18 / 505
第一章~婚約破棄~
十七話
「あ、あの。蓑崎さん?」
ぼくは、恐る恐る部屋の中へ入った。って、ぼくの部屋やのに変やんね。
蓑崎さんは、ぼんやりとした様子で、こっちに顔を向けた。
「……成己くん?」
「はい……ええと、ちょっとごめんなさい。電気つけますね?」
暗がりで話もなんやから、一言ことわって、電灯のスイッチを入れる。「わ」と小さく呻いた蓑崎さんは、眉をしかめて――開いたときには、不思議そうに目を瞬いていた。
「あれ? ここ陽平の部屋じゃないじゃん」
「あ、はい。ぼくの部屋ですよ」
なるほど、陽平のお部屋と間違えたんか。
「なーんだ……」
蓑崎さんは、気だるそうにちゃぶ台に突っ伏した。「はーぁ」とふかいため息を、何度もついてはる。……な、なんなんやろう? あんまり楽しそうじゃない様子に、ぼくは戸惑う。
――さっきまでご機嫌そうやったのに……まさか、悪酔いってやつやろか。
ぼくはおろおろと、蓑崎さんの隣にしゃがみこんだ。
「あの、大丈夫ですか?」
「なにが?」
「しんどそうですから……お水、持ってきましょうか?」
「ああ、大丈夫。いらない」
蓑崎さんは突っ伏したまま話してて、声がくぐもっていた。
――どう見ても、大丈夫って感じには見えへんけど……
「どうしたものか」と内心で困っていると、蓑崎さんが唐突に声を上げる。
「ねえ」
「はいっ?」
「成己くんも、ミステリー好きなの?」
思わぬ質問に、ぼくはびっくりしてしまう。
いつの間にやら、蓑崎さんの顔がこっちに向いていて、黒い瞳がじっと見あげてきていた。
……ふつうに、世間話かな? すこし意図がはっきりした気がして、ぼくはホッとする。
「はい! とくに桜庭宏樹が……」
「そうなんだ。あそこの棚、陽平と同じ本ばっかだから、びっくりしたー。趣味ピッタリなんだね」
「そ、そうですか? なんか照れちゃいます」
たしかに、ぼくと陽平の蔵書はかなり似通ってるのかも。
高校のときから、桜庭先生を始めとして――たくさん、お互いのおススメを教え合って来たから。
「陽平、面白い本を見つけると「読め!」って渡してくんです。そしたら、ぼくも大体はまっちゃうんで……もう、完全に罠ですよね」
ちょっと照れくさい気持ちでいると、蓑崎さんは「ふうん」と囁いて、目を伏せた。
「いいなぁ。好きな本、たくさん集められて……成己くんって、大切にされてるんだね」
「……あ」
「俺の家は、厳しかったからなぁ」
さみしげな言葉に、はっとする。蓑崎さんは両手を組み合わせ、「うんしょ」と伸びをした。
「お金持ちなのにーって、意外でしょ? どっこい、こういう家ほど、ちゃーんと躾は厳しいんだよね。陽平の家もそう。お父様に厳しく言われて、よく泣いてたよ」
「そうなんですか……」
ぼくは小さいころの陽平を思い、胸が痛んだ。
陽平はお義父さんを尊敬してて、期待に応えようと努力してる。やから……頑張り疲れた時に、ミステリを読むんだって言ってた。「本には答えがあるから、すっきりする」って。
しんみりとしていると、蓑崎さんは目を細め、話し続ける。
「成己くん、陽平のことわかってあげてね。あいつ、ワガママに見えるかもだけど……親に縛られちゃって大変なの。俺も同じだからわかるんだ」
「蓑崎さん……はい、がんばります」
ぼくも陽平には、健やかにしててほしい。意思を込めて見返すと、蓑崎さんはにこっとする。
「よしよし、いい子だね!」
「うわぁ!?」
伸びてきた両手に頬を挟まれて、もみくちゃにされてまう。顔のパーツが真ん中に寄っちゃいそうになって、ぼくは身を捩って逃れた。
「ちょ、何するんですかっ?」
「えー、ほんのじゃれあいじゃない。成己くんって、つまんなーい」
「むっ……もう、酔っ払いの相手、できませんからっ」
ぷんぷんして立ちあがるぼくを、蓑崎さんは悪戯っぽい目で見上げる。
「ねえ、連絡先交換しない? 陽平のこと、今後もいろいろ教えてあげるからさ」
