いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第八章~遥かな扉~

四百七十五話

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 身体を拭うのももどかしく、宏ちゃんとぼくは寝室に向かった。がっしりした首に抱きついて、浅い息を吐いていると、抱える腕が強くなる。森のフェロモンを吸い込んで、くらくらする。
 
 ――好き……っ、だいすきぃ……
 
 宏ちゃんのことが、すごく欲しい。
 切なくて、恋しくて――逞しい首にキスを繰り返すと、宏ちゃんがくっと息を詰めた。
 
「……っ、煽りすぎだ!」
 
 宏ちゃんは、寝室のドアを蹴り開ける。いつになく乱暴な仕草に、どきどきしちゃう。
 
「ひろちゃん……っ、すき……」
「成……俺もだ」
 
 濡れたまま、優しくベッドに横たえられた。ぼくは、覆いかぶさってきた夫に、両腕を伸ばす。
 
「ぁん……っ、ふ……」
 
 きつく抱きしめられて、すぐにキスが始まる。ぴったりと合わさった唇の中で、とろけるように舌が絡みついた。頭の奥がビリビリ、と痺れるような快感が走る。
 
「んん……っ!」
 
 びくん、と両脚が跳ねて、マットを叩いた。顕著な反応に、宏ちゃんが艶めいた笑いを漏らす。
 
「すごいな……キスだけで?」
「や……恥ずかしい……」
「可愛いよ」
 
 愛おし気に囁かれ、かあ、と顔が熱る。でも、ほんまに自分でも戸惑うくらい、感じてたん。やわらかい唇を重ね合うたび。熱い指先がぼくの肌をなぞるたび、感覚が研ぎ澄まされて――ぞくぞくって、甘い痺れがお腹に溜まっていくん。
 
「成の体、すごく熱いな……それに、この香り……くらくらする」
「ひゃんっ」
 
 悪戯に太ももを撫でた手が、そっと奥に触れる。はじけそうな蕾をするりと撫で、その下の生殖弁に進んだ。長い指に、優しく押されて――くぷ、と水音が立った。
 
「ひあ……?」
 
 ぼくは、息を飲んだ。
 
 ――指が、沈みかけてる?
 
 生殖弁は、ヒート以外は開かないはずなのに……。戸惑いの最中も、宏ちゃんの指が割れ目をなぞるたび、そのリズムに合わせて、甘い声が漏れちゃう。
 
「いやあ……ああぁっ、ふぁあ……!」
「……ここ、開きかけてる。今から、ヒートがくるんだよ」
「や、んっ……」
 
 優しく諭されているのに、返事も出来ない。
 
 ――ヒー、ト? ……薬の、せい……?
 
 ぽうっとした頭で、考えている間も――やまない愛撫が与えられる。ほんの少し、指先が沈んでいるだけなのに、腰が溶けてしまいそう。こんなのは、はじめて。
 
「あぁ……っ、ひろちゃ……!」
 
 視界がかすみ、がくん、と大きくのけ反った。
 指を抜かれたそこから、つー……と、溢れた蜜がお尻に伝って、ゾクゾクと震えてしまった。
 


 
 ――きもち、いいよぅ……
 
 はあはあと胸を喘がせていると、宏ちゃんがたまらなそうに息を吐いた。
 
「成っ……!」
 
 少し強引にベッドに押さえつけられて、胸元にキスされる。ちゅ、と強く胸の真ん中を吸われた。
 
「やぁ……っ!?」
 
 甘い疼痛に、きつく目を瞑る。ちゅ、ちゅ、と唇が悪戯に移動し、ぼくの肌に甘い痛みを散らしていく。
 
「ひろちゃ……ああっ……ん」
 
 思わず身をよじると、「逃がさない」と言うように、抱きすくめられた。胸だけでなく、鎖骨や首筋にも、思うさま吸い付かれてしまう。
 
「や、あ……そこはっ」
 
 ぼくは、ハッとする。
 宏ちゃんは、身体に散った花びらを、キスで上書きしてくれていたん。陽平につけられた傷に、ぼくが傷つかないでもいいように……そう気づいたら、あまりの愛おしさにますます蕩けてしまう。
 
「あぁあん……っ」
 
 胸の尖りをきつく吸われ、片方は指で捏ねられる。執拗なほどのキスに翻弄されていると――宏ちゃんが、ふと呟く。
 
「……俺のだ。成……」
「……っん……」
「全部、俺のものにしたい……」
 
 切ない囁きに、どろどろと熱い感情が滲んでいる。――最近、やっと身に馴染んできた、優しい宏ちゃんの、”雄”の声。
 いつもは、嬉しいけど気恥ずかしくて……逃げたい気持ちと、ぎゅっと捕まえてほしい気持ちが同居してたん。
 でも、今夜は――。
 
「うれしい……」
 
 ぽろ、と涙がこぼれた。宏ちゃんに求められて、ただ嬉しい。
 陽平とあんなことがあったのに、こんな風に求めて貰えるなんて――。ぽろぽろと涙をこぼすぼくに、宏ちゃんは慌てたように顔を上げる。
 
「成……ごめんな。苦しかったか?」
「ううん」
 
 ぼくは、ぎゅっと抱きついた。ぼくが少しでも怖がったら、欲望を封じてしまう優しい人。そんな人だから……ぼくが、もっと欲張りになりたいの。
 
「……どうした?」
「大好きだよ……宏ちゃんの番に、なりたい……」
 
 秘めていた願いを口にすると、宏ちゃんの目が見ひらかれた。ぼくは、愛おしさに背を押されるままに、夫の顔を引き寄せ、キスをする。自分から誘うように、そっと舌を差し入れてみる。
 
 ――怖くないよ……宏ちゃんとなら。
 
 宏ちゃんの優しさを奪うように、懸命に舌を動かす。しばらくされるがままでいてくれた夫は、くっと喉を鳴らし……ぼくの腰を抱きしめた。
 
「成……ッ!」
 
 ばふ、とベッドに押し倒されて、ぼくは「あっ」と喘いだ。大きな手に両頬を包まれ、額がこつんと押し当てられた。
 
「成己を愛してる……一生、大事にするよ」
「……宏ちゃん」
「俺のものになってくれるか?」
 
 真摯な問いに、ぼくは泣き笑いで応えた。
 
「うんっ」

 ぼくたちは、きつく抱きしめ合った。汗ばんだ肌がくっついて、芳醇な森の香りが鼻腔を撫でる。誰の介入も許さないというような、深いフェロモンに幸福の笑みがこぼれた。
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