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第11話 仕事/打ち合わせ
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「一緒に過ごせて楽しかったよ。幸せな時間をありがとう」
初めてのお家デートの翌朝、そんなことを言いながら頬にキスをされて、今日は一人でタワマンを後にした。
ちなみに、今日も用意されていた新品の下着、さらに今日の仕事にちょうどいい新品の服を身に着け、用意してくれたいつも自分で作る朝食と同じ朝食を食べた。
……前回俺が身に付けていた下着ってどうなったのかとか、昨日着ていた下着と服がどうなるのかとか、引っかかるところはあるけど……一応、昨日から今日にかけてしたことを思い返せば、ごく普通の恋人のお家デートだった気がする。
伊月さんは「次に会えるころにはアオくんが好きな海外ドラマの新シリーズが配信されているはずだから、あれ観ようね。あと、もし時間があったらマンションの中のプライベートジムも行ってみる?」と言っていた。
「オフはどうせ家で映画やドラマを観て食事の作り置きをするか、体づくりが必要な時期ならジム通いだから……オフの過ごし方の横に、伊月さんがくっついているだけと思うと、そんなに負担ではないか」
……と、自分に言い聞かせた。
◆
二回目のお家デートの翌日、テレビ局の広めの会議室で、新しく始まるクイズバラエティ番組の顔合わせをしていた。
レギュラー放送は次の次のクールからだけど、その前に絶対に視聴率の取れる豪華ゲストを招いた特番を数回放送し、「好評につきレギュラー化」と銘打つ算段だ。意外と力の入った番組だな……初MCなのに責任重大だけど、メインMCは俺一人ではなく、大御所芸人の嶋北さんも一緒だし、サブにベテランの女性アナウンサーがつく。
俺は安心。ただ、大御所芸人さんには……
「えー! 俺の出番これだけ? このメンツならしゃべりはどう考えても全部俺だろ!?」
嶋北さんは今年六十代の後半に入る司会慣れしたベテランだから、自分ひとりがメインではないことが不満のようだ。元々毒舌……何でもズバっというところが売りの人だし。六十代のわりに体格がよく、体も声も大きいのでちょっと怖い。
司会として仕切るのはすごく上手いから尊敬しているし、不満もわからなくはないけど。
「あとさ、若い子を横につけるのはわかるよ? アオくん、女の子の人気すごいし、視聴率には必要。でも、メインがどっちかハッキリさせないと。視聴者も混乱しない?」
「嶋北さんのおっしゃることはわかるんですが、スポンサーが……」
やや若めで線の細い男性プロデューサーさんが語尾を濁すと、嶋北さんは顔を歪ませながらも笑ってくれた。
「あぁ、なんだっけ、自動車か。アオくんがCMしてるとこか。それはしかたないなぁ。ま、俳優サンは台本通りにしゃべるのが仕事だと思うからそこは任して、あとは俺が勝手にしゃべるか~。見た目担当のアオくん、しゃべり担当の俺ってことで。な?」
「はい。慣れないことも多いと思いますが、嶋北さんをお手本に頑張ります!」
大御所ともめるのは得策じゃない。
大人しく神妙に頭を下げると、嶋北さんもどちらが上かハッキリして少しは納得したようだった。
「はははっ! お手本にしなくていいって! 俺みたいにしゃべられたら俺の仕事が減るからさ。アオくんはニコニコとイケメンしておいてよ!」
古い人だからか、「スポンサー」の一言で話が通じるのはいいのか悪いのか……テレビ業界の悪習のような気もするけど、助かった。俺の隣でマネージャーの遠野さんも顔に出さずほっとした気がする。
「でもさぁ、若い女の子たりなくない? これじゃあ若い男が観ないって。せめて女子アナをこんなオバサンじゃなくて若い……ほら、去年入った巨乳のさ、あの子とか」
四十代で育休から復帰したての女性アナウンサーの顔が引き攣……りはしないか。女性アナウンサーも大御所ともめるのはまずいと必死に困ったような笑顔を浮かべている。
「こちらの番組は、家族で安心して視聴できるファミリークイズで……」
「あー毒にも薬にもならない、ぬるい感じ? まぁ、ねぇ。昨今コンプラがね、厳しいか。はぁー、テレビもつまんなくなるねぇ」
嶋北さんの発言は完全にアウトだけど、まぁ……いるよなぁ、こういうベテラン。
年配の芸能人が全員こうという訳ではなく、年配の、昔人気があってやりたい放題だった人が「昔はよかった」と言うことが多いし、そう言う人はいまだに影響力がある。
ヤバくても多少はもみ消せるんだろう。実際、放送される番組ではギリギリのラインの発言しかない。気を付けているのか、カットしてもらっているのか……
「でも、この曜日に他にクイズ番組ないし、俺が司会ならそこそこ視聴率はいくんじゃない?」
イラっと思うこともあるけど、今までにもっとヤバいおじさんもおばさんもたくさん見てきた。
折角、伊月さんとの恋人のフリを頑張って手に入れた初MCの仕事なんだ。
苦労を水の泡にしたくない。
