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第八章~遥かな扉~
四百七十六話
――おなかに、太陽を抱く夢を見た。
ぼくは、ちいさな火の玉を、抱え込むように体を丸めている。
「あっ……」
すると、こぷりと音を立て、赤い光が身の奥に沈んでいく。――その途端、火に抱かれるように、体が熱くなった。
「やあ……!?」
――あつい。お腹が燃えるみたい……!
助けを求めるように、手を伸ばした。すると、強く手を引かれ、抱き留められる。
深く、たっぷりの水を含んだ森の匂いに包まれた。
「成」
穏やかな声が、耳元に聞こえる。
肌に、やさしく触れられる感触がして――ふっと意識が浮上する。
「……んぅ……」
薄目を開けると、くしゃくしゃのシーツが見えた。
寝室は、しっとりとした熱気にみちて、噎せる程の森の香りが漂っている。
――え、と……?
「成……?」
「あっ」
耳元に熱い息が触れて、ぱちりと目を見ひらく。ぼくは後ろから、宏ちゃんに抱かれていたんよ。ぴったりと密着した体に、顔が真っ赤になった。
「どうした……ちょっと、気を失ってた?」
「ん……っ」
からかうような甘い声に、照れてしまう。
「だ、だって……きもちよくて……」
ごにょごにょ、と言葉を濁す。……あの後から、ずっと宏ちゃんに抱かれていたんやもん。ヒートが来るまで、ゆっくり待っていようって宏ちゃんは言ったん。熱に浮かされたぼくを、宏ちゃんはずっと抱きしめてくれていて……ずっと気持ち良くて。
――それで、気を失っちゃったんや……。
そう言えば、いっぱい宏ちゃんに甘えて、はしたなく求めたような気も……。何度抱きしめられても、「足りない」って泣いて、お願いした自分を思いだして、「わああ」と叫びたくなる。
「ご、ごめんね」
恥ずかしくて小さくなっていると、宏ちゃんは低く笑った。ぎゅっ、と抱きしめてくれる。
「嬉しいよ。もうすぐなんだな……」
「……っ」
後ろから、そっとキスされる。甘い快感に、うっとりと目を瞑った。ぼくの言葉を奪いながら……大きな手が、そっと下腹を撫でる。
――あっ。
夢の中で、熱い火を飲み込んだそこに触れられて、息を飲んだ。
*
宏ちゃんが、不思議そうにぼくの肩を抱く。
「――成?」
「あ……あっ」
ぼくは、わが身を抱いてぶるぶると震えた。
宏ちゃんを包んだところが、ざわざわ……と蠢きだす。お腹の奥で、くすぶっていた炎が一気に燃え盛るみたいやった。
「いやああっ……」
部屋中に、甘い匂いが広がる。ぼくの中で熟した果実が、その実を裂いて、甘い蜜をあふれさせていた。その溶け落ちる感覚だけで、一気に上りつめてしまう。
――あついっ……!
