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第10話 お家デート(2)

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 その後の「お家デート」は、普通だった。
 夕食は、俺の希望でヘルシーなベトナム料理をデリバリーで頼んでくれて、最近俺が出ているドラマの話なんかをしながら美味しく食べた。
 食後は伊月さんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、リビングの大きなテレビで俺が見たかった映画を観た。大きなソファなのにピッタリ恋人らしい距離で座って観るのは慣れないけど……話しかけてくるとか、スキンシップを求めてくるようなことはなかった。映画は集中して観たいから助かる。
 そうこうしているうちに、外はもう真っ暗で、リビングの大きな窓からは俺の大好きなタワマンらしい夜景が見えた。

「この部屋の夜景もキレイですね」
「あぁ、これが売りだからね」

 映画が終わって、軽く感想を話したりして、だんだん無言の時間が増えたり、伊月さんの手が俺の肩に回ったり……なんとなくこの後のことを予感した。
 たぶん、そろそろセックスしたいんじゃないかなって。

「でも、俺……」
「ん?」

 前回、童貞に貪られるようなセックスをして、痛くて、怖くて、苦しかった。
 だけど……

「寝室からの夜景の方が好みかもしれないです」

 早くセックスしたい。
 したくないけど、したい。

「そっか……じゃあ、寝室行こう」

 伊月さんがとても嬉しそうに、どう見ても恋人にするように頬にキスをして、恋人らしく手を握った。
 
「はい」

 童貞……を卒業したばかりの人とのセックスは苦しいけど、前回は最終的には気持ちよくなれた。
 二週間溜まった性欲を発散できるのは悪くない。
 それに……

「アオくん、恋人なんだから敬語じゃなくていいよ?」

 寝室に向かうまでの廊下で、顔を近づけながら言われる。
 ……そうか。恋人同士って敬語じゃないか。

「はい。でも……仕事でも、私生活でも、敬語以外でしゃべることなんてほとんどないので、タメ口の方が上手くおしゃべりできない、かも」
「そっか。家族にも敬語だっけ? アオくんが話しやすい口調なら俺はなんでもかまわないよ」
「はい」

 なんで家族にも敬語だってこと、知っているんだろう?
 いや、そこじゃなくて……「恋人」なんていたことが無いからなにが普通か解らない。
 物語がわかっている「演技」とは違う、その場に合わせて演じる「即興演技」のレッスンやワークショップにも参加していて上手い自信はあるけど……経験の少ない「恋人役」の実演は疲れる。
 それに、伊月さんの言葉の端々に感じる甘ったるい重さが怖いし。
 
 だから……

 多少苦しくても、性欲が発散できるうえに「恋人らしい行為」のセックスに持ち込んでしまえば簡単。間が持つ。たぶん伊月さんにも満足してもらえる。

「アオくん、いい?」
「はい」

 寝室で抱きしめられると、喜んで頷いた。
 あとは、いつもの枕営業と同じだ。


      ◆


「あ、ん! アァッ!」

 二回目のセックスも、まだ脱童貞したてらしい無茶苦茶な興奮のままに貪るようなセックスで……でも「激しくされる」「まだ童貞卒業二回目」「俺のことが好きすぎる」……そういうことが解っていれば、怖さは半減。
 受け入れる覚悟もできて、激しさを味わう余裕もできた。

「あ……伊月さん……きもち……伊月さん……!」
「ん、アオくん……今日の方がかわいい。恋人になったから? こんなにかわいく抱かれてくれるんだ?」

 そういうわけではないけど、そうしておこう。

「はい。好きな人とのセックス……きもちいい……」

 俺好みの引き締まった体を抱きしめ、最近見たドラマでこんなことを言っている登場人物がいたな……なんて思いながら言うと、伊月さんは蕩けそうな笑顔になってくれた。

「かわいいなぁ。俺のこと、そんなに喜ばせてどうするの? これ以上好きになれないくらい大好きなのに」
「あ! あ、あ、い、いつき、さん!」
「ごめん。嬉しすぎて、興奮しすぎて我慢できない」

 元々激しかった伊月さんの腰振りが、さらに強くなる。
 もうイくやつだ。

「はぁ、好きだよ、好き……アオくん、好き……大好き……アオくん……ッ!」

 童貞らしい必死の腰振りで、至近距離で嬉しそうに俺の顔を見ながら伊月さんがイった。

「ん、んんんっ!」

 刺激が強すぎるけど、大きなペニスに前立腺も最奥も押しつぶされ続けば流石に俺も……

「はぁ……アオくんもイけた? よかった」

 タイミングを合わせて射精することができた。
 受け入れてしまうとこの強い刺激も……悪くないかも。

「はい……でも、すみません、もう……」

 射精の気だるさのまま瞼を閉じると、伊月さんはすぐに萎えたペニスを抜いてくれた。

「いいよ。寝ちゃって。まだ、余裕のないセックスでごめんね?」

 伊月さんの唇が頬に触れる。
 確かに激しいセックスではあったけど、前回と違って、今日は気を失うほどではなかったしもう一回くらい付き合えなくはない。
 でも、できればここで終わりがいい。
 体力きついし、寝てしまえば恋人のフリをしなくていいから。
 このままベッドに体重を預けて、目を閉じて……ん?

「頑張ってくれて、ありがとう」

 あ……?
 伊月さんの手が、優しく俺の頭をポンポンと撫でる。枕営業ではこんなことしてくる人はいなかった。
 どうしよう。
 これ、弱いんだよね。
 よくセクハラとか言われるけど、年上に頭をポンポンされるの、好き。
 頑張ったねとかえらいねって言われながらは、さらに……

「伊月さん……」

 自然と甘ったるい声が出て伊月さんの胸元に擦り寄ると、また頭を撫でてくれた。
 いいな……気持ちいいな……
 それに、調子に乗せてしまったな……まぁいいか。たぶん、これは恋人らしい。
 
「アオくん……大丈夫だよ。アオくんがして欲しいことは全部俺がしてあげるからね」

 半分夢心地で聞こえた言葉は、重すぎるとは思ったけど……もういい。気にしても仕方がない。
 このまま意識を手放そう。
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