こんな昭和頭のおじさんくらいスルーだ。
大丈夫。
聞き流して、自分の仕事に集中するだけだ。
それが、プロの芸能人だ。
初めてのお家デートの翌朝、そんなことを言いながら頬にキスをされて、今日は一人でタワマンを後にした。
ちなみに、今日も用意されていた新品の下着、さらに今日の仕事にちょうどいい新品の服を身に着け、用意してくれたいつも自分で作る朝食と同じ朝食を食べた。
……前回俺が身に付けていた下着ってどうなったのかとか、昨日着ていた下着と服がどうなるのかとか、引っかかるところはあるけど……一応、昨日から今日にかけてしたことを思い返せば、ごく普通の恋人のお家デートだった気がする。
伊月さんは「次に会えるころにはアオくんが好きな海外ドラマの新シリーズが配信されているはずだから、あれ観ようね。あと、もし時間があったらマンションの中のプライベートジムも行ってみる?」と言っていた。
「オフはどうせ家で映画やドラマを観て食事の作り置きをするか、体づくりが必要な時期ならジム通いだから……オフの過ごし方の横に、伊月さんがくっついているだけと思うと、そんなに負担ではないか」
……と、自分に言い聞かせた。
◆
二回目のお家デートの翌日、テレビ局の広めの会議室で、新しく始まるクイズバラエティ番組の顔合わせをしていた。
レギュラー放送は次の次のクールからだけど、その前に絶対に視聴率の取れる豪華ゲストを招いた特番を数回放送し、「好評につきレギュラー化」と銘打つ算段だ。意外と力の入った番組だな……初MCなのに責任重大だけど、メインMCは俺一人ではなく、大御所芸人の嶋北さんも一緒だし、サブにベテランの女性アナウンサーがつく。
俺は安心。ただ、大御所芸人さんには……
「えー! 俺の出番これだけ? このメンツならしゃべりはどう考えても全部俺だろ!?」
嶋北さんは今年六十代の後半に入る司会慣れしたベテランだから、自分ひとりがメインではないことが不満のようだ。元々毒舌……何でもズバっというところが売りの人だし。六十代のわりに体格がよく、体も声も大きいのでちょっと怖い。
司会として仕切るのはすごく上手いから尊敬しているし、不満もわからなくはないけど。
「あとさ、若い子を横につけるのはわかるよ? アオくん、女の子の人気すごいし、視聴率には必要。でも、メインがどっちかハッキリさせないと。視聴者も混乱しない?」
「嶋北さんのおっしゃることはわかるんですが、スポンサーが……」
やや若めで線の細い男性プロデューサーさんが語尾を濁すと、嶋北さんは顔を歪ませながらも笑ってくれた。
「あぁ、なんだっけ、自動車か。アオくんがCMしてるとこか。それはしかたないなぁ。ま、俳優サンは台本通りにしゃべるのが仕事だと思うからそこは任して、あとは俺が勝手にしゃべるか~。見た目担当のアオくん、しゃべり担当の俺ってことで。な?」
「はい。慣れないことも多いと思いますが、嶋北さんをお手本に頑張ります!」
大御所ともめるのは得策じゃない。
大人しく神妙に頭を下げると、嶋北さんもどちらが上かハッキリして少しは納得したようだった。
「はははっ! お手本にしなくていいって! 俺みたいにしゃべられたら俺の仕事が減るからさ。アオくんはニコニコとイケメンしておいてよ!」
古い人だからか、「スポンサー」の一言で話が通じるのはいいのか悪いのか……テレビ業界の悪習のような気もするけど、助かった。俺の隣でマネージャーの遠野さんも顔に出さずほっとした気がする。
「でもさぁ、若い女の子たりなくない? これじゃあ若い男が観ないって。せめて女子アナをこんなオバサンじゃなくて若い……ほら、去年入った巨乳のさ、あの子とか」
四十代で育休から復帰したての女性アナウンサーの顔が引き攣……りはしないか。女性アナウンサーも大御所ともめるのはまずいと必死に困ったような笑顔を浮かべている。
「こちらの番組は、家族で安心して視聴できるファミリークイズで……」
「あー毒にも薬にもならない、ぬるい感じ? まぁ、ねぇ。昨今コンプラがね、厳しいか。はぁー、テレビもつまんなくなるねぇ」
嶋北さんの発言は完全にアウトだけど、まぁ……いるよなぁ、こういうベテラン。
年配の芸能人が全員こうという訳ではなく、年配の、昔人気があってやりたい放題だった人が「昔はよかった」と言うことが多いし、そう言う人はいまだに影響力がある。
ヤバくても多少はもみ消せるんだろう。実際、放送される番組ではギリギリのラインの発言しかない。気を付けているのか、カットしてもらっているのか……
「でも、この曜日に他にクイズ番組ないし、俺が司会ならそこそこ視聴率はいくんじゃない?」
イラっと思うこともあるけど、今までにもっとヤバいおじさんもおばさんもたくさん見てきた。
折角、伊月さんとの恋人のフリを頑張って手に入れた初MCの仕事なんだ。
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それが、プロの芸能人だ。
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