いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
149 / 505
第三章~お披露目~

百四十八話

 
「う~ん」
 
 二日後……ぼくは、自室でカタログを広げ、頭を絞っていた。
 ティーセットを贈ると決めてから、あれこれと調べてみてるんよ。アイデアは宏兄がくれたから、「品物は選びたい」って、お任せしてもらったんやけど。
 あちこちお店に行ったり、雑誌を調べてはいるものの……なかなかピンときません。
 
 ――お義母さんはコレクター。まだ持ってなくて、素敵なものを渡したい……!
 
 うんうんと唸っていると、階下から賑やかな声が響いて来た。
 
「どうしたんやろう?」
 
 お店の方から声がするみたい。
 不思議に思って、下りて行ってみると――そこには宏兄と、意外な人がいて、ぼくは目を丸くした。
 
「杉田さん?!」
「成ちゃーん! 久しぶりだねえ!」
 
 うさぎやの常連の杉田さんが、にこやかに手を振っていた。杉田さんは、カウンターに腰かけて、たくさんのアルバムを広げてはる。
 
「杉田さん、お久しぶりですっ。結婚式、お祝いに来てもろて、ありがとうございました」
「いやいやいや! 僕の台詞。良いもの見せて貰って、寿命が延びた!」
 
 ぱしぱしと肩を叩かれて、笑いが零れる。
 カウンターで作業していた宏兄が、嬉しそうに言った。
 
「成、ちょうどいいところに。杉田さん、結婚式の写真持ってきてくれたんだ」
「えっ、そうなんですか? わあ……こんなにいっぱい!」
 
 杉田さん、結婚式のお写真撮ってくれてたん。現像が終わったから、アルバムにして持ってきてくれはったんやって!
 
「いや、下手の横好きなんだけどねえ。よかったらね、記念にね」
 
 少し気恥ずかしそうに渡されたアルバムには、あの素敵な一日が再現されていた。
 ――チャペルから降りそそぐ光。中谷先生と歩いた、バージンロード。宏兄と、将来を誓った瞬間。お祝いしてくれた、皆の笑顔……見ていると、どっと感動がぶり返してくる。
 ぼくは、夢中でページを繰りながら、すんと鼻を啜った。
 
「すごい嬉しいっ……こんな素敵なの、頂いていいんですか?」
「貰って、貰って! いやあ、喜んでもらえて、感激だなあ」
 
 杉田さんは、顔を真っ赤にして頭を掻いている。宏兄は笑いながら、ぼくの目尻に浮かんだ涙を拭ってくれた。
 
「杉田さんの写真、いいよな。俺もさっき泣いちまったよ」
「嘘つけ、店長! 「店は休みだぞ」ってけんもほろろだったろ!」
「いやいや……俺、新婚ですよ?! ほんと能う限り、成とイチャイチャしてたいんですって。――それが奇しくも、この写真があったから、こうして珈琲だっていれてるってわけで」
「おお、待ってました!」
 
 カウンター越しに、アイスコーヒーを宏兄がサーブする。杉田さんは、嬉しそうに受け取った。
 宏兄ってば、なんやかんや嬉しいくせに。わいわいと話す二人を見ながら、ぼくはくすりと笑った。
 
 
「はあ~……杉田さん、ほんまにお写真上手ですねえ」
「ははは……成ちゃんは感動屋さんだなあ」
 
 アルバムを見せてもらいながら、しみじみと呟く。光の入り方、シーンの切り取り方と言い……とてもロマンチックで、惚れ惚れしてまう。
 すると、宏兄が驚きの情報を言った。
 
「成、この人謙遜してるんだ。ねえ、杉田さん。作家のパンフレットの写真とか、撮ってるじゃないですか」
「ええっ!」
「いやいや……! ほんと、仕事だなんて! 親戚の子の手伝いしてるだけだよ!?」
 
 杉田さんは、顔を真っ赤にして首を振った。
 謙遜しながら説明されることには――杉田さんの親戚に、陶芸作家をしてはる方がおられるそうなん。それで、作品のパンフレットをつくってくれないかって依頼が来たんやって。
 ぼくは目を輝かせて、身を乗り出す。
 
「すごーい! 見てみたいです!」
「いやもう……参ったなあ~」
 
 杉田さんは、恥ずかしそうに鞄からクリアファイルを取り出した。それは、A5サイズの小冊子で……あたたかな印象の橙色の表紙がついていた。
 
「わあ……」
 
 感嘆の吐息が漏れる。
 販売を目的にしたパンフレットらしく、用途と一緒に作品の写真が載ってる。書店に置いてあるのと遜色がない素敵なもので、杉田さんは謙遜しすぎやと思う。
 素敵なお写真は、明瞭に品物がわかるだけでなく、見てるとロマンチックな気持ちになる。さらにぼくを驚かせたのが――その作品やったん。
 
「……かわいい!」
「でしょう。良いデザインだよねえ」
 
 杉田さんが頷く。
 陶芸作家さんっていうと、すごく渋い感じの作品のイメージやったん。でも、ここにあるのは、かわいい今風のデザイン。それでいて、あたたかみのある土の質感があって……すごく素敵。
 
「この子、脱サラして始めたばっかで、まだ知名度が無くてね。いいもの作ってるのに、あんまり売れてないんだよ」
「そうなんですか。もったいないなあ……手作りの一点ものは、現代じゃ貴重なのに」
 
 宏兄が、残念そうに言う。ぼくは会話を上の空に聞きながら――あるページに釘づけになっていた。
 
「……あっ」
 
 ふっくらした丸みのある胴体は、あたたかな土の質感が感じられる。うわぐすりで淡い空色に染め抜かれて……白い雲と猫の意匠があしらわれている……かわいいティーポット。
 目を皿にして確認すると……お揃いのティーカップもある!
 
 ――これだ~!!!
 
 
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。