いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第三章~お披露目~

百五十二話

 車がうさぎやの前についたとき、ちょうど門扉が開いて、宏兄が迎えに出てくれた。
 
「宏兄!」
「成、おかえり!」
 
 大きな笑顔で手を振る宏兄に、胸にぽっと灯りが点る。大急ぎで車を降りると、迎えるように腕が開き、ぎゅっと抱きしめられた。
 森の香りのシャワーに包まれる。
 
「ただいまっ。宏兄、どうして?」
「車の音が聞こえて、まさかと思ってな。やっぱり成だった」
 
 嬉しそうに頬ずりされて、ほわほわと顔がほころんだ。すると、車の窓から身を乗り出した綾人が、ぴゅー! と口笛を吹く。
 
「熱いね、新婚さん!」
「ああ綾人っ」
 
 ひ、人前でした……!
 宏兄は、慌てるぼくの肩を抱いて、にこやかにお礼をする。
 
「綾人君、佐藤さん。今日は本当にありがとう!」
「いやいや! こちらこそ、めっちゃ楽しかったんで。昼も夜も、ごちそう様でした」
「お役に立てましたら何よりです」
 
 からりと笑う綾人に、礼儀正しくお辞儀する佐藤さん。ぼくも、もう一度二人に頭を下げた。
 
「綾人、佐藤さん。本当にありがとうございました。今日、すっごく楽しかったですっ」
「オレもー! また遊ぼうな」
「うんっ!」
 
 がし、と一度握手して、綾人が手を振る。
 佐藤さんが会釈して、運転席に乗り込み――夜道を滑るように、車が遠ざかって行った。
 
「さて、俺たちも入ろう。土産話を聞かせてくれ」
「はいっ。ありがとう、宏兄」
 
 宏兄に促され、ぼくは大きく頷いた。

「……んっ?」

 中に入るとき、玄関付近が濡れていて、少し漂白剤のような匂いがした。

――宏兄、お掃除したのかな?

 不思議に思ったけれど、「成ー」と呼ばれて、慌てて靴を脱いだ。
 
 


 
 居間のテーブルに向き合って、ぼくは宏兄に旅のお話を聞いてもらった。
 まず、お義母さんへのプレゼントを無事に手に入れられたご報告と。それから、作家さんのお人柄に触れて、かわいい作品たちを見せていただいた素敵な時間を、共有したくて。

「あのね、この写真。皆で薪を割らせてもらったん! ほら、真っ二つにできたよ」
「お。いい笑顔だなぁ、木こりさん」
「えへへ」

 宏兄はニコニコして話を聞いてくれるから、つい話し過ぎちゃったりして。
 
「――そうか。良いところだったんだなあ……俺も行きたかった」
「あはは。また一緒に行こうね」
 
 大きな肩を叩いて、しょんぼりしている宏兄を励ました。
 ぼくは、「今出すべき?」とピンと来る。
 
「えっとね。次までの楽しみって言うか……お土産、買わせてもろてん!」
「おっ?」
 
 ぼくはどきどきしながら、リュックの中から箱を取り出す。そーっと、壊れないようにテーブルの真ん中に置いて、宏兄の方へ向けた。
 目を瞬いた宏兄は、嬉し気に自分を指す。
 
「開けていいのか?」
「うんっ」
 
 見守るぼくの前で、箱を開けた宏兄は「おお」と感嘆のため息をついた。
 
「何だこりゃ、可愛いな……! ペアのどんぶりか?」
「そうやねん! あのねっ……」
 
 箱に並んでおさまっているのは――萌黄色と、桃色のどんぶり。
 真っ白い猫と、はちわれの猫の意匠がそれぞれにあしらわれていて……それは作家さんのオリジナルのキャラで「番の猫」なんやって。
 
「ほう。番の猫か」
「うんっ。「夫婦どんぶり」って言うねん。お茶碗は小さいから、どんぶりのほうが使い勝手ええやろなあ、って作らはったそうなんよ。えと、ぼくも宏兄もたくさん食べるし……焼きものやけど、電子レンジも食洗機もオッケーで……」
 
 話しながら、照れくさくなってきて、早口になってしまう。

――……綾人が恥ずかしがってた理由、わかっちゃったかも。だって、この猫ちゃんたち、すっごいラブラブで……

 丼を横に並べると、キスしてるみたい。これを渡すの……こういう風になりたいな、って言うてるみたいやもん!
 熱る頬を隠すように俯くと……近づいて来た宏兄に、がばりと抱きしめられる。

「成っ」
「ひゃっ」

 頬や額に、キスの雨が降ってくる。オーバーな感謝の表現に、ぼくは目を回しそうになった。

「あわわっ、宏兄?」
「すごく嬉しいよ! ありがとう」

 蕩けるような笑みを浮かべて、宏兄が言う。――目尻がふわりと赤らんで、本当に嬉しそう。
 ぼくはその笑顔に、なんだかぽうっとして……胸が詰まった。

「宏兄、嬉しい?」

 尋ねた声は、われながら甘えていて恥ずかしい。宏兄は目を細めて、大きな手でぼくの頬を包んだ。

「うん。ふたりで毎日使おうな」
「ま、まいにちですかっ?」

 それは流石に――と、言いかけた唇を、塞がれた。
 どんな方法でかは……お揃いの猫ちゃんたちだけが、知っていること、やったりして。

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