絶頂に腰が跳ね、宏ちゃんを締めつける。下腹を襲う狂騒的な切なさに、ぼくはいやいやと頭を振った。
「おねが……おねがいっ。たすけて……」
「成……! 大丈夫だよ。俺がいる」
「あっ!」
宏ちゃんはぼくを抱き、ベッドに横たえる。膝を掴み、押し開くと――宏ちゃんを受け入れた場所の上、潤み咲く生殖弁に、そっと触れてくれる。
「ああぁっ」
「すごい……綺麗だ。もっと、よく見せて……」
宏ちゃんが、熱っぽい声で囁く。ふっくらした花弁をひらいて、その奥を露わにされる。とめどなく蜜を吐きだすそこに、焦げるような眼差しが浴びせられた。
「やあぁ……っ」
「ああ……きゅって窄まって……可愛いな」
「ひぁっ!」
宏ちゃんが、蜜口を小指でくすぐる。くちゅくちゅと泥濘を混ぜられて、腰が悶えてしまう。
「あああ……そこ、だめっ……!」
ぼくは泣きながら、腰を揺する。宏ちゃんは艶めいた笑みを浮かべ、指を沈めてきた。水音を立て、隘路に指が進んでくる。くねくねと内側を優しく揉みながら……ぼくの奥まで。
「あ……あ……あ」
「すごい……熱くて、絡みついてくる。奥に引っ張り込まれそうだ」
「やあ……」
恥ずかしいことを言われているのに、蜜を溢れさせてしまう。愛しいアルファが高揚してくれて、嬉しくて――。もっと喜んで欲しい、って本能が騒いでるん。
やがて――最奥を、とんっと指が圧した。
「あああ……!」
びりびり、と快感の火花が散る。宏ちゃんは確かめるようにそこを触ると、低く訊ねた。
「痛くないか?」
ぼくはこくこくと頷く。大粒の涙が頬をつたっていた。
「あつい……っ、ひろちゃ……」
下腹が燃えそうに切なくて、すんすんとすすり泣く。
「ああ……」
宏ちゃんは身を屈め、キスしてくれた。心を蕩かすような、甘いキス――それだけで、何度も震えてしまうぼくを、ぎゅっと抱いてくれる。
「俺にまかせてくれ。お前の全てを……」
「……んっ……!」
優しく指を絡められ、シーツに縫い付けられた。膝をひらかれて、ゆっくりと引き抜かれていく。今か今かと……期待で鼓動が激しくなる。
――はやく……さわって。もっと……
ついに、潤む場所に熱い昂りがあてがわれた。
「宏ちゃんっ……」
泣きながら、愛しい人の名を呼ぶ。宏ちゃんは力強く頷いて、ぼくを抱き寄せた。
「……あっ」
じゅぶ、と潤んだ音を立て、押し開かれる。宏ちゃんの熱が、ぼくの泥濘に沈んでいく。燃えるような昂りを感じて、下腹もなにもかも熱くて、ぼくは呻いてしまう。
「あ……ぐぅ……っ!」
激しく息づく夫に抱かれながら、痺れるような快楽に満たされていく。苦しいのに、とても甘美で……嬉しい。
――かわっ、ちゃう……
痺れるような意識の片隅で、思った。……宏ちゃんが、ぼくの欠けていたものを埋めてくれるんだ。今まで、寂しくて、足りなくて……泣いていた部分が、抱かれているんやって。
頬を、幸福の涙が濡らす。
――ずっと、欲しかった。宏ちゃんが……。
ひっひっとしゃくりあげていると、目尻に愛しむようなキスをされる。可愛い、食べちゃいたい、っていうみたいに、顔中にキスがふってくる。
「成……愛してる。もう、誰にも渡さない……!」
「……っ!」
甘い愛の囁きに、歓喜に胸が熱くなる。ぼくからも唇を求めると、すぐに応えてくれる。熱っぽく舌を絡め合い、強く抱きしめ合った。森の木々の香りに包まれて、ふわふわする。
「好き……大好きっ」
「俺もだ……成、好きだよ……!」
キスの狭間、愛を伝える。……キスも話すのも、同時に出来ればって思うくらい、宏ちゃんが恋しい。そうしたら、ぎゅっと抱きかかえられて、またいちだんと繋がりが深くなる。
「あ……あああ……っ」
快楽に目がちかちかする。抱きしめられる肌も、キスを受ける唇も……全部気持ちよくて。大きく揺さぶられるたびに、お腹の炎が燃え上がった。くらくらするようなそれに、目の前が白く霞んでいく……。
「も、もう……だめぇ……っ」
「成っ……」
