いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第三章~お披露目~

百五十三話

 お義母さんの誕生日会まで、ぼくと宏兄は着々と日々を過ごしていた。
 当日、会場に届けるお花や、バースデーカードを選んだり――ある日は、パーティの為のスーツを誂えてもらったりした。
 
「宏兄……どうでしょうか」
 
 試着室を出ると、待ち構えていた宏兄が手を叩いた。
 
「おお! 淡い桜色がよく映えて……花みたいだ」
「も、もう。褒めすぎやってば……!」
 
 手放しの賛辞に、燃えそうな頬を押さえた。
 宏兄ったら、ひとつ着るたびにすっごい褒めてくれるんやもん。「黒は大人っぽい」「ベージュは知的」「淡いブルーはミステリアス」って。
 宏兄は兄バカやからって、いちいちキュンとする胸を諫めるんやけど。
 
「褒めすぎなもんか。すごく魅力的だよ」
「宏兄……」
 
 蕩けるような目で見つめられて、くすぐったいのが止まらへん。
 ぼくは、こほんと咳ばらいした。
 
「ぼくより、宏兄も選ぼうよ。ほら、この黒いのとか。俳優さんみたいでかっこいいよ」
「そうか? じゃあそれにしようかな」
「あっさり!?」
 
 でも、試着室から出てきた宏兄は、とてつもなくゴージャスやってん。体格の立派な宏兄は、ラフな格好でも格好良いけれど……スーツで決めると、周りが光って見えるほど素敵。
 言葉もなく圧倒されていたら、
 
「どうだ。これなら、美しいお前に相応しいか?」
 
 なんて。茶目っ気たっぷりに片目をつぶるから、笑ってしもた。宏兄ったら、冗談ばっかり言うんやから!
 
 
 
 
 はじめてのパーティやけど、あまり不安がないのは、宏兄が居てくれるからやなあって思う。 
 
「~♪」
 
 そして、またある日。
 お昼ご飯の後――ぼくは、洗い終わったどんぶりを水切りカゴに伏せて置いた。二つ並んだ萌黄と桃に、ほわりと喜びが募る。
 
 ――猫ちゃんたち、今日もありがとうね。
 
 にへにへと緩む頬に手をやっていると――背後から、ぎゅっと抱きしめられた。
 
「わあっ」
「成、お疲れさん」
 
 振り仰ぐと、宏兄がいる。書斎でお仕事をしてたはずなのに、いつのまに。
 ぼくは、唇を尖らせた。
 
「宏兄ってば。びっくりするんやからっ」
「はは。ちょこちょこ動いてて可愛いなーって思ったら、つい」
「も、もう! ふざけてないで、お仕事してくださいっ」
 
 宏兄ってば、すぐにからかうんやもん。つんと前を向くと、低い笑い声が聞こえた。
 
「悪い悪い。実は、成にお願いしたいことがあってさ」
「えっ。なあに?」
 
 珍しい宏兄のお願いに、腕の中でくるりと振り返る。
 
「一緒に映画でも観ないか?」
「映画?」
「次に、恋愛小説のアンソロジーに寄稿することになってな。百井さんから、恋愛ものの資料としてリストが送られてきたんだが……どうもこの方面は疎くて、よくわからん。お前の意見が欲しいんだ」
 
 困り顔の宏兄に頼られて、嬉しくなる。ぼくは、ぎゅっと宏兄のシャツを握った。
 
「まかせてっ。ぼく、センターでは、少女漫画も沢山読んでるから!」
 
 それから、リビングのテレビで映画鑑賞が始まったん。
 カーテンを閉めて部屋を暗くすると、ソファにクッションをたくさん並べる。やっぱり、雰囲気が大事やもんね。
 出来栄えに満足していると、宏兄がポテトと飲み物をお店から持ってきてくれた。
 
「おっ、いい巣を作ったな」
「えへ。宏兄も、いい匂い! ありがとう」
 
 ポテトと冷たい飲み物をテーブルに並べる。うきうきとソファに座ろうとすると――
 
「成、おいで」
「……あっ、えっ!?」
 
 ひょいと抱き上げられて、宏兄のお膝に乗せられてしもた。
 
 ――えっ、えっ? 宏兄……?!
 
 びっくりして、ぎゅっと目を瞑ると……おなかに優しく腕がまわった。宏兄の胸に、深く凭れさせられて……

「よし、観るぞ」
「あ」

――ぱっ、と映画のタイトルが写された。少し古い映画らしく、少し褪せた映像の中に、主役と思しき俳優さんが動き出す。
 
「これはな。第三性が、国の管理化に置かれて間もない頃に創られた映画で……」
「あ、あわわ」
 
 概要を解説する宏兄やけど、ぼくはそれどころじゃないです……!
 だって、あたたかい体に寄り添っていると、どきどきして……物語が入ってこないんやもん。
 お膝でもぞもぞするのが気になったのか、宏兄にぎゅって抱きしめられてしまう。ひええ。
 
 ――どうしようっ。なにか変……!
 
 小さいころは、宏兄のお膝で映画を観せてもらったし。宏兄は、その習慣のつもりやと思うん。
 やのに……どうしてか恥ずかしくて、体がくすぐったい。
 
「ひ、ひろに……」
 
 下ろして貰おうと、見上げたら……真剣に映画を観る横顔がある。宏兄は「ん?」とほほ笑んだ。
 
「飲むか?」
「あ、ありがとう」
 
 ぼくは、口元に差し出されたストローを、大人しくくわえる。喉を鳴らしていると、微笑ましそうな瞳で見られていて……頬が熱くなった。
 
 ――だ、だめだ。宏兄は、真剣に映画観てるんやから……ぼくも集中しなきゃ。
 
 せっかく、宏兄に頼まれたんやもの。
 ふんす、と気合を入れ直したぼくやったけど――宏兄のあたたかな胸や、お尻の下の逞しい太ももが気になって、もぞもぞと動いてしまう。
 
「……っ」
 
 ど、どうしよう……。気にせんとこうとすればするほど、くすぐったい……。
 映画に集中してる宏兄の、芳しい香りがする。――くらくらする頭を押さえて、ぼくは必死に画面に目を凝らした。
 
 ――え、ええと。この主人公は、第三性でオメガに目覚めて……! 隠して生活してるんやけど、危うくクラスメイトにばれてしまって……そしたら、幼馴染が助けてくれて……
 
「……あ!」

 ぼくは、息を呑む。 
 集中しだした矢先に、熱烈なラブシーンが繰り広げられてしまった。

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