いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
114 / 505
第二章~プロポーズ~

百十三話 

 湯上りでほかほかの体で、ベッドに腰かける。
 
「……申し訳ないなあ。ぼくだけ、先に休ませてもらって」
 
 ぴたりと閉じたままの寝室のドアを見て、独り言ちる。
 宏兄は、まだ仕事をするからって、書斎にこもってるねん。先にお風呂に入って、休んでていいよって言われたん。「お手伝いさせて」って、お願いしたらね――
 
「ありがとうな。でも、今日は休め。色々あって、疲れてるだろう」
「ぼ、ぼく元気やでっ。いっぱい打てるよ。お茶だって……!」
 
 ポメラを抱えて食い下がるぼくに、宏兄は苦笑する。
 
「そんなに焦らなくて大丈夫だ。仕事も俺も逃げないし。元気になったら、いやってほどお願いするからな」
「宏兄……」
「な。いい子にして、おやすみ」
 
 そう囁いて――ぼくの顎をすくい、宏兄は頬にキスをした。

 
 
「あうう。お休みのキスなんて。宏兄ってば、キザすぎるよ~……!」
 
 熱る頬を手のひらで覆って、呻く。
 甘い仕草に呆けている間に、あれよあれよとお風呂に押し込まれていて。今、ここに至るというわけなんやけど。
 
 ――結局、お言葉に甘えちゃってるし……
 
 ぽふん、とベッドに横ざまに倒れ込む。すると――やわらかい布団に体が沈みこんで、ぐったりと手足の力が抜けちゃう。頭が持ち上がらない。
 
「……うぐぐ」
 
 ぼくは、何とか布団をはぐると、体を中に滑り込ませた。 
 それだけで、全力で走った後みたいに、体が重い。……宏兄の言う通り、思っていたより疲れていたんやろか。
 
 ――今まで、こんなんじゃなかったのに。風邪が治りきってないのかなあ……?
 
 首を傾げつつ、お腹を手のひらで擦る。
 ……なんにしても、楽しく遊びに行っておいて、この体たらくはあかんよね。
 お布団にくるまって、しゅんとする。
 
「宏兄は、お仕事頑張ってるんやから……!」
 
 そもそも、ぼくのために、宏兄のお仕事の手を止めてしまったわけで。
 それで、今も頑張って書いてるに違いないのに。ぼくときたら、一人ぐうたらで……
 ぎゅっと布団を握りしめる。
 
 ――明日こそ、もっとちゃんとするんだ!
 
 優しい宏兄に、恩返しできるように。ただでさえ、お世話になりっぱなしなんやから……
 そう意気込んだとき――しくん、とお腹が痛む。

「あてて……」

 お腹を抱えて、背を丸める。

 ――いややなあ、この差し込み。癖になってる……

 まるで、陽平の置き土産みたいや――そんな風に思って、気分が沈む。
 また健診にいくから、中谷先生に相談してみようかな。
 のろのろとお布団を引っ張り上げたとき……ピコン、と通知音が鳴った。
 
「……!」
 
 サイドチェストの上で、充電してるスマホやった。
 
「なんやろ……よいしょ」
 
 ずりずり……とお布団の中を這い進んで、スマホに手を伸ばす。通知はメッセージのアプリからで、その差出人を見て、ぼくは目を丸くした。
 
「えっ?」
 
 
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。