いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第三章~お披露目~

百五十四話

 画面の中の主人公は、彼の親友にキスされていた。……唇を食べられちゃいそうな、激しいキス。ヒートが起きているからなのか、親友を信頼してるからなのか、主人公はちっとも拒まない。うっとりと目を閉じる彼は、親友の背をきつく抱きしめている。
 夕日の差し込む教室で、二人のシルエットは折り重なり……
 
 ――ひえええ~!
 
 画面の中の青年たちの、甘いラブシーンに頬がぶわーって燃えあがる。
 耳がくすぐったくなるような気恥ずかしさに、ぼくはおろおろと視線をさ迷わせた。
 
「……っ」
 
 しかも、このシーン結構長いっ。
 必死に平然を装うけれど……なんだか、後ろの宏兄の存在を、凄く意識してしまう。焼けそうに熱い耳が、どう見えてるのか、気になって仕方ない。
 宏兄のお膝の上で、カチンコチンに固まっていると――おなかに回った腕にきゅっと力がこもった。
 
「ひゃっ?」
 
 どきっ、と心臓が跳ねる。
 慌てて後ろを振り返れば――映画を観る宏兄の横顔は、平然そのもので。一人照れている自分が恥ずかしくなって、かああと全身が熱くなった。
 
 ――ぼくのばかっ。真剣に観ようって決めたばっかやのに……!
 
 ぶんぶんと頭を振る。
 自分を戒めて、集中しようとしたとき……「くくっ」と低い笑い声が耳元でした。
 
「……へ?」
「……っ、ふふ」
 
 もういちど振り返ると、宏兄が肩を震わせて笑ってる。一瞬、きょとんとしたぼくやったけど――切れ長の瞳に宿る悪戯っぽい光に、「あ!」と叫んだ。
 
「ひどい、宏兄っ! からかったんっ?」
「くく、悪い……必死に平気そうにしてるのに、首まで真っ赤だからさ……可愛くて」
「可愛くなーい!」
 
 ぽかぽかと胸を叩くと、宏兄は「あはは」と声を上げて笑う。ソファで暴れるせいで、クッションがぽとぽと落っこちてく。――しまいには、じゃれる子犬をいなすように、抱き留められちゃった。
 
「どうせ、お子ちゃまですよっ」
 
 むくれていると、大きな手によしよしされる。
 
「成を子どもだなんて思ってないぞ?」
「ぜったい、ウソっ……?」
 
 キッと睨もうとして、ぼくは目を丸くした。
 宏兄の優しいほほ笑みが、思ったより近くにあって。ぼくは、いつのまにか……ソファに仰向けに横たわる宏兄の上に、乗っかっていた。
 体の下に感じる宏兄のぬくもりに、ぼふっと頬が燃える。
 
「ご、ごめんなさ……!」
「おっと」
 
 しっかりと抱きしめられて、身動きできない。
 
「お前は、俺の可愛い奥さんだからな」
「ひ、宏兄……っ」
「子供じゃ、俺が困っちまう」
 
 おろおろと見上げると、宏兄は愉しそうに笑ってた。その瞳の奥に、熱い輝きをみとめ――ぼくは、胸の奥がきゅうと甘く疼いてしまう。
 
「……んっ」
 
 唇が重なったときには、もう目を閉じていた。
 しっかりと抱きしめられたまま、宏兄とキスをする。やわらかくて、温かな触れ合いに……胸の奥がどんどん甘くなってく。
 夢中でキスをしていると、映画の音がおぼろに聞こえてくる。
 
 ――ぼくったら、完全に任務を放棄しちゃって……意志が弱くて恥ずかしい。
 
 ……でも、今は目を開けたくない。
 頭と心がふわふわして、夢みたいに心地よかった。
 
「……ひろにいっ……」 
「可愛い……もっと、こっちにおいで」
 
 背中を引っ張り上げられて、ぼく達はもっと近づいた。――ぼくの顎を、宏兄の親指が軽く抑える。促されるまま開いた唇の中……いつもより深くに、宏兄が触れた。吐息が交じり合う。
 
「……んっ、ふ……」
 
 さっき、映画で聞いたより静かな、甘い水音がした。
 はじめての、言葉をさらわれるような、甘い深いキス。「だめ」も「こわい」も言えないけれど……ぎゅって抱きしめられて、背中を大きな手が撫でてくれる。そうされると、もう何も怖くなくなっちゃう。 
 
 ――宏兄……
 
 夢中でしがみついていると……いつのまにか、体勢が入れ替わっていた。深い森の匂いに包まれて、お腹の奥が甘く痺れる。

「綺麗だ……もっと見せてくれ」
「……ぁ」

 覆いかぶさって来た宏兄が、蜂蜜のような声でささやく。ふたたび、顎をそっと撫でられて……ぼくは、どきどきと胸が痛いほど鼓動してしまう。
 おずおずと唇を開いたぼくは……また、長い時間言葉を失くした。 

 
 ――結局、その映画がどんな物語やったか……ぼくは、わからへんままになりました。
 
「つ、次はちゃんと見る!」
「そうか、そうか。頑張ってな」
 
 ソファに転がったまま、意気込んでいたら、頭をよしよしされてしまった。
 
 
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