ぼくは、恐る恐る部屋の中へ入った。って、ぼくの部屋やのに変やんね。
蓑崎さんは、ぼんやりとした様子で、こっちに顔を向けた。
「……成己くん?」
「はい……ええと、ちょっとごめんなさい。電気つけますね?」
暗がりで話もなんやから、一言ことわって、電灯のスイッチを入れる。「わ」と小さく呻いた蓑崎さんは、眉をしかめて――開いたときには、不思議そうに目を瞬いていた。
「あれ? ここ陽平の部屋じゃないじゃん」
「あ、はい。ぼくの部屋ですよ」
なるほど、陽平のお部屋と間違えたんか。
「なーんだ……」
蓑崎さんは、気だるそうにちゃぶ台に突っ伏した。「はーぁ」とふかいため息を、何度もついてはる。……な、なんなんやろう? あんまり楽しそうじゃない様子に、ぼくは戸惑う。
――さっきまでご機嫌そうやったのに……まさか、悪酔いってやつやろか。
ぼくはおろおろと、蓑崎さんの隣にしゃがみこんだ。
「あの、大丈夫ですか?」
「なにが?」
「しんどそうですから……お水、持ってきましょうか?」
「ああ、大丈夫。いらない」
蓑崎さんは突っ伏したまま話してて、声がくぐもっていた。
――どう見ても、大丈夫って感じには見えへんけど……
「どうしたものか」と内心で困っていると、蓑崎さんが唐突に声を上げる。
「ねえ」
「はいっ?」
「成己くんも、ミステリー好きなの?」
思わぬ質問に、ぼくはびっくりしてしまう。
いつの間にやら、蓑崎さんの顔がこっちに向いていて、黒い瞳がじっと見あげてきていた。
……ふつうに、世間話かな? すこし意図がはっきりした気がして、ぼくはホッとする。
「はい! とくに桜庭宏樹が……」
「そうなんだ。あそこの棚、陽平と同じ本ばっかだから、びっくりしたー。趣味ピッタリなんだね」
「そ、そうですか? なんか照れちゃいます」
たしかに、ぼくと陽平の蔵書はかなり似通ってるのかも。
高校のときから、桜庭先生を始めとして――たくさん、お互いのおススメを教え合って来たから。
「陽平、面白い本を見つけると「読め!」って渡してくんです。そしたら、ぼくも大体はまっちゃうんで……もう、完全に罠ですよね」
ちょっと照れくさい気持ちでいると、蓑崎さんは「ふうん」と囁いて、目を伏せた。
「いいなぁ。好きな本、たくさん集められて……成己くんって、大切にされてるんだね」
「……あ」
「俺の家は、厳しかったからなぁ」
さみしげな言葉に、はっとする。蓑崎さんは両手を組み合わせ、「うんしょ」と伸びをした。
「お金持ちなのにーって、意外でしょ? どっこい、こういう家ほど、ちゃーんと躾は厳しいんだよね。陽平の家もそう。お父様に厳しく言われて、よく泣いてたよ」
「そうなんですか……」
ぼくは小さいころの陽平を思い、胸が痛んだ。
陽平はお義父さんを尊敬してて、期待に応えようと努力してる。やから……頑張り疲れた時に、ミステリを読むんだって言ってた。「本には答えがあるから、すっきりする」って。
しんみりとしていると、蓑崎さんは目を細め、話し続ける。
「成己くん、陽平のことわかってあげてね。あいつ、ワガママに見えるかもだけど……親に縛られちゃって大変なの。俺も同じだからわかるんだ」
「蓑崎さん……はい、がんばります」
ぼくも陽平には、健やかにしててほしい。意思を込めて見返すと、蓑崎さんはにこっとする。
「よしよし、いい子だね!」
「うわぁ!?」
伸びてきた両手に頬を挟まれて、もみくちゃにされてまう。顔のパーツが真ん中に寄っちゃいそうになって、ぼくは身を捩って逃れた。
「ちょ、何するんですかっ?」
「えー、ほんのじゃれあいじゃない。成己くんって、つまんなーい」
「むっ……もう、酔っ払いの相手、できませんからっ」
ぷんぷんして立ちあがるぼくを、蓑崎さんは悪戯っぽい目で見上げる。
「ねえ、連絡先交換しない? 陽平のこと、今後もいろいろ教えてあげるからさ」
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。