いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
130 / 505
第三章~お披露目~

百二十九話【SIDE:陽平】

 成己のことは考えない。
 そう決めた翌日に関わらず――俺は、センターへ向かっていた。
 
「はあ? 一人でセンターへ行く?」
「仕方ねぇだろ。あの人忙しいし、俺に構う暇なんかねーの」
 
 晶は多忙の婚約者を気遣い、健診の日を言い出せなかったらしい。
 
 ――そんなことも遠慮して、馬鹿な奴。
 
 こういう部分でも、成己との差を感じる。あいつは……簡単に頼み事を出来る奴だった。センター育ちで、甘え慣れていたんだろうな。へらへらニコニコと、誰にでも懐く様を思い出し、忌々しい気分になる。
 ……ともかく、晶が一人で行くつもりなら、付いて行かない選択肢はない。
 大学の昼休みに、センターの送迎車に二人で乗り込んだ。
 
「別に、ついて来なくてもいいのに」
 
 晶が、俺をじろりと睨む。
 
「馬鹿。一人で行かせられるかよ」
「はぁ。過保護なやつ」
 
 晶は憎まれ口を叩きつつ、俺の肩に凭れてきた。
 ひとつ欠伸をし、ウトウトと眠り始める。――朝まで、幾度も抱き合っていたせいで、眠いのだろう。
 
「……やっぱ、無理してんじゃねえか」
 
 とは言え、隙のないこいつに気を許されていることに、優越感が湧く。肩を抱き、深く凭れかからせてやった。
 
 
 しばらく、寝顔を眺める。長い睫毛が白い頬に青い陰を落としている。
 
 ――『陽平、慰めてやるよ』
 
 昨夜の奔放な振る舞いとかけ離れた、静謐な美貌。
 これこそが、晶の本質だ。
 なぜなら、以前――「セックスは、必要にかられているだけで好きじゃない」と言っていた。昨夜だって、俺を慰めるために無理していたに違いない。
 
「……っ」
 
 胸が、ずきりと痛む。これほど献身的な晶のことを……俺以外は、きっと知らないのだ。
「守ってやらなければ」と思いを強くし、ぎゅっと抱きしめる。
 
「健診の時間に遅れても構わない。ゆっくりと、長く運転してくれ」
「……畏まりました」
 
 道中くらい、よく眠らせてやろうと運転手に指示をする。返事が遅いのが気になったが、運転は静かなものになり、道がいつものルートを外れはじめる。
 
「……」
 
 静かな車内で、俺は晶の寝顔を見ながら、物思いに耽る。
 
 ――それにしても……婚約者の健診にもついてかないなんて、ろくな奴じゃねえな。
 
 晶の身体的問題や、危険な目に遭っていることを、どう受け止めているのだろう。知っていてこれなら――どれほど、晶のことを軽んじているのだろうか。
 思わず舌打ちをしたとき、視線を感じる。
 
「……?」
 
 運転手だった。
 ルームミラー越しに、こちらを覗っていたようで、一瞬視線が合う。
 
「……何か」
「いえ――失礼いたしました」
 
 硬い声音で応えが返る。それきり、運転手は職務に集中したようで、言葉を続けることはなかった。
 
 ――なんなんだよ?
 
 少し不愉快になり、憮然とシートに背を預ける。
 客の様子を覗うなど、センターは従業員の教育がなっていない。うちの従業員なら、客にこんな態度を取ればすぐ馘首されるだろう。
 
 ――そう言えば、成己ともやたら馴れ合っていたな。プロ意識に欠けると思ってたが……
 
 成己とセンターに来ると、職員の誰とでも親戚のような雰囲気で居心地が悪かった。それもあって、俺の足が遠のくことにすら、あいつは気づいてはいなかったんだろう。
 
「んん……」
「……!」
 
 不意に、晶がむずかるように唸る。知らないうちに、肩を抱く手に力がこもっていたらしい。慌てて力を抜くと、晶の唇がむにゃむにゃと動いた。
 
「……らぎ……さ……」
「……?」
 
 ……何か、言ってる? 
 ずいぶん甘い声に驚いて、唇に耳を寄せようとすると――運転手が、「そろそろ到着します」と宣言する。その無機質な声に、晶がハッと目を覚まし、言葉は解らずじまいになる。
 タイミングの悪い奴だ、と俺は運転席を睨んだ。
 
 
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。