27 / 505
第一章~婚約破棄~
二十六話
「宏章くんやったら、成己くんも安心やろ? それに、自由なお仕事してはるし、頼んだらいけるかなーって思ってん。ああ、よかった!」
笑顔の涼子先生に、ぼくも笑いかえしながら……内心は、「わーん」って泣きたい気持ちやった。
――だって、宏兄にウソついたのバレちゃうんやもん!
ぼくは、冷や汗だらだらでその場に立ち尽くす。宏兄は――昔から、優しいけど。怒るとなったら、めっちゃ怖いねん。
にこやかに涼子先生と談笑する宏兄を見ながら、逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
「――立花先生、ご連絡ありがとうございました。さ、成。帰るぞ」
「は、はぁい……」
有無を言わせぬ笑顔に、ひきつった笑顔で頷く。
「気を付けて帰りよー!」って見送ってくれる涼子先生に、手を振り返しながら……ぼくは護送される罪人の気持ちで、宏兄についてった。
てく、てく――と、足音が響く。
宏兄に、問答無用で手を引かれ――庭園を歩いてるんやけど。ぼくは、おずおずと宏兄をうかがう。
「ひ、宏兄……あの、なんで?」
「聞いたとおりさ。立花先生から、電話があったんだ。成が城山くんに遠慮して、一人でセンターに来てるから、迎えにきてくれないかって」
ああ、全部言われちゃってる……!
いつもどおりの陽気な声やけど、ぼくの手を握る宏兄の手は固い。やっぱり、怒ってるのかな……
「宏兄、ぼく……ごめんなさい」
不安に駆られて、謝罪が口を突いて出た。宏兄がこっちを見る。
「――何にだ?」
「え……」
聞き返されて、狼狽えてしまう。宏兄の目は静かなのに――見ていると、耳の横で大きく脈が打ち始める。「答えを、間違えてはいけない」と警鐘を鳴らすように。
間違いない、とぼくは息を詰める。宏兄、めっちゃ怒ってる――!
「嘘、ついて……心配をかけて……」
おろおろと口にすると、宏兄は僅かに笑った。
「心配なら、ずっとしてるさ」
「……あっ」
「俺を見損なうな、成」
そう言ったきり、宏兄は前を向いて、歩き出してしまう。宏兄の解けない怒りに、ぼくは心臓がバクバクと、痛いほど打つのを感じていた。
――どうしようっ……呆れられた……?
心配してくれてたのに、ウソなんかついたから。宏兄、ぼくのこと呆れて、いやになったかも……
「あ……」
はやく、「ごめんなさい」って言わなくちゃ。
そう思うのに――大きな背中が、これ以上話しかけるのを拒んでるみたいに見えて、言葉が出ない。
「……っ」
痛いほどの無言の時間に……不安で、胸が押しつぶされそうになる。
手首を強く掴まれているのに、逆に振りほどかれるような気がして、こわくて。ぼくはただ、俯いたまま、宏兄の後をついて歩いていた。
ずっと、緊張していたせいか――宏兄の車にたどり着いたころには、ぐったりしとった。
いつもの助手席に案内され、こわごわ座る。隣を見れば、宏兄は後部座席に荷物を放り込み、たんたんとエンジンをかけ、シートベルトをつけていた。ふいに目が合って、肩が跳ねる。
「成、シートベルトつけて」
「……あっ、うん」
静かな指摘に、ぼくは何度も頷く。慌てて、シートベルトを引っ張って、つけようとする。せやのに、何故か……手に力が入らなくて。ガチャガチャって、ぼくの出す不器用な音が、車内に響く。
「あ、あれ? ……ごめん、待って」
じっと待ってくれている宏兄に、泣きたい気持ちで謝る。焦りながら、ベルトを強く掴みなおしたとき――視界が翳った。
「え……」
気が付けば、宏兄の首筋が目前にあって、目を見開く。
運転席から身を乗り出した宏兄が、ぼくのベルトをつけようとしてくれてた。
大きな体が覆いかぶさってきた瞬間――深い、強いフェロモンが香る。獰猛な森の気配が胸を衝いて、ぼくは一瞬、呼吸を忘れた。
「あ……!」
――いつもと違う……すっごい怒ってるせい? 頭がくらくらする……!
思わず、ぎゅっと目を閉じたとき――バックルが、カチリと音を立てて止まる。
はっと目を開くと、静かな目と合った。
「苦しくないか?」
「……」
声が出なくて、何度も頭を振る。すると――宏兄はすっと体を離して、ハンドルを握る。
「じゃあ、安全運転で帰るからな」
怒ってるときでも、律儀な宏兄がおかしくて。
ぼくは、なんだか泣きたくなった。
笑顔の涼子先生に、ぼくも笑いかえしながら……内心は、「わーん」って泣きたい気持ちやった。
――だって、宏兄にウソついたのバレちゃうんやもん!
