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第三章~お披露目~
百二十九話【SIDE:陽平】
成己のことは考えない。
そう決めた翌日に関わらず――俺は、センターへ向かっていた。
「はあ? 一人でセンターへ行く?」
「仕方ねぇだろ。あの人忙しいし、俺に構う暇なんかねーの」
晶は多忙の婚約者を気遣い、健診の日を言い出せなかったらしい。
――そんなことも遠慮して、馬鹿な奴。
こういう部分でも、成己との差を感じる。あいつは……簡単に頼み事を出来る奴だった。センター育ちで、甘え慣れていたんだろうな。へらへらニコニコと、誰にでも懐く様を思い出し、忌々しい気分になる。
……ともかく、晶が一人で行くつもりなら、付いて行かない選択肢はない。
大学の昼休みに、センターの送迎車に二人で乗り込んだ。
「別に、ついて来なくてもいいのに」
晶が、俺をじろりと睨む。
「馬鹿。一人で行かせられるかよ」
「はぁ。過保護なやつ」
晶は憎まれ口を叩きつつ、俺の肩に凭れてきた。
ひとつ欠伸をし、ウトウトと眠り始める。――朝まで、幾度も抱き合っていたせいで、眠いのだろう。
「……やっぱ、無理してんじゃねえか」
とは言え、隙のないこいつに気を許されていることに、優越感が湧く。肩を抱き、深く凭れかからせてやった。
しばらく、寝顔を眺める。長い睫毛が白い頬に青い陰を落としている。
――『陽平、慰めてやるよ』
昨夜の奔放な振る舞いとかけ離れた、静謐な美貌。
これこそが、晶の本質だ。
なぜなら、以前――「セックスは、必要にかられているだけで好きじゃない」と言っていた。昨夜だって、俺を慰めるために無理していたに違いない。
「……っ」
胸が、ずきりと痛む。これほど献身的な晶のことを……俺以外は、きっと知らないのだ。
「守ってやらなければ」と思いを強くし、ぎゅっと抱きしめる。
「健診の時間に遅れても構わない。ゆっくりと、長く運転してくれ」
「……畏まりました」
道中くらい、よく眠らせてやろうと運転手に指示をする。返事が遅いのが気になったが、運転は静かなものになり、道がいつものルートを外れはじめる。
「……」
静かな車内で、俺は晶の寝顔を見ながら、物思いに耽る。
――それにしても……婚約者の健診にもついてかないなんて、ろくな奴じゃねえな。
晶の身体的問題や、危険な目に遭っていることを、どう受け止めているのだろう。知っていてこれなら――どれほど、晶のことを軽んじているのだろうか。
思わず舌打ちをしたとき、視線を感じる。
「……?」
運転手だった。
ルームミラー越しに、こちらを覗っていたようで、一瞬視線が合う。
「……何か」
「いえ――失礼いたしました」
硬い声音で応えが返る。それきり、運転手は職務に集中したようで、言葉を続けることはなかった。
――なんなんだよ?
少し不愉快になり、憮然とシートに背を預ける。
客の様子を覗うなど、センターは従業員の教育がなっていない。うちの従業員なら、客にこんな態度を取ればすぐ馘首されるだろう。
――そう言えば、成己ともやたら馴れ合っていたな。プロ意識に欠けると思ってたが……
成己とセンターに来ると、職員の誰とでも親戚のような雰囲気で居心地が悪かった。それもあって、俺の足が遠のくことにすら、あいつは気づいてはいなかったんだろう。
「んん……」
「……!」
不意に、晶がむずかるように唸る。知らないうちに、肩を抱く手に力がこもっていたらしい。慌てて力を抜くと、晶の唇がむにゃむにゃと動いた。
「……らぎ……さ……」
「……?」
……何か、言ってる?
