2 / 505
第一章~婚約破棄~
一話
小さいころから、大好きな絵本があった。
「ひろにいちゃん、ほんよんでー」
小学校がひけると、宏兄はセンターに遊びに来てくれた。やから、ぼくは絵本を持って行って、宏兄に「読んで」ってせがんでた。
「わかった、わかった。こっちおいで、成」
「わーい!」
ぼくは宏兄の足の間に座り込んで、一緒に物語を辿る。
その絵本は、群れからはぐれたウサギの物語。
家族からも、友達からもはぐれたウサギは、いろいろな冒険を経て――大切な恋人を見つけ、家族になる。
『これからは、ひとりじゃないんだね』
ラストのページで、ウサギは恋人とたくさんの家族に恵まれ、幸せに笑っていた。
「ぐすっ……ほんまによかったねえ」
ぼくは、ウサギの幸せそうな笑顔に、胸がじいんとした。
幼いぼくは、ウサギのことが他人に思えなかった。何しろ、生まれてすぐにオメガとわかったぼくは――両親の意志でセンターへ譲られていたから。頑張って、自分の家族をみつけたウサギが眩しかった。
頬を伝う涙を拭っていると、宏兄がわしわしと頭を撫でてくれる。
「おまえ、何かい読んでも泣くなあ。そんなに面白いか?」
「えっ、すてきやん? ぼく、ウサギさんみたいになりたいねん」
「ふうん。俺は、ホームズみたいな探偵がいいけどなぁ」
「ひろにいちゃん、わかってなーいっ」
ぷんぷん怒って両腕をふりあげると、宏兄は笑った。ぼくの前髪を指先で梳いて、額に触れる。
そこには花の紋様――オメガの証があった。
「ひろにいちゃん?」
「ウサギさんは置いといて……俺、成の家族にはなりたいな」
「ほんま!?」
ぼくは、宏兄の言葉に嬉しくなる。
やさしい宏兄が、本当の家族になってくれたら。時間が来ても、センターから帰らずに、ずっと一緒にいてくれたら――どれだけ嬉しいか!
「じゃあっ……ひろにいちゃんも、ここにすむ?」
「そりゃ無理だな」
「えーっ!」
期待して聞いた分、がっかりした。目に見えて拗ねるぼくを、宏兄はぎゅっと抱きしめる。
「でも、大人になったら、成を迎えに来るから。そしたら、一緒に住もう」
「……やくそく?」
「ああ、約束だ」
宏兄の言葉が、ぼくの胸にあたたかく染み渡る。
――ぼくと、宏兄は家族。その約束は、ぼくの胸にある寂しさを、そっと抱きしめてくれた。
たとえそれが、幼いころだけの宝物だとしても……ぼくの大切な支えだった。
***
鳥の鳴く声で、目が覚めた。
頬に、ほのかに日差しの温みを感じる。――昨夜は、カーテンを閉め忘れたんだっけ? ぼくは、あくびをしながら、のろのろと目を開けた。
「……すう」
隣には、ぼくの婚約者である陽平が、深い寝息を立てていた。一緒に住むと決めたとき、「絶対にベッドはひとつ!」と粘って良かったと思うのは、こういう瞬間だ。目が覚めて一番に、家族の顔が見えるんだもの。
「ふふ、子供みたいやねぇ」
いつも不機嫌そうに寄った眉がほどけた、あどけない寝顔。長い栗色の前髪を、そっと指で梳くと「んん」と呻く。ぼくは、ぱっと手を放した。
昨夜も、サークルの飲み会で遅かったみたいだし。起こしちゃったら、かわいそうやね。
朝ごはんの支度をする為、そろそろと陽平の体を跨いだとき――ぎゅっと膝がなにかを踏みしめた。
「――痛っ!」
「えっ?」
目を丸くした途端、布団から飛び出してきた”何か”に放り落とされる。
ドタン! ベッドから落ちて、ぼくは尻もちをついた。
「いたあっ」
涙目で、尻をさすっていると――「いたた……」と掠れた甘い声が聞こえてきた。ばさり、と布団がベッドからずり落ちて、声の主が姿を現した。
黒髪に、白く滑らかな肌の美青年。朝日に照らされた白皙の美貌に、ぼくは息を飲む。
「み、蓑崎さん!?」
「おはよ、成己くん。お邪魔してまーす」
気だるげに片目をつぶって、蓑崎さんはベッドに胡坐をかいた。見覚えのあるスエットのパンツに、上半身には何も着ていない。
「な、なんで……」
「んだよ、うっせえなあ」
びっくりしすぎて、口をパクパクさせていると、不機嫌そうな声がもう一つ。もぞもぞと、陽平が身を起こす。こっちはひとまず、ちゃんと服を着てたので、一安心だ。
とはいえ、
「ねえ、陽平。どういうこと!?」
ぼくは仁王立ちで、二人を問いただした。
