いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第三章~お披露目~

百三十九話

「ふぁ……」
 
 お家のベッドに転がって、ぼくは夢心地やった。
 
 ――夢みたいな一日やったなぁ……
 
 お家に帰ってきて、お風呂にも入ったけど。まだ、楽しかった一日の余韻に、体がじんわり痺れてる。
 綾人に送ってもらい、自分でもたくさん撮ったお写真を、スマホで何度も見返す。
 
 ――ケーキを頬張る綾人とお兄さん。うさぎやの常連さんからのスピーチに、センターの先生たちの歌とダンスの余興。お返しに、宏兄と踊った殿様サンバ……
 
「えへへ……」
 
 にへにへって、勝手に頬が笑っちゃう。――嬉しくて、胸がうずうずして、居てもたってもいられへん。
 ころころとベッドを転がってたら、カチャリと音を立ててドアが開いた。
 
「なーる。なに可愛いことしてるんだ?」
「あっ! 宏兄」
 
 宏兄が笑いながら、部屋に入ってくる。
 じたばたしてたの、見られて恥ずかしい……! 慌てて体を起こしたら、宏兄がベッドに腰を下ろした。
 
「ああ、写真を見てたのか」
「うんっ。すごく楽しかったから……ぼくね、今日が人生で一番嬉しかった!」
「そっか。俺もだよ」
「ほんま?」
 
 胸の内がくすぐったくなって、宏兄の笑顔をじっと見上げる。
 すると、長い腕が伸びてきて、ぎゅっと抱きしめられた。広い胸は、ボディソープと宏兄の香りがする。
 どきどきしながら、大きな背中にぼくはしがみつく。
 
「――」
「宏兄……?」
 
 小さく、宏兄が呟いた気がする。
 こんなに近いのに、上手く聴き取れなかった。聞き返すと、わずかに身を離した宏兄が、ほほ笑む。
 
「いや、言えてなかったと思って。……成、誕生日おめでとうな」
「あっ。ありがとう!」
 
 嬉しさに、ぽっと頬が熱る。
「お誕生日おめでとう」って、やっぱり嬉しいね。特に、今年はこんなに素敵なことがあったんやし……。
 照れながら、胸に額をくっつけていると、首筋をそっと手で包まれる。湯上りのせいか、大きい手はしっとりして熱い。
 
「んっ」
「……新しい首輪、苦しくないか?」
「あっ、うん。快適です」
 
 真新しい首輪を、そっと撫でられた。
 白くて、さらさらした質感の首輪は、凄く着け心地が良い。
 今までの首輪は、国の支給品やからお返ししたんよ。お食事会のときにね、みんなの前で宏兄からの首輪に交換したの。恥ずかしかったけど、すごくドキドキした……
  
「息とか、全然苦しくないねん。すっごく軽いし」
「良かった。軽いが、俺の牙でも壊れない。耐火・防水機能に、最新のセキュリティが入ってるから、成がどこに行ってもわかる」
「すごい……! めっちゃ安全」
「大事なことだからな」
 
 きっぱり言われて、とくんと鼓動が跳ねた。
 
 『宏章さん、成己くんをよろしくお願いします』
 
 中谷先生の声が、よみがえる。
 首輪の交換は、国から引き受人に所有が移ったことをお披露目する儀式。
 ぼくは、ずっと見守ってくれた先生たちから、名実ともに宏兄に託されたんや。
 ――これからは、宏兄がぼくの所有者。
 
「どこか、痛いとこないか?」
「うん、平気っ……」
 
 ぼくが苦しくないか、肌触りはどうか――熱心に、首輪の様子を見る宏兄。……オメガの首輪は、貞操を守れるかだけ考慮できればいいのに。
 ずっと変わらない深い優しさに、胸がきゅうと苦しくなった。
 
「ね、宏兄……」
「ん?」
 
 こっちを見た不思議な色の瞳に、うろたえちゃう。と、咄嗟に呼んだだけやから、言葉が続かないんやもん。
 おろおろしていると、宏兄がほほ笑んだ。
 
「眠いか?」
「あっ」
 
 ひょいと抱き上げられて、ベッドに横たえさせられてしまう。
 
「今朝、早かったしなー。そろそろ寝るか」
「わわ……!」
 
 あれよあれよと、顎まで布団を着せかけられて、はっとする。
 
 ――あ……大事なこと、聞いてない!!
 
 横になった宏兄の重みで、ぎしっとマットが沈みこんだとき――ぼくは、ばねのように身を起こした。
 
「ま、待って!」
「うおっ。どうした?」
「え、えと……言いたいことがあって」
「おう」
 
 マットに肩肘をついて、こっちを見る宏兄に、緊張が高まる。
 ぼくは、ベッドの上で姿勢を正すと、思い切って口にした。
 
「あのっ――初夜やけど、エッチとかしないんですか……?!」
 
 
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