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第一章~婚約破棄~
三十ニ話
「え……?」
陽平に言わない方がいいかって……何が言いたいん? なにか含んだ問いかけに、ぼくは戸惑った。
先を歩く蓑崎さんは、興味津々にぼくの反応を伺っているらしい。
――ひょっとして、なんか勘ぐってる?
ぼくはちょっとむかっとして……でも、にっこり笑ってみせた。
「あはは、全然ですよ。陽平も知ってる人ですから」
蓑崎さんの意図はどうあれ、大事なことは、はっきりと言っておかなきゃ。
だって、本当のことやもん。
宏兄のことは、陽平と仲良くなったときから、「仲のいい幼馴染」だと話しているし。
うさぎやでバイトすることになったときだって。二人にはぼくを仲介に、一度会ってもらった。互いに知らない仲じゃないもん。
「ふーん」
ぼくの応えに、蓑崎さんは目を細めた。
なぜか、額のあたりに焼けつくような視線を感じて、ぼくは狼狽える。
「あ、あの? なんですか」
「ううん。成己くんってさ、儚げに見えて意外と太いなーと思って」
「はい?!」
ふといですと?!
ぎょっと目を見開くと、蓑崎さんはもう満足したのか――すたこらとエレベーターへ乗り込んでいた。
ぼくは、慌てて後を追う。
「蓑崎さん! 蓑崎さんは……うちに遊びに来てくれたんですよね?」
言いながら、エレベーターに滑り込む。
――陽平から、なんの連絡も来てないけど……! ここに蓑崎さんがいるっていうことは、そういうことやんね?
「そうそう」
蓑崎さんは、さらりと頷いた。ぼくは腑に落ちながら、ちょっとガッカリした。
だって……ほんまは、ケンカの後なんやし。陽平と二人で、ゆっくり話したかった。
その思いを堪えて、笑顔で手を差し出した。
「そうですか! あの、荷物持ちますよ」
「ありがとー」
荷物を半分受け取ると……ずしりと重い。中を覗くと、大量のお酒やった。
「うわあ、すごい量……」
――ワインにビールにカクテル……ハイボールまで。これ、さすがに二人で飲めんくない?
よいしょと抱え直しながら、すこし戸惑う。
そうしたら――蓑崎さんが、階数ボタンをじっと眺めたまま笑った。
「ああ、陽平の家で先輩たちと飲み会があるからさ。俺は先発隊で、その準備に来たんだー」
「は………?」
飲み会? ――ぼくと、陽平の家で? 何それ、聞いてない!
あまりにも恐ろしい言葉に、一瞬思考が停止してまう。蓑崎さんは、ご機嫌に話してた。
「今日さあ、先輩たちが「城山の家で飲む」って聞かなかったんだよ。陽平のやつ、成己くんとケンカしたから、困ってて。だったら、俺が飲み会の準備してやりゃ、万事ことが上手くおさまるかなーってさ」
「え……は……?」
当たり前のように語られる言葉に、ぼくはあんぐりと口を開ける。
――な、なに言うてんの、この人?! ぼくのかわりに、ぼくの家で、飲み会の準備するって何……?!!
あまりの事態に、くらくらと目眩さえ感じ、額をおさえた。
「あの……せっかくのお気遣いですけど。できれば、連絡してほしかったです」
ぼくは、できる限り穏便に苦情を述べてみる。しかし、蓑崎さんは動じない。
「え、なんで? 陽平は「それなら頼む」って言ってたよ?」
よ、陽平~! 胸の奥で、憤怒の炎がふきあがる。
拳をぎゅっと握りしめ、ぼくはなんとか笑顔をつくった。
「でも、蓑崎さんもお客さんですから。あんまりお世話になったら、申し訳ないですしっ……」
蓑崎さんは、不思議そうに首を傾げた。
「えー、気にしなくていいよ? そもそも俺達の飲み会なんだしさ。成己くんは関係ないじゃん」
「……あはは」
けろっとひどいことを言われて、米神がぴくりと引き攣る。
心の中で、サボちゃんに問いかけた。――サボちゃん、これは怒っていいよね!? ぼくの心が狭いんやないよね……!?
ぜいぜいと荒い息をついていると、エレベーターが到着のアナウンスを流す。
「お、ついた。成己くん、鍵開けてくれる?」
「……ハイ」
意気揚々と廊下を歩んでゆく蓑崎さんを、ぼくは慌てて追いかけた。
「どうぞ」
鍵を差し込んで、ドアを開けると……蓑崎さんが「よーし。やるぞー」と言いながら、キッチンへと向かう。
その背をみながら、ぼくは――静かに闘志を燃やした。
――絶対、ぜーったい、めげへんねんから!!
陽平のドアホには、帰ってきてから(……飲み会のあと)しっかり説教するとして。
「陽平の頑張ってることは……ちゃんと、お手伝いする。ぼくが、奥さんになるんやもん!」
ええときだけやない、悪いときかて支えるもの――トレンディドラマや、小説の主人公はそうしてた。
なら、ぼくも頑張る!