ぼくは、冷や汗だらだらでその場に立ち尽くす。宏兄は――昔から、優しいけど。怒るとなったら、めっちゃ怖いねん。
にこやかに涼子先生と談笑する宏兄を見ながら、逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
「――立花先生、ご連絡ありがとうございました。さ、成。帰るぞ」
「は、はぁい……」
有無を言わせぬ笑顔に、ひきつった笑顔で頷く。
「気を付けて帰りよー!」って見送ってくれる涼子先生に、手を振り返しながら……ぼくは護送される罪人の気持ちで、宏兄についてった。
てく、てく――と、足音が響く。
宏兄に、問答無用で手を引かれ――庭園を歩いてるんやけど。ぼくは、おずおずと宏兄をうかがう。
「ひ、宏兄……あの、なんで?」
「聞いたとおりさ。立花先生から、電話があったんだ。成が城山くんに遠慮して、一人でセンターに来てるから、迎えにきてくれないかって」
ああ、全部言われちゃってる……!
いつもどおりの陽気な声やけど、ぼくの手を握る宏兄の手は固い。やっぱり、怒ってるのかな……
「宏兄、ぼく……ごめんなさい」
不安に駆られて、謝罪が口を突いて出た。宏兄がこっちを見る。
「――何にだ?」
「え……」
聞き返されて、狼狽えてしまう。宏兄の目は静かなのに――見ていると、耳の横で大きく脈が打ち始める。「答えを、間違えてはいけない」と警鐘を鳴らすように。
間違いない、とぼくは息を詰める。宏兄、めっちゃ怒ってる――!
「嘘、ついて……心配をかけて……」
おろおろと口にすると、宏兄は僅かに笑った。
「心配なら、ずっとしてるさ」
「……あっ」
「俺を見損なうな、成」
そう言ったきり、宏兄は前を向いて、歩き出してしまう。宏兄の解けない怒りに、ぼくは心臓がバクバクと、痛いほど打つのを感じていた。
――どうしようっ……呆れられた……?
心配してくれてたのに、ウソなんかついたから。宏兄、ぼくのこと呆れて、いやになったかも……
「あ……」
はやく、「ごめんなさい」って言わなくちゃ。
そう思うのに――大きな背中が、これ以上話しかけるのを拒んでるみたいに見えて、言葉が出ない。
「……っ」
痛いほどの無言の時間に……不安で、胸が押しつぶされそうになる。
手首を強く掴まれているのに、逆に振りほどかれるような気がして、こわくて。ぼくはただ、俯いたまま、宏兄の後をついて歩いていた。
ずっと、緊張していたせいか――宏兄の車にたどり着いたころには、ぐったりしとった。
いつもの助手席に案内され、こわごわ座る。隣を見れば、宏兄は後部座席に荷物を放り込み、たんたんとエンジンをかけ、シートベルトをつけていた。ふいに目が合って、肩が跳ねる。
「成、シートベルトつけて」
「……あっ、うん」
静かな指摘に、ぼくは何度も頷く。慌てて、シートベルトを引っ張って、つけようとする。せやのに、何故か……手に力が入らなくて。ガチャガチャって、ぼくの出す不器用な音が、車内に響く。
「あ、あれ? ……ごめん、待って」
じっと待ってくれている宏兄に、泣きたい気持ちで謝る。焦りながら、ベルトを強く掴みなおしたとき――視界が翳った。
「え……」
気が付けば、宏兄の首筋が目前にあって、目を見開く。
運転席から身を乗り出した宏兄が、ぼくのベルトをつけようとしてくれてた。
大きな体が覆いかぶさってきた瞬間――深い、強いフェロモンが香る。獰猛な森の気配が胸を衝いて、ぼくは一瞬、呼吸を忘れた。
「あ……!」
――いつもと違う……すっごい怒ってるせい? 頭がくらくらする……!
思わず、ぎゅっと目を閉じたとき――バックルが、カチリと音を立てて止まる。
はっと目を開くと、静かな目と合った。
「苦しくないか?」
「……」
声が出なくて、何度も頭を振る。すると――宏兄はすっと体を離して、ハンドルを握る。
「じゃあ、安全運転で帰るからな」
怒ってるときでも、律儀な宏兄がおかしくて。
ぼくは、なんだか泣きたくなった。
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。