ずいぶん甘い声に驚いて、唇に耳を寄せようとすると――運転手が、「そろそろ到着します」と宣言する。その無機質な声に、晶がハッと目を覚まし、言葉は解らずじまいになる。
タイミングの悪い奴だ、と俺は運転席を睨んだ。
そう決めた翌日に関わらず――俺は、センターへ向かっていた。
「はあ? 一人でセンターへ行く?」
「仕方ねぇだろ。あの人忙しいし、俺に構う暇なんかねーの」
晶は多忙の婚約者を気遣い、健診の日を言い出せなかったらしい。
――そんなことも遠慮して、馬鹿な奴。
こういう部分でも、成己との差を感じる。あいつは……簡単に頼み事を出来る奴だった。センター育ちで、甘え慣れていたんだろうな。へらへらニコニコと、誰にでも懐く様を思い出し、忌々しい気分になる。
……ともかく、晶が一人で行くつもりなら、付いて行かない選択肢はない。
大学の昼休みに、センターの送迎車に二人で乗り込んだ。
「別に、ついて来なくてもいいのに」
晶が、俺をじろりと睨む。
「馬鹿。一人で行かせられるかよ」
「はぁ。過保護なやつ」
晶は憎まれ口を叩きつつ、俺の肩に凭れてきた。
ひとつ欠伸をし、ウトウトと眠り始める。――朝まで、幾度も抱き合っていたせいで、眠いのだろう。
「……やっぱ、無理してんじゃねえか」
とは言え、隙のないこいつに気を許されていることに、優越感が湧く。肩を抱き、深く凭れかからせてやった。
しばらく、寝顔を眺める。長い睫毛が白い頬に青い陰を落としている。
――『陽平、慰めてやるよ』
昨夜の奔放な振る舞いとかけ離れた、静謐な美貌。
これこそが、晶の本質だ。
なぜなら、以前――「セックスは、必要にかられているだけで好きじゃない」と言っていた。昨夜だって、俺を慰めるために無理していたに違いない。
「……っ」
胸が、ずきりと痛む。これほど献身的な晶のことを……俺以外は、きっと知らないのだ。
「守ってやらなければ」と思いを強くし、ぎゅっと抱きしめる。
「健診の時間に遅れても構わない。ゆっくりと、長く運転してくれ」
「……畏まりました」
道中くらい、よく眠らせてやろうと運転手に指示をする。返事が遅いのが気になったが、運転は静かなものになり、道がいつものルートを外れはじめる。
「……」
静かな車内で、俺は晶の寝顔を見ながら、物思いに耽る。
――それにしても……婚約者の健診にもついてかないなんて、ろくな奴じゃねえな。
晶の身体的問題や、危険な目に遭っていることを、どう受け止めているのだろう。知っていてこれなら――どれほど、晶のことを軽んじているのだろうか。
思わず舌打ちをしたとき、視線を感じる。
「……?」
運転手だった。
ルームミラー越しに、こちらを覗っていたようで、一瞬視線が合う。
「……何か」
「いえ――失礼いたしました」
硬い声音で応えが返る。それきり、運転手は職務に集中したようで、言葉を続けることはなかった。
――なんなんだよ?
少し不愉快になり、憮然とシートに背を預ける。
客の様子を覗うなど、センターは従業員の教育がなっていない。うちの従業員なら、客にこんな態度を取ればすぐ馘首されるだろう。
――そう言えば、成己ともやたら馴れ合っていたな。プロ意識に欠けると思ってたが……
成己とセンターに来ると、職員の誰とでも親戚のような雰囲気で居心地が悪かった。それもあって、俺の足が遠のくことにすら、あいつは気づいてはいなかったんだろう。
「んん……」
「……!」
不意に、晶がむずかるように唸る。知らないうちに、肩を抱く手に力がこもっていたらしい。慌てて力を抜くと、晶の唇がむにゃむにゃと動いた。
「……らぎ……さ……」
「……?」
……何か、言ってる?
ずいぶん甘い声に驚いて、唇に耳を寄せようとすると――運転手が、「そろそろ到着します」と宣言する。その無機質な声に、晶がハッと目を覚まし、言葉は解らずじまいになる。
タイミングの悪い奴だ、と俺は運転席を睨んだ。
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