いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第一章~婚約破棄~

十六話 

「とは言うものの……」
 
 ぼくは、スーパーで頭を悩ませた。かごを持ったまま、食品売り場をウロウロしてしまう。
 
「何作ったらええかなあ。ぼく、あんまり華やかなお料理のレパートリー、多くないし……」
 
 ぼく、正味……お料理って自信ないねん。センターに居た頃に、家庭科の先生にいろいろ習ったから、ごはんは何とか作れると思ってたんやけど……
 ぼくの作るごはんって、陽平いわく「子供っぽすぎる」らしいんよ。
 
『成己。次はもうちょっと、洒落た感じで頼む』
 
 って、陽平の先輩らが飲みに来るときとか、いつも言われちゃう。
「なにくそー!」と思って、ぼくなりに雑誌とか読んで、ライスコロッケとか、ミートソースとか作ってみるんやけど、どうも違うみたいなん。
 
 ――成己さんのメシってさぁ、ホント……ってかんじだよな!
 
 ふいに耳の奥にこだました笑い声を、振り払うようにぶんぶん首を振る。
 
「えーいっ! お料理に大切なのは、気持ちやしっ」
 
 ぼくは、ふんすと気合をいれて、ブロッコリーを手に取った。
 そう、今夜は――蓑崎さんを心から歓待するのが大切やもん。そういうことやったら……と、今まで陽平が話していた情報を総動員して、ぼくはカゴに食材を入れていった。
 
 
 
 そして、夜――
 
「ただいま」
 
 玄関の開く音がして、ぼくは心に気合を漲らせた。
 テーブルに並べたお料理をみて、「よし」と頷いて――急いで玄関へ向かう。
 
「お帰りなさーい」
 
 出迎えに出ると、陽平と蓑崎さんは靴を脱いでいた。白い顔を上げた蓑崎さんは、にこっと笑みを浮かべる。
 
「成己くん、どうもー。お邪魔します」
「いらっしゃい、蓑崎さん。ゆっくりしてってくださいね」
 
 いつもながら綺麗なひとだなあ……と思いつつ、スリッパを出した。陽平は、ぼくにリュックを渡しながら言う。
 
「もうメシ出来てる? まだなら、先に飲んでるけど」
「大丈夫、出来てるよ! ありがとうね」
 
「偉いじゃん」って頭を撫でられて、得意になる。
 でも……たしかに聞いてた時間より、だいぶ早かったな。念のため、早めに取りかかっておいて良かったぁ……! と胸をなでおろしてると、陽平が顔を顰める。
 
「晶の奴が、早く行きたいって聞かなくてよ」
「いいじゃん、別に。準備中なら俺も手伝えば、一石二鳥だろ。ねー、成己くん」
「あはは……そーですね」
 
 悪びれない様子の蓑崎さんに、とりあえず笑っておく。――きっと自由な人なんよね、うん。
 
 
 
 陽平たちが手を洗ってる間に、ぼくは大急ぎで料理の仕上げに取りかかった。
 お酒とメインのお料理を持って、リビングに戻ると――陽平と蓑崎さんがテーブルを囲んでいた。
 
「お、お待たせしましたー」
 
 どきどきしながら、テーブルに本日のメイン――ビーフシチューオムライスを置く。
 
 ――蓑崎さん、ビーフシチュー好きやって。オムライスは陽平が好き。これなら、喜んでもらえるのでは……!?
 
 あと、これもお好きやと言うエビの生春巻きと、カプレーゼ。他は無難にポテトとたまごのサラダ、はんぺんチーズフライなんかを作ってみた。
 お皿を並べていると、陽平がちょっと感心したふうに言う。
 
「ふーん、成己にしては頑張ったなー」
「えへ。蓑崎さんが来てくれるから、張り切っちゃった」
「そうなのー? ありがとー」
 
 蓑崎さんは、明るい声をあげる。
「じゃあ、さっそく」って、湯気のたつオムライスにスプーンを入れるのを、ドキドキしながら見守った。
 一口たべて、蓑崎さんが目を丸くして言う。
 
「あ、美味しいよー」
「ほんまですか! よかったですっ」
 
 ほんまに緊張してたぶん、余計に嬉しかった。蓑崎さんは朗らかに笑って、身を乗り出すように色々おかずを取って、食べてくれた。

――わー、めっちゃ美味しいっていうてくれる……いい人……

 それから、ゆったりとごはん会は進んだんよ。
 ふたりは大学の話で盛り上がってて、ぼくはお酒を追加したり、それとなく相槌を打ったりしてた。

 
「……あれ?」
 
 トイレに立った蓑崎さんが戻ってこなくて、ぼくは首を傾げた。


「陽平、蓑崎さんは?」
「んー……」

 陽平ときたら、完璧に出来上がっちゃっていた。真っ赤な顔でテーブルにつっぷして、むにゃむにゃ言うてる。
 こりゃダメだ、と自分で探しに行くことにした。
 
「蓑崎さーん」
 
 てくてくと廊下を歩いていると、ぼくの私室のドアが開いているのに気づく。
 何気なく、ひょいと中を覗き込んで――ギクッとした。

「……」

 トイレに立ったはずの蓑崎さんが、床に座り込んでいたから。

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