75 / 505
第二章~プロポーズ~
七十四話
それから――ぼくは、目が覚めたり、眠ったりを繰り返した。
体がとても重くて、何故だか目を開けてられなくて。部屋が明るくなったり、暗くなったりを、何度も繰り返し見た気がする。
宏兄は、どんな時も傍にいてくれた。
悪夢に魘されるたびに、揺り起こして。お兄ちゃんみたいに、ぼくを抱いていてくれたんよ。
「宏兄……?」
「ああ、ここにいるよ」
優しく、頭を撫でられると……安心して、眠りこんでしまった。
――チュン、チュン……
鳥のさえずりが、聞こえてくる。
まぶしい光につられて、意識がふわふわと浮かび上がる。
「んん……」
うとうとと、重いまぶたを開けると――すぐ近くに、宏兄の寝顔があって、驚いた。
「わっ……」
大きな声を出しそうになり、慌ててこらえる。
宏兄は、ぼくを布団ごと抱きしめて、ベッドに横になっていた。穏やかな寝顔を、朝日が照らしているのを見て……ほうと息を吐く。
「ずっと、そばにいてくれたん……」
胸の奥に、ほわりとあたたかな感謝が湧き起こる。
ぼくは、もぞもぞと体を動かして、宏兄の肩を揺り動かす。
「宏兄、ひろにい……」
布団を着てないから、風邪ひいちゃう。
「……ん」
とんとん、と肩に触れると、ぴくりと瞼が震える。スイッチをぱちんと切り替えるように、宏兄は目覚めた。
不思議な色の瞳が、ほほ笑む。
「おはよう、成」
「あ……おはよう、宏兄」
穏やかに微笑んだ宏兄が、顔を寄せてくる。額が触れ合って、深い森の香りが鼻を掠めた。
「ああ……熱が下がったな。よかった」
「熱……?」
「うん」
きょとんと目を瞬くと、宏兄は頷いた。それ以上は何も言わないで、体を起こす。朝日に、宏兄の輪郭が金色に光るのを、見上げると――大きな手に額を撫でられた。
「水、飲めるか」
「あ……」
そういえば、声がかすれてるかも。
ぼくが頷くと――そっと背に腕を入れ、抱き起される。口元にペットボトルの口を、そっと宛がわれた。乾いた喉を、やわらかい水が滑って行き、快さに目を閉じた。こくこくと喉を鳴らして、夢中で飲む。
「ん……」
もう充分、と思ったあたりで、飲み口が離れてった。
宏兄の肩に凭れて、はふと息を吐くと……穏やかな声が囁いた。
「……まだ、しんどいな」
「へいき……」
と、言ったものの――
からだが、芯を失ったみたいにふにゃふにゃで、まっすぐ起きていられない。
苦笑した宏兄に、ゆっくりとベッドに横たえられた。あれよあれよとお布団をかけられてしまう。
「もうちょっと寝とけ」
「でも……」
「いいから。体が休みたいんだよ」
ぽんぽん、とお布団を撫でられる。
子どもみたいにお世話されてるなあって、すこし気恥ずかしい。
でも――あったかかった。
「薬、飲まなきゃな。食べたいものないか?」
「えっ」
「なんでもいいぞ」
優しい眼差しにつられて、思わず口にする。
「えと……もものかんづめ、食べたい」
「よし。任せとけ」
宏兄は、嬉しそうにぼくの頭を撫でると、風のように部屋を出て行ってしまう。
階段を下りる音が、遠ざかって……お部屋がしんと静かになった。
「……」
――宏兄が居なくなっちゃうと、一気に心細くなる。
忘れるな、とでも言うように、胸がじくじくと痛みはじめた。
晴れた日に、急に雨が降り出したみたいに、唐突な落ち込みがやってきて……もう、一生笑えないような、悲しい気持ちになってしまう。
ぼくは、お布団の中でからだを丸めて、膝を抱え込んだ。
「……陽平……」
陽平に婚約破棄されたことも。なぜか、宏兄のお家で寝込んでいることも。――まだ、信じられない。
こうして目を閉じてしまうと、全部が夢なんやないかって、思えるくらい。
「……ぁ……」
身じろぐと――お布団から、ふわりと深い木々の香りがする。
その温かな香りが、どうしようもなく現実を伝えてきて……ぼくは、また少し泣いてしまった。