逞しい腰に脚を絡める。愛しい人を離すまいと、ぎゅう、って締めつけた。ぼくのオメガの本能が、初めてのそのときを、心待ちにしてるん。
「きてっ……ひろ、ちゃんっ……」
「ああ……俺も、一緒に……!」
ギシギシとベッドが壊れそうに軋み、お互いを求める声が静かな夜をこだまする。ぼく達は抱き合って、誰にも邪魔されない場所まで、駆けあがっていく――。
「……くっ!」
やがて、宏ちゃんが切ない息を漏らした。
ぼくは、最奥でその情熱を受けとめて、泣き声をあげた。ドクドク、と心臓みたいに脈打つそこを、からだのいちばん奥に抱きながら……愛しくて、泣いてしまったん。
*
寝室は、嵐の過ぎ去った後の甘い余韻で満ちていた。
濡れたシーツの上で、宏ちゃんとぴったりと寄り添って……浅い息を吐く。
「ふ……っ、う……」
「……」
好き。宏ちゃんが好き……。
どんどん想いがふくらんで、胸がくるしいよ。
静かに泣いていると……ぼくをきつく抱いていた腕が、するりと解かれた。身を起こした宏ちゃんが、どこかへ手を伸ばし――それから、ぼくの首に触れる。
ばちん。
音を立てて、首が軽くなった。
「え……っ?」
それから、ころんと後ろを向かされちゃう。大きな手のひらが、汗だくの項を撫で上げた。
両肩をマットに押し付けられ、項に荒い息が触れて……ぼくは何が起きるか、悟る。
「あ……」
黙ったままの夫は、フェロモン線の場所を探るよう、唇を這わせている。ときどき鋭い牙が触れ、息が乱れた。噛まれて、毒を注ぎこまれたら……ぼくは、死ぬまでこの人のモノになる。
『成』
優しい宏ちゃんの微笑みが浮かぶ。
――……こわく、ないよ……
目を閉じて、からだの力を抜いた。
ぼくのオメガは、あなたのもとで終わる。絶対に、後悔しないから……だから。
「かんで……」
訴えた瞬間、項に鋭い痛みが走った。
「――ぁあっ!」
獲物を食いちぎるよう、牙が深く食い込んだ。そこから、所有、独占――アルファの愛情のすべてが、からだの奥に流れ込んでくる。
項がドクン、と脈打ち、物凄い激痛が背骨を衝きぬけた。
「あぁああ……っ!」
完成したパズルを叩き壊すような、傲慢な痛みに泣き叫ぶ。死にかけの獲物のように、じたばたと四肢が暴れた。けれど、圧し掛かってくる大きな獣に簡単に制圧されて、ひっと悲鳴が漏れる。
――壊れ、ちゃう……!
ぼくは怯え、愛しい人を呼んだ。
「ひろちゃ……ひろちゃん……っ」
真っ暗闇に落ちていきそうで、怖いよ。泣きながら、必死に手を伸ばすと……大きな手に捕まえられる。
「あ……」
ぎゅ、と確かな力が籠った。繋いだ左手に、銀色の光がちらりと瞬いてる。
「……愛してる」
宏ちゃんが、言う。
「成己を愛してる……」
息を飲んだ。こんなに狂おしい夫の声を、聞いたことがなかった。ぽろ、と涙が溢れる。
――ぼくも、愛してる……
そうや。
宏ちゃんとなら、どうなってもいい。行き先が真っ暗闇だとしても、ぼくたちの愛が、道を照らしてくれるはず――。
ぼくは目を閉じて、ただ一つの運命に身をゆだねる。
「……おにい、ちゃん……」
覆いかぶさっている宏ちゃんの体温が、優しい。
痛みに朦朧とする意識で――バラバラになったぼくが、宏ちゃんの手に落ちていく気がした。ぼくのピースがいくつか欠け落ちて、かわりに新しいピースが嵌められていく。
愛しい人の手によって死なされ、また生き返らされていくように……。
「ああ……」
気の遠くなるような時間の後……愛しいアルファが、切ない息を漏らす。どっ、と崩れ落ちたぼくは、大切に抱きしめられた。
「成……やっと、俺だけのものだ」
蜜のように甘い声が、囁いたのを最後に――ぼくの意識は闇に飲まれた。
ぼくは、ちいさな火の玉を、抱え込むように体を丸めている。
「あっ……」
すると、こぷりと音を立て、赤い光が身の奥に沈んでいく。――その途端、火に抱かれるように、体が熱くなった。
「やあ……!?」
――あつい。お腹が燃えるみたい……!
