いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第一章~婚約破棄~

五十五話

 
「ふー、ごちそうさまでした」
 
 お茶漬けを二杯平らげて、一人のダイニングで手を合わせる。洗い桶にお茶碗をつけると、お茶を入れてテーブルに戻る。
 
「さてと……」
 
 気合を入れて、スマホを手元に引き寄せる。おなかが満ちると、戦闘力が湧いてくるよね。
 陽平に、立ち向かわなきゃって気もちとか。
 
 ――やっぱり、ぼく。近藤さんとのこと……このままにしたらあかんと思う。
 
 友菜さんに申し訳なさすぎるのは、もちろんやけど。――陽平のことも、放っておけへん。
 だって――陽平が、どれだけ大学で人脈づくりを頑張ってたか……ぼくは、そばで見てきたつもりやもん。
 近藤さんは、困った人やけど……たくさん、お世話になってもいたはず。やから陽平も、釣りでもバーベキューでも、頑張って付き合ってたんと違うん?
 殴りつけて、一方的に話し終わらせて……なんて、絶対に陽平らしくない。
 
 ――こんな言い方はあれやけど……今は蓑崎さんのことで、冷静やないだけ。きっと、後悔すると思う。
 
 どうしても、陽平と話したい。
 ロックを解除すると、凄い量の通知があって、ぎょっとする。
 
「わぁ、すご……!」
 
 着信と、メッセージの通知みたい。
 確認すると、着信は全部、宏兄。二十分の間に、十件も不在着信があって、よほど心配かけてたってわかる。来てもらう前に、起きれてよかった……。心の中で手を合わせて、メッセージの方の確認へ。
 
「こっちは……ほとんど、蓑崎さんか」
 
 通知欄を見るだけで、写真が送られてきてるのがわかって……生温かい笑みが浮かぶ。
 
「まあ……きっと、いつものやつやろうね」
 
 開いてみると、予想通り。お義母さんとお料理中の写真とか、歯磨き中の陽平をおどかす動画とか、お風呂上りに陽平と並んで牛乳一気飲みしとる動画やとか……たった三時間前まで、ひっきりなしに送られてきてる。見てると、目眩がおきそうやったんで、すぐに閉じた。
 サボちゃんの側にずざざーっと滑り込み、唸る。
 
「なんなんあの人、も~! 陽平の実家にまで、泊ってるん!?」
 
 幼馴染って、そういうものですっけ? ていうか、それをぼくに送って来てくれる、その気持ちはなに?
 ゼイゼイと息を吐き、胸を押さえる。――あかん、落ち着かなきゃ。
 ぼくは、「はー」と深いため息をついた。
 
「この人は、こういう人なんや……勘ぐったって、疲れるだけやんな」
 
 サボちゃんの棘を撫で、平常心を取り戻す。
 起き上がって、正座すると――時間を確認する。夜の一時。普段の就寝時間から考えても、まだ、全然起きてるはずや。
 ぼくは、意を決して陽平の番号を呼び出す。
 
「……」
 
 無音の時間のあと、コール音が聞こえる。一回、二回……と重なるそれに緊張しながら反応を待った。
 
「……出えへんかな……?」
 
 一回切ろうか、と思ったとき、ぷつ、と音がした。空気の揺れる音が、響いてきた。
 
「!」
 
 かかった! かけておいてなんやけど、びっくりして息を飲む。
 
 ――やば、考えてたこと飛んじゃった……!
 
 陽平は、何も言わんくて……余計に焦りが募る。
 きられる前に、ともかく、まずは「もしもし」から。……そう思って、息を吸ったとき、なにか聞こえた。――ゴソゴソって、布のすれるような音。そして、
 
『……ぁっ……ん……っ』
 
 かすかに、蓑崎さんみたいな声がした。
 
「……え?」
 
 泣いてるような、切羽詰まったみたいな……不思議な声。
 
 ――どうして、蓑崎さんが電話に出るん? いや、出てるって言えるのかな、これ……
 
 ぼくが、頭にはてなを浮かべている間にも……布の擦れるような音と、ギシギシって音と。
 蓑崎さんの泣き声が、聞こえてくる。
 それに、変な音もする。なんか粘っこいみたいな、水音……?
 
「……うっ」
 
 なんか、わけがわからんのに……聞いてると、気持ち悪くなってきて。ぼくは、思わず手で口を覆う。
 すると、「あ」と電話口で気づいたような声がした。
 
『やっべ……あはは』
『……は、どうしたんだよ、晶?』
「……!」
 
 少し遠くで聞こえてきた声に、ぼくははっとする。
 
「陽平っ!」
 
 慌ててスマホに向かって叫ぶも――ツー、と無情な音が聞こえてきた。
 
「あぁ、もう……! ぼくのアホっ」
 
 なんで、ぼーっとしてたんやろう。せっかく、つながったのに……!
 でも、自分にガッカリする反面で、むらむらと怒りが湧いてきた。
 
 ――こんな時間やのに、まだ二人でいるなんてっ……
 
 蓑崎さんに、電話切られたみたいなんも腹たつ。
 
「ヤバいって何? こんな遅い時間に電話して、ぼくが非常識ってこと?」
 
 ぼくは、ううと唸った。ぎゅっとスマホを握りしめて、決意する。
 
「もう……こうなったら、絶対に会ってやるんやから……!」
 
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