「ひろにいちゃん、ほんよんでー」
小学校がひけると、宏兄はセンターに遊びに来てくれた。やから、ぼくは絵本を持って行って、宏兄に「読んで」ってせがんでた。
「わかった、わかった。こっちおいで、成」
「わーい!」
ぼくは宏兄の足の間に座り込んで、一緒に物語を辿る。
その絵本は、群れからはぐれたウサギの物語。
家族からも、友達からもはぐれたウサギは、いろいろな冒険を経て――大切な恋人を見つけ、家族になる。
『これからは、ひとりじゃないんだね』
ラストのページで、ウサギは恋人とたくさんの家族に恵まれ、幸せに笑っていた。
「ぐすっ……ほんまによかったねえ」
ぼくは、ウサギの幸せそうな笑顔に、胸がじいんとした。
幼いぼくは、ウサギのことが他人に思えなかった。何しろ、生まれてすぐにオメガとわかったぼくは――両親の意志でセンターへ譲られていたから。頑張って、自分の家族をみつけたウサギが眩しかった。
頬を伝う涙を拭っていると、宏兄がわしわしと頭を撫でてくれる。
「おまえ、何かい読んでも泣くなあ。そんなに面白いか?」
「えっ、すてきやん? ぼく、ウサギさんみたいになりたいねん」
「ふうん。俺は、ホームズみたいな探偵がいいけどなぁ」
「ひろにいちゃん、わかってなーいっ」
ぷんぷん怒って両腕をふりあげると、宏兄は笑った。ぼくの前髪を指先で梳いて、額に触れる。
そこには花の紋様――オメガの証があった。
「ひろにいちゃん?」
「ウサギさんは置いといて……俺、成の家族にはなりたいな」
「ほんま!?」
ぼくは、宏兄の言葉に嬉しくなる。
やさしい宏兄が、本当の家族になってくれたら。時間が来ても、センターから帰らずに、ずっと一緒にいてくれたら――どれだけ嬉しいか!
「じゃあっ……ひろにいちゃんも、ここにすむ?」
「そりゃ無理だな」
「えーっ!」
期待して聞いた分、がっかりした。目に見えて拗ねるぼくを、宏兄はぎゅっと抱きしめる。
「でも、大人になったら、成を迎えに来るから。そしたら、一緒に住もう」
「……やくそく?」
「ああ、約束だ」
宏兄の言葉が、ぼくの胸にあたたかく染み渡る。
――ぼくと、宏兄は家族。その約束は、ぼくの胸にある寂しさを、そっと抱きしめてくれた。
たとえそれが、幼いころだけの宝物だとしても……ぼくの大切な支えだった。
***
鳥の鳴く声で、目が覚めた。
頬に、ほのかに日差しの温みを感じる。――昨夜は、カーテンを閉め忘れたんだっけ? ぼくは、あくびをしながら、のろのろと目を開けた。
「……すう」
隣には、ぼくの婚約者である陽平が、深い寝息を立てていた。一緒に住むと決めたとき、「絶対にベッドはひとつ!」と粘って良かったと思うのは、こういう瞬間だ。目が覚めて一番に、家族の顔が見えるんだもの。
「ふふ、子供みたいやねぇ」
いつも不機嫌そうに寄った眉がほどけた、あどけない寝顔。長い栗色の前髪を、そっと指で梳くと「んん」と呻く。ぼくは、ぱっと手を放した。
昨夜も、サークルの飲み会で遅かったみたいだし。起こしちゃったら、かわいそうやね。
朝ごはんの支度をする為、そろそろと陽平の体を跨いだとき――ぎゅっと膝がなにかを踏みしめた。
「――痛っ!」
「えっ?」
目を丸くした途端、布団から飛び出してきた”何か”に放り落とされる。
ドタン! ベッドから落ちて、ぼくは尻もちをついた。
「いたあっ」
涙目で、尻をさすっていると――「いたた……」と掠れた甘い声が聞こえてきた。ばさり、と布団がベッドからずり落ちて、声の主が姿を現した。
黒髪に、白く滑らかな肌の美青年。朝日に照らされた白皙の美貌に、ぼくは息を飲む。
「み、蓑崎さん!?」
「おはよ、成己くん。お邪魔してまーす」
気だるげに片目をつぶって、蓑崎さんはベッドに胡坐をかいた。見覚えのあるスエットのパンツに、上半身には何も着ていない。
「な、なんで……」
「んだよ、うっせえなあ」
びっくりしすぎて、口をパクパクさせていると、不機嫌そうな声がもう一つ。もぞもぞと、陽平が身を起こす。こっちはひとまず、ちゃんと服を着てたので、一安心だ。
とはいえ、
「ねえ、陽平。どういうこと!?」
ぼくは仁王立ちで、二人を問いただした。
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。