助けを求めるように、手を伸ばした。すると、強く手を引かれ、抱き留められる。
深く、たっぷりの水を含んだ森の匂いに包まれた。
「成」
穏やかな声が、耳元に聞こえる。
肌に、やさしく触れられる感触がして――ふっと意識が浮上する。
「……んぅ……」
薄目を開けると、くしゃくしゃのシーツが見えた。
寝室は、しっとりとした熱気にみちて、噎せる程の森の香りが漂っている。
――え、と……?
「成……?」
「あっ」
耳元に熱い息が触れて、ぱちりと目を見ひらく。ぼくは後ろから、宏ちゃんに抱かれていたんよ。ぴったりと密着した体に、顔が真っ赤になった。
「どうした……ちょっと、気を失ってた?」
「ん……っ」
からかうような甘い声に、照れてしまう。
「だ、だって……きもちよくて……」
ごにょごにょ、と言葉を濁す。……あの後から、ずっと宏ちゃんに抱かれていたんやもん。ヒートが来るまで、ゆっくり待っていようって宏ちゃんは言ったん。熱に浮かされたぼくを、宏ちゃんはずっと抱きしめてくれていて……ずっと気持ち良くて。
――それで、気を失っちゃったんや……。
そう言えば、いっぱい宏ちゃんに甘えて、はしたなく求めたような気も……。何度抱きしめられても、「足りない」って泣いて、お願いした自分を思いだして、「わああ」と叫びたくなる。
「ご、ごめんね」
恥ずかしくて小さくなっていると、宏ちゃんは低く笑った。ぎゅっ、と抱きしめてくれる。
「嬉しいよ。もうすぐなんだな……」
「……っ」
後ろから、そっとキスされる。甘い快感に、うっとりと目を瞑った。ぼくの言葉を奪いながら……大きな手が、そっと下腹を撫でる。
――あっ。
夢の中で、熱い火を飲み込んだそこに触れられて、息を飲んだ。
*
宏ちゃんが、不思議そうにぼくの肩を抱く。
「――成?」
「あ……あっ」
ぼくは、わが身を抱いてぶるぶると震えた。
宏ちゃんを包んだところが、ざわざわ……と蠢きだす。お腹の奥で、くすぶっていた炎が一気に燃え盛るみたいやった。
「いやああっ……」
部屋中に、甘い匂いが広がる。ぼくの中で熟した果実が、その実を裂いて、甘い蜜をあふれさせていた。その溶け落ちる感覚だけで、一気に上りつめてしまう。
――あついっ……!
