いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
118 / 505
第二章~プロポーズ~

百十七話

 揃って体格の良い、刈り上げた髪の男と鼻にピアスの男。路地裏で出くわしたら、迷わずUターンを選ぶタイプの人達や……!
 
「何か用すか?」
「見たとこ、二人みたいだし。一緒に遊ばん?」
「いえっ、二人がいいので。 綾人、行こう」
 
 ぼくは、早口にお断りする。綾人の手を掴んで、その場を去ろうとしたら、ぐるりと回り込まれてしまった。
 
「わっ」
「超驚いてる。かわいー」
「……!」
 
 伸びてきた手に、くしゃくしゃに頭を撫でられてしまう。初対面にありえへん距離感に絶句してると、綾人が男の手を振り払った。
 
「触んなよ」
「おおっ、かっこいいねー」
「頑張っちゃって」
 
 男たちが、どっと笑う。ひたすら不快な笑い声に、気持ちが逆撫でされる。綾人も、不快そうに目を眇めた。
 
「何だこいつら。きめぇな」
「あ、綾人。落ち着いて」
 
 綾人の手を握って、宥める。
 ことを荒立てたら不味いと思う。だって……気のせいじゃなく、男たちは綾人にすり寄るような、気味の悪い目をしてるもん。
 
 ――綾人が狙われてる。ぼくが、ちゃんと守らなきゃ……!
 
 相手は体格が良いし、力にものを言わされたら、敵わない。隙を見て、周囲の賑わいに逃げ込めば――そう思ったとき、刈り上げの男が強引に綾人の肩を抱いた。
 
「あぁ?! んだコラ!」 
「な。いいから行こうぜ」
「やめて下さいっ……!」
 
 ぼくは、男をどんと突き飛ばした。 
 
「すみませんけど。ぼくら、婚約者がいますから、困りますっ!」
 
 ぼくの宣言がフロアに響き、周囲の人が振り返っていく。男たちは虚をつかれたように、顔を見合わせていた。
 
「行こう、綾人!」
「あ、ああ。成己――」
 
 ぼくは鼻息荒く、綾人の手を握って歩き出した。――すると、男の嘲笑が背に投げつけられる。
 
「なんだありゃ。冷めるわ」
「婚約者がいますぅ~! だってよ」
「処女丸出しかよ」
「……っ!」
 
 ひどい言い草に、かあっと頬に血が上る。
 
 ――なんで、そんなん言われなあかんの……!
 
 どうせ、ガキくさいし、どんくさいもん。
 足を前へ動かしながら、くやしくて唇を噛み締めると――ぎゅって、手を握りかえされる。
 
「成己、だいじょーぶ」
「綾人」
 
 泣きそうになって見上げると、綾人は不敵にニッと笑っている。
 と、思ったら――突然、手に持っていたペットボトルを振りかぶった。
 
「おりゃー!」
 
 鋭い掛け声とともに、オーバースロー。猛然とスッ飛んでくペットボトルが、スコーンとピアスの男の頭に命中する。
 
「がふっ!」
「えーっ!?」
「もう一発!」
 
 ぼくのペットボトルを奪い、もう一投。――今度は、刈り上げ頭から、スコーンと鮮やかな音が響く。ギャラリーの誰かが、「ぷっ」と噴き出した。
 
「よっしゃ!」
 
 ガッツポーズをする綾人に、ぼくはぎょっとする。もちろん、男たちが黙ってるはずもなく。
 
「――何しやがる、てめぇ!?」
「うわっ、やべー。逃げよう!」
「あわわ……!」
 
 怒りの形相で走ってくる男たちに、綾人は笑いながらぼくの手を引いた。
 凄まじく、足が速い。縺れそうな足を叱咤し、必死に走った。
 ――やがて、人気のない通路に出る。
 
「はは。撒けたなあ」
「あ、綾人っ! 何て、危ないことするの……!?」
 
 晴れやかに笑う綾人は、息一つ乱していない。ぼくは、息も絶え絶えに抗議する。
 
「ムカついたから。いやー、傑作だったよな、奴らの顔!」
「も、もう……!」
 
 あんまり楽しそうに笑うもので、怒る気力が失せる。
 がくりと座り込むと、熱い固い手が、背を擦ってくれる。
 
「大丈夫?」
「……大丈夫ですっ」
「なんで敬語なん」
 
 心配そうに顔を覗き込まれて、ハッとする。
 綾人は危なっかしいけど……でも、すごく純粋で、優しいって思う。

――庇ってくれて、ありがとう。

 ぼくは、綾人の肩にそっと身を寄せる。
 
「綾人、あのね。怒ってくれて、嬉しかったよ」
「がはは。そんなんトーゼンだよ!」
 
 得意そうな笑顔が、本当にきらきらしてて、ぼくもにっこりした。
 
「えへ。じゃあ、ぼくも綾人のこと守るねっ」
「成己……頼もしいぜ!」
 
 綾人が感動も露わに、ぼくの肩をガシッと抱きしめる。
 ぼくらは、人気のない通路にしゃがみこんで――くすくす笑い合った。
 
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。