全部使えるんですよね。レッスンスタジオも、撮影や録音用のスタジオもとれそうですね」
「あぁ、工事費はもちろんこっちもちだが、原状回復を気にせず好きなように改築して良いと言ってくれているし……はぁ……本当に伊月さんとアオに感謝だな」
なんとなく事情はわかったけど……全部初耳。
社長が困っていたことも、伊月さんが助けてくれることも、なぜか俺がお願いしたことになっているのも、全部知らなかった。
「ですね! それに、港区のビルのオーナーが伊月さんで、伊月さんのオフィスが上の階にあるから、伊月さんとアオをこっそり会わせるのにちょうどいいですし」
「へ?」
事務所と同じビルに伊月さんがいる?
しかも、マネージャーも社長も、俺と伊月さんは普通に恋人になったと勘違いしている?
これって……
俺、もしかして、逃げ場が……ない?
正直に話して伊月さんから逃げたら、事務所は存続の危機で、欲しい仕事がもらえなくて、枕営業も当分できなくて……ってことだよね?
しかも、どう考えても伊月さんの計算というか計画というか……逃げても別のなにかで捕まる可能性が高い。
怖い。
伊月さん、怖すぎる。
昨日からずっと怖いのに、さらに怖くなるなんて……何者なんだよ、伊月さん。
それに 、自分が怖い。
だって、冷静に考えれば、「欲しい物が全部手に入る」ことに変わりはない。
事務所が順調で、リスクのある枕営業をしなくても仕事がたくさんもらえて性欲の発散ができて、お金や生活も面倒見てもらえて……悪くはない、よね?
恋人関係だって、演技は得意だし長期にわたる愛人契約的な枕営業だと思えばできないこともない。
俺の仕事を応援してくれていて、向こうも会社の偉い人で、二人とも忙しい大人のカップルなんだから、会うのだって週に一回くらい? それくらい「枕営業」「恋人演技の練習」と思えば、対価として安いくらいだ。
怖いけど、俺のことが本気で好きみたいだし……だから怖いのかもしれないけど……
とりあえず、仕事がもらえている間だけ恋人のフリをして、仕事がなくなるか向こうが飽きたら別れればいいんだ。
うん。
条件として悪くない。
悪くない……
悪くない……よね?
あまりにも逃げ場のない怖さだったから、自分でそう思い込もうとしているのかもしれないけど……これ以上に自分を落ち着かせられる「気持の落としどころ」が見つからなかった。
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