そう決意し、ぼくもキッチン――気分的には、戦場へと足を踏み入れた。
「蓑崎さん、ぼくもお手伝いしますっ……!」
陽平に言わない方がいいかって……何が言いたいん? なにか含んだ問いかけに、ぼくは戸惑った。
先を歩く蓑崎さんは、興味津々にぼくの反応を伺っているらしい。
――ひょっとして、なんか勘ぐってる?
ぼくはちょっとむかっとして……でも、にっこり笑ってみせた。
「あはは、全然ですよ。陽平も知ってる人ですから」
蓑崎さんの意図はどうあれ、大事なことは、はっきりと言っておかなきゃ。
だって、本当のことやもん。
宏兄のことは、陽平と仲良くなったときから、「仲のいい幼馴染」だと話しているし。
うさぎやでバイトすることになったときだって。二人にはぼくを仲介に、一度会ってもらった。互いに知らない仲じゃないもん。
「ふーん」
ぼくの応えに、蓑崎さんは目を細めた。
なぜか、額のあたりに焼けつくような視線を感じて、ぼくは狼狽える。
「あ、あの? なんですか」
「ううん。成己くんってさ、儚げに見えて意外と太いなーと思って」
「はい?!」
ふといですと?!
ぎょっと目を見開くと、蓑崎さんはもう満足したのか――すたこらとエレベーターへ乗り込んでいた。
ぼくは、慌てて後を追う。
「蓑崎さん! 蓑崎さんは……うちに遊びに来てくれたんですよね?」
言いながら、エレベーターに滑り込む。
――陽平から、なんの連絡も来てないけど……! ここに蓑崎さんがいるっていうことは、そういうことやんね?
「そうそう」
蓑崎さんは、さらりと頷いた。ぼくは腑に落ちながら、ちょっとガッカリした。
だって……ほんまは、ケンカの後なんやし。陽平と二人で、ゆっくり話したかった。
その思いを堪えて、笑顔で手を差し出した。
「そうですか! あの、荷物持ちますよ」
「ありがとー」
荷物を半分受け取ると……ずしりと重い。中を覗くと、大量のお酒やった。
「うわあ、すごい量……」
――ワインにビールにカクテル……ハイボールまで。これ、さすがに二人で飲めんくない?
よいしょと抱え直しながら、すこし戸惑う。
そうしたら――蓑崎さんが、階数ボタンをじっと眺めたまま笑った。
「ああ、陽平の家で先輩たちと飲み会があるからさ。俺は先発隊で、その準備に来たんだー」
「は………?」
飲み会? ――ぼくと、陽平の家で? 何それ、聞いてない!
あまりにも恐ろしい言葉に、一瞬思考が停止してまう。蓑崎さんは、ご機嫌に話してた。
「今日さあ、先輩たちが「城山の家で飲む」って聞かなかったんだよ。陽平のやつ、成己くんとケンカしたから、困ってて。だったら、俺が飲み会の準備してやりゃ、万事ことが上手くおさまるかなーってさ」
「え……は……?」
当たり前のように語られる言葉に、ぼくはあんぐりと口を開ける。
――な、なに言うてんの、この人?! ぼくのかわりに、ぼくの家で、飲み会の準備するって何……?!!
あまりの事態に、くらくらと目眩さえ感じ、額をおさえた。
「あの……せっかくのお気遣いですけど。できれば、連絡してほしかったです」
ぼくは、できる限り穏便に苦情を述べてみる。しかし、蓑崎さんは動じない。
「え、なんで? 陽平は「それなら頼む」って言ってたよ?」
よ、陽平~! 胸の奥で、憤怒の炎がふきあがる。
拳をぎゅっと握りしめ、ぼくはなんとか笑顔をつくった。
「でも、蓑崎さんもお客さんですから。あんまりお世話になったら、申し訳ないですしっ……」
蓑崎さんは、不思議そうに首を傾げた。
「えー、気にしなくていいよ? そもそも俺達の飲み会なんだしさ。成己くんは関係ないじゃん」
「……あはは」
けろっとひどいことを言われて、米神がぴくりと引き攣る。
心の中で、サボちゃんに問いかけた。――サボちゃん、これは怒っていいよね!? ぼくの心が狭いんやないよね……!?
ぜいぜいと荒い息をついていると、エレベーターが到着のアナウンスを流す。
「お、ついた。成己くん、鍵開けてくれる?」
「……ハイ」
意気揚々と廊下を歩んでゆく蓑崎さんを、ぼくは慌てて追いかけた。
「どうぞ」
鍵を差し込んで、ドアを開けると……蓑崎さんが「よーし。やるぞー」と言いながら、キッチンへと向かう。
その背をみながら、ぼくは――静かに闘志を燃やした。
――絶対、ぜーったい、めげへんねんから!!
陽平のドアホには、帰ってきてから(……飲み会のあと)しっかり説教するとして。
「陽平の頑張ってることは……ちゃんと、お手伝いする。ぼくが、奥さんになるんやもん!」
ええときだけやない、悪いときかて支えるもの――トレンディドラマや、小説の主人公はそうしてた。
なら、ぼくも頑張る!
そう決意し、ぼくもキッチン――気分的には、戦場へと足を踏み入れた。
「蓑崎さん、ぼくもお手伝いしますっ……!」
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