いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
108 / 505
第二章~プロポーズ~

百七話 

「いやー、どうも! お騒がせしてスイマセン!」
 
 テーブルの対面で、お兄さんの番の青年が「がはは」と笑った。
 宏兄が割って入って、やっと治まった喧嘩の後――ぼく達四人は、テーブルで顔をつき合わせてるんやけど。
 
「全くだ。急に訪ねてきて、人様の迷惑を考えろ」
「お前に言われたくねーよっ」
 
 つっけんどんなお兄さんの物言いに、青年が拳を振り上げる。また言い合いが始まりそうになって、ぼくは慌てた。
 
「いえいえ、そんなことないですっ」
「そうだぞ。兄貴だって、いきなり来ただろ」
「ひ、宏兄っ」
 
 宏兄の援護射撃も、ひやひやする……! ぼくは笑みを浮かべて、対面の青年に向き直った。
 
「あの、申し遅れました。ぼく、春日成己と申しますっ……ええと」
「あ。オレ、田島綾人たじま・あやとっていいます。一応、こっちの朝匡ともまさの婚約者でして」
 
 ともまさ? 
 首をかしげて――彼が笑顔で指を指した先には、仏頂面のお兄さんがいる。そう言えば、お兄さんの名前知らんかったんや。
 ぼくの様子に、宏兄が喉の奥で笑いながら言う。
 
「そろそろ、兄貴も名乗ったらどうだ?」
「お前が怒らすから、タイミングを逸したんだろうが。――改めまして、春日さん。野江朝匡のえ・ともまさと申します。弟が世話になってます」
「あ……いえ、こちらこそ。宏章さんには、いつもよくして頂いてますっ」
 
 うう。さっきのことがあるから、お兄さんと話すのは、少し緊張しちゃう。
 すると、宏兄がそっと手を握ってくれた。――あたたかい手を握りかえすと、勇気が湧いてくる。
 ぼくは、お二人の顔を見て、ぺこりと頭を下げた。
 
「お兄さん、田島さん。不束者ですが、一生懸命つとめます。よろしくお願いいたしますっ」
「いや――」 
「こちらこそ! オレのことは綾人でいいよ」
 
 お兄さんをどん! と押しのけて、綾人さんが笑顔で身を乗り出した。がし、と両手を取られる。
 近づいてきた笑顔に、何故か宏兄が声を上げた。
 
「ちょ、綾人君!?」
「へへ。弟が出来るって聞いたもんだから、居ても経ってもらんなくて……そうだっ、つまんないものですが」
 
 綾人さんは、大きなリュックから取り出した包みを、ずずいと差し出す。綺麗に包装された四角い箱に、『御祝』と熨斗がついていた。
 
「おめでとうございます! これ、オレの実家のほうにある店のどら焼きっすけど、めっちゃ美味いから」
 
 清々しいほどの笑顔に、めいっぱいの「歓迎」の気持ちが伝わってきた。ぱあ、と心が明るくなる。
 
「わあっ、お気遣いありがとうございます……! ぼく、どら焼き大好きですっ」
「マジ? 良かったあ!」
 
 明るさを増す笑顔に、ぼくも自然と頬がほころんだ。
 お菓子もやけど、お心遣いが嬉しくてじんとしちゃう……。そっと包みを撫でると、包装紙の甘い香りがする。
 宏兄も、嬉しそうに言う。
 
「綾人君、ありがとう。来てくれたうえに、お祝いまで貰っちまって」
「いやいや、当然すよ。お世話になってますから」
 
 照れたように頬をかく綾人さんの肩を、お兄さんが掴んだ。
 
「お前、いつの間に実家へ……まさか、一人で行ってないだろうな」
「へ? 昨日、一人で行ったけど」
「この馬鹿ったれ!」
「いっ!? 叩くことねーだろ!」
 
 綾人さんが、お兄さんに食ってかかる。
 
 ――わあ、またケンカが……!
 
 ぼくがおろおろしていると、宏兄に肩を叩かれる。
 
「気にするな、いつものことだから」
「そ、そうなん?」
「喧嘩するほど仲が良いってやつだ。――おい、二人とも、コーヒーのお替りいるか?」
 
 宏兄が尋ねると、掴み合っていた二人が同時に振り返った。
 
「――飲む!」
 
 二人は重なった返事にハッとして、つんとそっぽを向く。
 
 ――すごい、喧嘩してるのに息ぴったり。
 
 驚くぼくに、宏兄が「な?」って言うように、目配せをした。
 たしかに……お兄さん怒ってたけど。宏兄に怒鳴ってるより、楽しそうやったかもしれない。いや、怒るのに楽しいも楽しくないも、あるかわからへんけど。
 しみじみとしながら、宏兄のお手伝いに席を立とうとして――つん、と腕をつつかれる。
 
「なあなあ、成己さん」
「はい、何でしょう」
 
 手招きされ、耳を近づけると――ひそひそと囁かれた。
 
「ちょっと、二人で話したいんだけど、いい?」
 
 
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。