体がとても重くて、何故だか目を開けてられなくて。部屋が明るくなったり、暗くなったりを、何度も繰り返し見た気がする。
宏兄は、どんな時も傍にいてくれた。
悪夢に魘されるたびに、揺り起こして。お兄ちゃんみたいに、ぼくを抱いていてくれたんよ。
「宏兄……?」
「ああ、ここにいるよ」
優しく、頭を撫でられると……安心して、眠りこんでしまった。
――チュン、チュン……
鳥のさえずりが、聞こえてくる。
まぶしい光につられて、意識がふわふわと浮かび上がる。
「んん……」
うとうとと、重いまぶたを開けると――すぐ近くに、宏兄の寝顔があって、驚いた。
「わっ……」
大きな声を出しそうになり、慌ててこらえる。
宏兄は、ぼくを布団ごと抱きしめて、ベッドに横になっていた。穏やかな寝顔を、朝日が照らしているのを見て……ほうと息を吐く。
「ずっと、そばにいてくれたん……」
胸の奥に、ほわりとあたたかな感謝が湧き起こる。
ぼくは、もぞもぞと体を動かして、宏兄の肩を揺り動かす。
「宏兄、ひろにい……」
布団を着てないから、風邪ひいちゃう。
「……ん」
とんとん、と肩に触れると、ぴくりと瞼が震える。スイッチをぱちんと切り替えるように、宏兄は目覚めた。
不思議な色の瞳が、ほほ笑む。
「おはよう、成」
「あ……おはよう、宏兄」
穏やかに微笑んだ宏兄が、顔を寄せてくる。額が触れ合って、深い森の香りが鼻を掠めた。
「ああ……熱が下がったな。よかった」
「熱……?」
「うん」
きょとんと目を瞬くと、宏兄は頷いた。それ以上は何も言わないで、体を起こす。朝日に、宏兄の輪郭が金色に光るのを、見上げると――大きな手に額を撫でられた。
「水、飲めるか」
「あ……」
そういえば、声がかすれてるかも。
ぼくが頷くと――そっと背に腕を入れ、抱き起される。口元にペットボトルの口を、そっと宛がわれた。乾いた喉を、やわらかい水が滑って行き、快さに目を閉じた。こくこくと喉を鳴らして、夢中で飲む。
「ん……」
もう充分、と思ったあたりで、飲み口が離れてった。
宏兄の肩に凭れて、はふと息を吐くと……穏やかな声が囁いた。
「……まだ、しんどいな」
「へいき……」
と、言ったものの――
からだが、芯を失ったみたいにふにゃふにゃで、まっすぐ起きていられない。
苦笑した宏兄に、ゆっくりとベッドに横たえられた。あれよあれよとお布団をかけられてしまう。
「もうちょっと寝とけ」
「でも……」
「いいから。体が休みたいんだよ」
ぽんぽん、とお布団を撫でられる。
子どもみたいにお世話されてるなあって、すこし気恥ずかしい。
でも――あったかかった。
「薬、飲まなきゃな。食べたいものないか?」
「えっ」
「なんでもいいぞ」
優しい眼差しにつられて、思わず口にする。
「えと……もものかんづめ、食べたい」
「よし。任せとけ」
宏兄は、嬉しそうにぼくの頭を撫でると、風のように部屋を出て行ってしまう。
階段を下りる音が、遠ざかって……お部屋がしんと静かになった。
「……」
――宏兄が居なくなっちゃうと、一気に心細くなる。
忘れるな、とでも言うように、胸がじくじくと痛みはじめた。
晴れた日に、急に雨が降り出したみたいに、唐突な落ち込みがやってきて……もう、一生笑えないような、悲しい気持ちになってしまう。
ぼくは、お布団の中でからだを丸めて、膝を抱え込んだ。
「……陽平……」
陽平に婚約破棄されたことも。なぜか、宏兄のお家で寝込んでいることも。――まだ、信じられない。
こうして目を閉じてしまうと、全部が夢なんやないかって、思えるくらい。
「……ぁ……」
身じろぐと――お布団から、ふわりと深い木々の香りがする。
その温かな香りが、どうしようもなく現実を伝えてきて……ぼくは、また少し泣いてしまった。
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。