絶頂に腰が跳ね、宏ちゃんを締めつける。下腹を襲う狂騒的な切なさに、ぼくはいやいやと頭を振った。
「おねが……おねがいっ。たすけて……」
「成……! 大丈夫だよ。俺がいる」
「あっ!」
宏ちゃんはぼくを抱き、ベッドに横たえる。膝を掴み、押し開くと――宏ちゃんを受け入れた場所の上、潤み咲く生殖弁に、そっと触れてくれる。
「ああぁっ」
「すごい……綺麗だ。もっと、よく見せて……」
宏ちゃんが、熱っぽい声で囁く。ふっくらした花弁をひらいて、その奥を露わにされる。とめどなく蜜を吐きだすそこに、焦げるような眼差しが浴びせられた。
「やあぁ……っ」
「ああ……きゅって窄まって……可愛いな」
「ひぁっ!」
宏ちゃんが、蜜口を小指でくすぐる。くちゅくちゅと泥濘を混ぜられて、腰が悶えてしまう。
「あああ……そこ、だめっ……!」
ぼくは泣きながら、腰を揺する。宏ちゃんは艶めいた笑みを浮かべ、指を沈めてきた。水音を立て、隘路に指が進んでくる。くねくねと内側を優しく揉みながら……ぼくの奥まで。
「あ……あ……あ」
「すごい……熱くて、絡みついてくる。奥に引っ張り込まれそうだ」
「やあ……」
恥ずかしいことを言われているのに、蜜を溢れさせてしまう。愛しいアルファが高揚してくれて、嬉しくて――。もっと喜んで欲しい、って本能が騒いでるん。
やがて――最奥を、とんっと指が圧した。
「あああ……!」
びりびり、と快感の火花が散る。宏ちゃんは確かめるようにそこを触ると、低く訊ねた。
「痛くないか?」
ぼくはこくこくと頷く。大粒の涙が頬をつたっていた。
「あつい……っ、ひろちゃ……」
下腹が燃えそうに切なくて、すんすんとすすり泣く。
「ああ……」
宏ちゃんは身を屈め、キスしてくれた。心を蕩かすような、甘いキス――それだけで、何度も震えてしまうぼくを、ぎゅっと抱いてくれる。
「俺にまかせてくれ。お前の全てを……」
「……んっ……!」
優しく指を絡められ、シーツに縫い付けられた。膝をひらかれて、ゆっくりと引き抜かれていく。今か今かと……期待で鼓動が激しくなる。
――はやく……さわって。もっと……
ついに、潤む場所に熱い昂りがあてがわれた。
「宏ちゃんっ……」
泣きながら、愛しい人の名を呼ぶ。宏ちゃんは力強く頷いて、ぼくを抱き寄せた。
「……あっ」
じゅぶ、と潤んだ音を立て、押し開かれる。宏ちゃんの熱が、ぼくの泥濘に沈んでいく。燃えるような昂りを感じて、下腹もなにもかも熱くて、ぼくは呻いてしまう。
「あ……ぐぅ……っ!」
激しく息づく夫に抱かれながら、痺れるような快楽に満たされていく。苦しいのに、とても甘美で……嬉しい。
――かわっ、ちゃう……
痺れるような意識の片隅で、思った。……宏ちゃんが、ぼくの欠けていたものを埋めてくれるんだ。今まで、寂しくて、足りなくて……泣いていた部分が、抱かれているんやって。
頬を、幸福の涙が濡らす。
――ずっと、欲しかった。宏ちゃんが……。
ひっひっとしゃくりあげていると、目尻に愛しむようなキスをされる。可愛い、食べちゃいたい、っていうみたいに、顔中にキスがふってくる。
「成……愛してる。もう、誰にも渡さない……!」
「……っ!」
甘い愛の囁きに、歓喜に胸が熱くなる。ぼくからも唇を求めると、すぐに応えてくれる。熱っぽく舌を絡め合い、強く抱きしめ合った。森の木々の香りに包まれて、ふわふわする。
「好き……大好きっ」
「俺もだ……成、好きだよ……!」
キスの狭間、愛を伝える。……キスも話すのも、同時に出来ればって思うくらい、宏ちゃんが恋しい。そうしたら、ぎゅっと抱きかかえられて、またいちだんと繋がりが深くなる。
「あ……あああ……っ」
快楽に目がちかちかする。抱きしめられる肌も、キスを受ける唇も……全部気持ちよくて。大きく揺さぶられるたびに、お腹の炎が燃え上がった。くらくらするようなそれに、目の前が白く霞んでいく……。
