いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第二章~プロポーズ~

百十六話 2023/12/22(00時55分)加筆完了しました!

「成己、そっち行ったぞ!」
「うんっ……えい!」
 
 壁を弾いて飛んできたボールを、追いかけた。
 ラケットを振りぬけば……ぽかっと軽い音を立てて、ボールが明後日に打ちだされる。
 
「あっ……ごめん!」
 
 しまった、大エラー……!
 青褪めるぼくに反し、綾人は動じない。
 
「ナイスキャッチ! ――ほいっ」
 
 風のように疾走し、コートの隅に弾かれたボールを打ち返してくれた。緩やかな放物線を描いて、ぼくのフォアサイドに戻って来たボールに驚嘆する。
 
「すごい、綾人!」
「わはは。どんと来いだぜ!」
 
 白い歯を見せて笑う綾人は、すごく楽しそう。
 初めてのスカッシュなのに、戸惑っているところも無くて、むしろわくわくしてるみたい。ぼくも、楽しくなる。
 
「えいっ!」

 しっかりとボールを見てラケットを振った。 
 今度は、ぽこんと音を立てて、真っすぐに飛んで行く。
 
「ナイショー!」
 
 綾人の笑顔が輝く。
 ぼく達は、わいわい言いながらコートを走り回った。
 


 
 
 ――ぼくと綾人は、県内にある複合アミューズメント施設に来ていた。
 カラオケやゲームセンター、色々なスポーツを楽しめるフロアがあってね。休日やからか、どこも大賑わいやった。
 で――ぼく達も、今はスポーツのフロアでひと汗かいているところです。
 
「はい、成己!」
 
 ヒンヤリと冷たいペットボトルを、手渡される。ぼくは笑顔で受け取った。
 
「綾人、ありがとう」
 
 話してるうちに、同い年やったことが判明してん。そういう気安さもあって、ぼく達は急速に親しくなっていた。
 
 ――久しぶり。名前の呼び捨てするのも、されるのも……
 
 唯一、ぼくを成己って呼んだ人が、頭に浮かびかけて……慌ててペットボトルに口をつける。
 
「美味しい」
 
 熱った体が、冷たいスポーツドリンクで潤う。ほうと息を吐いていると、一気に半分を飲み干した綾人が、ニコニコ笑う。
 
「楽しかったな! オレ、めっちゃ汗かいたっ」
「うんっ、ぼくも。綾人、すっごい上手やね」
「そう? でへへ」
 
 綾人は、照れくさそうに頬を緩めた。素直な反応に、胸が温かくなる。ちょっと強引やけど、明るくていい子やなあ。
 
「実はオレ、高校までテニス部で。結構ガチでやってたんだー」
「あっ、そうなんや! 道理で~」

 確かに、ラケットの構え方とか、フットワークが玄人さんやったもんね。ぼく、めっちゃ下手くそやのに、軽々カバーしてくれてたし……よっぽど上手やないと、あんなん出来ひんはず。

「綾人、強そう! 試合とか出た?」
「うん! 出てたぞ。インターハイも出た」
「すごーい!」

 スポーツは疎いぼくでも、インターハイはわかるよ。
 尊敬の眼差しで見つめると、綾人はちょっとはにかんだ。手の中のペットボトルを、ぽんぽんと放り投げる。

「いや、まあ。優勝とかは出来んかったけどな。めっちゃ強い奴がいてさー、最後くらい勝ちたかったんだけど」
「そうなん。ライバルやね?」
「うん、ライバル! アルファだけど、それ以上に努力のやつでな。今は海外にいる」
「……ん?」

 嬉しそうな綾人の言葉に、ぼくは首を傾げた。

――えっ。アルファ?

 オメガは、オメガだけのスポーツの大会にしか出られないはずやのに。どうして、アルファが一緒に試合に……?
 疑問に思うぼくをよそに、綾人はニコニコと話し続けてる。

「すげー強くなってるだろうけどさ。オレも、負けじと体作ってんの! 朝晩トレーニングしてさ。壁打ちも」
「……そうなんや! テニス、大好きなんやね」
「へへっ。そう!」

 ひゅんひゅんと、素振りのポーズをする綾人は楽しそうで。ウソのない綺麗な笑顔やった。

――きっと、なにか事情があるんやね。

 まだ知り合ったばかりやけど、綾人は真っ直ぐな子やもん。不躾になんでも聞いて、傷つけたくない。
 疑問を彼方に追いやって、ぼくもほほ笑んだ。

「朝、走りに出ると朝匡が煩くてさ。用心しろだのへちまだの」
「あはは。きっと、心配してはるんよ」
「ないない。成己ならわかるけど、オレみたいなデカいやつ」
「えっ。そんなことないよ!」

 からっと笑う綾人に、きっぱり断言する。
 だって、綾人は――蓑崎さんとはまた違うタイプの、とても美しいオメガやもん。日に焼けたなめらかな肌に、端正な顔立ち。敏捷そうな、引き締まった体躯。

「お兄さんが心配なのも、わかるけどなあ」

 そう言うと、綾人は不満そう。

「いやマジで。オレ、本当ごついし。ほら」
「わ……!?」

 なんと、綾人は突然、ぺらりとTシャツを捲って見せた。
 肋骨の辺りまでたくし上げられ、綺麗に割れた腹筋が丸見えになる。
 そして――そこに見えたものに、ぼくはぎょっと目を見開く。

「だ、だめ~!」
「うわお!?」

 Tシャツを引っ張り下ろすと、綾人は目を白黒させている。ぼくは、かっかと熱る頬をもて余し、Tシャツを引っ張ったまま俯いた。

「どうした?」
「な……なんでも。お腹冷えるから、脱いじゃだめっ」
「お、おう?」

 不思議そうな綾人に、ぼくはもごもご答える。
 こんな人の多いところで、体を見せちゃダメ。
 それに、さっき見えたのは――腹筋や胸元に散った、赤い花びら。

――あれ……つまり、その……行為の痕……

 頬がぼんと燃える。
「ひええ」と脳内で転がりまわった。
 素直な綾人が、そこまで進んでることも衝撃やし、その上で、この無防備さにも度肝を抜かれちゃう。

――綾人は、かなり天然さんやから、気をつけてあげなくちゃ!

 そう誓ったとき――声をかけられた。

「ねえ、君らさ。二人?」
「……!」

 横目に窺えば、派手な見た目の、若い男がふたり。
 ねばっこい猫なで声に、嫌な予感がする。

――さっきの、見られてた……?

 それでなくとも、綾人は魅力的やから気をつけなきゃ。気付かないフリで、その場を離れようとしたとき――

「あん? なんだアンタら」

 綾人が眉根を寄せて、振り返る。
 あ、あやと――!? 
 
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