60 / 505
第一章~婚約破棄~
五十九話
「ぁ……!」
はっ、と目が覚めた。ぼんやりとした視界に、白い天井がうつる。
――え……陽平は……?
まだ、夢の感覚に引きずられていて、ぼくは混乱する。体を起こそうとするのやけど……重くって、たまらない。自分が、たっぷりと水を含んだ綿になった気がした。
頭がぼうっとする。
「成……?」
ふと、枕元で馴染んだ声が聞こえた。
なんとか顔を向けると――宏兄が目をみはって、ぼくを覗き込んでいた。
「ひろにぃ……」
「目が覚めたのか? 良かった……!」
宏兄は、安堵に頬を緩ませている。ぼくの手を包む大きな手が、震えていた。
「ぼく、どうして……ここは?」
「センターだよ。――成、大学で具合が悪くなったの、覚えてるか?」
「あ……!」
ぼくは、息を飲む。
そうやった。陽平と言い合いになった後、具合が悪くなってしもたんや。宏兄が言うには、岩瀬さんがセンターに連絡してくれて。そして、宏兄には涼子先生から知らせが来たらしい。
「……そやったん……ごめんね、心配かけて……」
「何言ってるんだ」
情けなさに顔を歪めると、大きな手が伸びてきて、そっと頬を撫でられた。
「成……怖かったろう? もう大丈夫だからな」
「……っ」
「ちょっと待っててくれ。先生を呼ぶ」
温もりがしみて、瞼が熱くなった。息を詰まらせるぼくに、宏兄は優しく微笑むと、手早く枕元の機器を操作する。
ぼくは――宏兄の横顔を下から眺めながら、しゃくりあげるのを堪えていた。
布団を掴んで、ぐいと鼻まで引っ張り上げる。
――……やっぱり、夢やないんや。陽平……
『欠陥品』
陽平に言われたことが、じくじくと胸を苛んだ。
全部が、夢みたいに消えてくれたらよかったのに――
「成己くん。気が付いたんだね……ごめんね、辛かったねえ」
駆けつけた中谷先生は、あたたかな眼差しでぼくを覗き込んだ。
先生が言わはるには――ぼくは、二日間、熱で寝込んでいたんやって。そんなに寝てたなんて思わんくて、びっくりした。
「うん……もう、大丈夫そうだね」
先生は、ぼくの額に触れたり、口の中を見て頷く。
もう、体温計で熱を測っても、微熱くらい。ホルモンの乱れで起きた体調不良やから……あとは何より、ゆっくり養生するのが一番なんやって。
「先生、ありがとうございます」
「いいや……詳しい話は、また後でね。もう少し、寝ておきなさい」
穏やかにほほ笑む先生に、ぼくは頷く。
それから――意を決して。どうしても、気になっていた事を尋ねた。
「あの……先生、お聞きしていいですか?」
「もちろんだよ。何だい?」
「ぼくが、眠ってるときに……陽平……城山から、何か連絡はありましたか……?」
「!」
ぼくの質問に、中谷先生は目を見開いた。そして、申し訳なさそうに眉を下げる……その様子に、なんとなく答えはわかってしまうけれど。
「……」
じっと見つめていると、先生は悲し気に首を振った。
「……そうですか」
心が、しゅるしゅると萎んで行く。
――入院するときは、婚家に連絡が行くはずやのに。やっぱり、それだけ……ぼくに怒ってるんやろうか。
怒った顔が浮かんで、胸がずきんと痛む。
「ごめんよ、ぼくも詳しいことはわからなくて……」
「いいえっ。ありがとうございました」
申し訳なさそうな中谷先生に、ぼくは慌てて笑った。
はっ、と目が覚めた。ぼんやりとした視界に、白い天井がうつる。
――え……陽平は……?
まだ、夢の感覚に引きずられていて、ぼくは混乱する。体を起こそうとするのやけど……重くって、たまらない。自分が、たっぷりと水を含んだ綿になった気がした。
頭がぼうっとする。
「成……?」
ふと、枕元で馴染んだ声が聞こえた。
なんとか顔を向けると――宏兄が目をみはって、ぼくを覗き込んでいた。
「ひろにぃ……」
「目が覚めたのか? 良かった……!」
宏兄は、安堵に頬を緩ませている。ぼくの手を包む大きな手が、震えていた。
「ぼく、どうして……ここは?」
「センターだよ。――成、大学で具合が悪くなったの、覚えてるか?」
「あ……!」
ぼくは、息を飲む。
そうやった。陽平と言い合いになった後、具合が悪くなってしもたんや。宏兄が言うには、岩瀬さんがセンターに連絡してくれて。そして、宏兄には涼子先生から知らせが来たらしい。
「……そやったん……ごめんね、心配かけて……」
「何言ってるんだ」
情けなさに顔を歪めると、大きな手が伸びてきて、そっと頬を撫でられた。
「成……怖かったろう? もう大丈夫だからな」
「……っ」
「ちょっと待っててくれ。先生を呼ぶ」
温もりがしみて、瞼が熱くなった。息を詰まらせるぼくに、宏兄は優しく微笑むと、手早く枕元の機器を操作する。
ぼくは――宏兄の横顔を下から眺めながら、しゃくりあげるのを堪えていた。
布団を掴んで、ぐいと鼻まで引っ張り上げる。
――……やっぱり、夢やないんや。陽平……
『欠陥品』
陽平に言われたことが、じくじくと胸を苛んだ。
全部が、夢みたいに消えてくれたらよかったのに――
「成己くん。気が付いたんだね……ごめんね、辛かったねえ」
駆けつけた中谷先生は、あたたかな眼差しでぼくを覗き込んだ。
先生が言わはるには――ぼくは、二日間、熱で寝込んでいたんやって。そんなに寝てたなんて思わんくて、びっくりした。
「うん……もう、大丈夫そうだね」
先生は、ぼくの額に触れたり、口の中を見て頷く。
もう、体温計で熱を測っても、微熱くらい。ホルモンの乱れで起きた体調不良やから……あとは何より、ゆっくり養生するのが一番なんやって。
「先生、ありがとうございます」
「いいや……詳しい話は、また後でね。もう少し、寝ておきなさい」
穏やかにほほ笑む先生に、ぼくは頷く。
それから――意を決して。どうしても、気になっていた事を尋ねた。
「あの……先生、お聞きしていいですか?」
「もちろんだよ。何だい?」
「ぼくが、眠ってるときに……陽平……城山から、何か連絡はありましたか……?」
「!」
ぼくの質問に、中谷先生は目を見開いた。そして、申し訳なさそうに眉を下げる……その様子に、なんとなく答えはわかってしまうけれど。
「……」
じっと見つめていると、先生は悲し気に首を振った。
「……そうですか」
心が、しゅるしゅると萎んで行く。
――入院するときは、婚家に連絡が行くはずやのに。やっぱり、それだけ……ぼくに怒ってるんやろうか。
怒った顔が浮かんで、胸がずきんと痛む。
「ごめんよ、ぼくも詳しいことはわからなくて……」
「いいえっ。ありがとうございました」
申し訳なさそうな中谷先生に、ぼくは慌てて笑った。
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。