「も、もう……だめぇ……っ」
「成っ……」
逞しい腰に脚を絡める。愛しい人を離すまいと、ぎゅう、って締めつけた。ぼくのオメガの本能が、初めてのそのときを、心待ちにしてるん。
「きてっ……ひろ、ちゃんっ……」
「ああ……俺も、一緒に……!」
ギシギシとベッドが壊れそうに軋み、お互いを求める声が静かな夜をこだまする。ぼく達は抱き合って、誰にも邪魔されない場所まで、駆けあがっていく――。
「……くっ!」
やがて、宏ちゃんが切ない息を漏らした。
ぼくは、最奥でその情熱を受けとめて、泣き声をあげた。ドクドク、と心臓みたいに脈打つそこを、からだのいちばん奥に抱きながら……愛しくて、泣いてしまったん。
*
寝室は、嵐の過ぎ去った後の甘い余韻で満ちていた。
濡れたシーツの上で、宏ちゃんとぴったりと寄り添って……浅い息を吐く。
「ふ……っ、う……」
「……」
好き。宏ちゃんが好き……。
どんどん想いがふくらんで、胸がくるしいよ。
静かに泣いていると……ぼくをきつく抱いていた腕が、するりと解かれた。身を起こした宏ちゃんが、どこかへ手を伸ばし――それから、ぼくの首に触れる。
ばちん。
音を立てて、首が軽くなった。
「え……っ?」
それから、ころんと後ろを向かされちゃう。大きな手のひらが、汗だくの項を撫で上げた。
両肩をマットに押し付けられ、項に荒い息が触れて……ぼくは何が起きるか、悟る。
「あ……」
黙ったままの夫は、フェロモン線の場所を探るよう、唇を這わせている。ときどき鋭い牙が触れ、息が乱れた。噛まれて、毒を注ぎこまれたら……ぼくは、死ぬまでこの人のモノになる。
『成』
優しい宏ちゃんの微笑みが浮かぶ。
――……こわく、ないよ……
目を閉じて、からだの力を抜いた。
ぼくのオメガは、あなたのもとで終わる。絶対に、後悔しないから……だから。
「かんで……」
訴えた瞬間、項に鋭い痛みが走った。
「――ぁあっ!」
獲物を食いちぎるよう、牙が深く食い込んだ。そこから、所有、独占――アルファの愛情のすべてが、からだの奥に流れ込んでくる。
項がドクン、と脈打ち、物凄い激痛が背骨を衝きぬけた。
「あぁああ……っ!」
完成したパズルを叩き壊すような、傲慢な痛みに泣き叫ぶ。死にかけの獲物のように、じたばたと四肢が暴れた。けれど、圧し掛かってくる大きな獣に簡単に制圧されて、ひっと悲鳴が漏れる。
――壊れ、ちゃう……!
ぼくは怯え、愛しい人を呼んだ。
「ひろちゃ……ひろちゃん……っ」
真っ暗闇に落ちていきそうで、怖いよ。泣きながら、必死に手を伸ばすと……大きな手に捕まえられる。
「あ……」
ぎゅ、と確かな力が籠った。繋いだ左手に、銀色の光がちらりと瞬いてる。
「……愛してる」
宏ちゃんが、言う。
「成己を愛してる……」
息を飲んだ。こんなに狂おしい夫の声を、聞いたことがなかった。ぽろ、と涙が溢れる。
――ぼくも、愛してる……
そうや。
宏ちゃんとなら、どうなってもいい。行き先が真っ暗闇だとしても、ぼくたちの愛が、道を照らしてくれるはず――。
ぼくは目を閉じて、ただ一つの運命に身をゆだねる。
「……おにい、ちゃん……」
覆いかぶさっている宏ちゃんの体温が、優しい。
痛みに朦朧とする意識で――バラバラになったぼくが、宏ちゃんの手に落ちていく気がした。ぼくのピースがいくつか欠け落ちて、かわりに新しいピースが嵌められていく。
愛しい人の手によって死なされ、また生き返らされていくように……。
「ああ……」
気の遠くなるような時間の後……愛しいアルファが、切ない息を漏らす。どっ、と崩れ落ちたぼくは、大切に抱きしめられた。
「成……やっと、俺だけのものだ」
蜜のように甘い声が、囁いたのを最後に――ぼくの意識は闇に飲まれた。
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