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第三章~お披露目~
百五十八話
「やったぁ、できた!」
自室で、完成したお手紙を前に、ぼくはバンザイした。
インクが乾くのを待って、封筒に入れて。……お義母さんへの誕生日プレゼントに添えて、これで準備完了や。
「はぁ~、良かった。あとは、本番を待つだけ……!」
ぼくは、ほっと胸を撫で下ろす。
テーブルの上の書き損じをまとめて、ホッチキスで留めた(また、メモ帳にするんよ)。
筆記具と纏めて、道具箱にしまうと……うんと伸びをした。
「うー……」
緊張で強張った肩を、引っ張る。カレンダーを確認し、意気込んだ。
――ついに、明日が……お義母さんの誕生会!
初めてお会いする、宏兄のご両親。
……ぼく、受け入れてもらえるやろか? 緊張でドキドキする胸に、「すうはあ」と新鮮な空気を取り込んだ。
「うぅ……サボちゃんっ」
部屋の隅で、ちょっこりと咲いているサボちゃんに、話しかける。真昼の光が、大きな窓から降り注いで、トゲトゲの輪郭が光っていた。
「どうしよう……ううん、慌てても仕方ないねんけどっ。大丈夫かなあ」
おろおろと話しかけると、やわらかい棘がきらりと光る。「なあに?」とでも言いたげな、まん丸いフォルムに目尻が下がった。
そっ、と棘に触れる。
「……今度は……嫌われませんように」
宏兄の側にいたいから。宏兄の大切な人に、嫌われたくない……。
陽平のお母さんの冷たい眼差しが浮かぶ。竦みそうになるけど……ぶんぶんと頭を振った。
「えーいっ! ぐだぐだ考えるの、禁止っ」
明日は、お義母さんのお誕生日なんやから。お祝いする気持ちが、なにより大事やもん。
――そう! おめでとうの気持ちを伝えにいく! 辛気くさい顔、してちゃダメ……!
ぎゅ、と拳を握る。
「よしっ、気分転換でもしようっ」
お仕事中の宏兄には、申し訳ないけども。
ぼくは本棚に近づいて、一冊抜き出した。
桜庭先生の、さぼてん堂シリーズの、1巻目。本は殆ど全部、陽平の家に置き去りにしちゃったけど、これだけは持ち歩いてたん。
「えへへ……読むの、久しぶり~」
久しぶりの愛読書に、頬がゆるむ。
桜庭先生の小説は、なんでも好きなんやけどね。
デビュー作の、さぼてん堂はやっぱり格別やなあって、思う。
――桜庭先生の……宏兄のデビュー作。努力と夢の結晶やもんね。
そっ、と表紙を撫でた。――もう覚えているくらい、読んだ物語やけれど。大好きな小説って、何回読んでも凄くいいよね。
にこにこしながら、ページを繰り始める。暫く読み進めていると……
――『……春日、ちょっと早い』
突然――笑い混じりの声が、甦ってきた。
「!」
ぼくは、はっと息を飲む。
――……陽平……
ぼくの手元を覗き込む、甘えるような紅茶色の瞳。ページを押さえた、骨ばった大きな手……
かつて……一緒に、この本を読んだときの思い出が、どっと溢れてきて。
「……っ」
ぼくは、とても読んでいられなくなり……本から目を上げた。拳を振り上げたい気持ちを堪えて、大切な本を閉じる。
ぎゅ、と胸に抱えたまま……ううと唸った。
「なんで……この本まで……っ」
大好きな本なのに、読むのが辛くなっちゃうなんて。
……陽平をひきずってるから?
「ちがうもん……!」
陽平のことは、忘れるって決めた。ぼくは、宏兄と夫婦になって、生きていくんやから……!
涙が溢れないように、きつく目を閉じる。
――どうして、いまさら思い出すん? こんなの、宏兄に申し訳ない。どうしたらいいの……
宏兄と夫婦になれて、幸せなのに。陽平との日々を思い出すと、ズキズキする。
自分が後ろ向きに思えて、嫌やった。
自室で、完成したお手紙を前に、ぼくはバンザイした。
インクが乾くのを待って、封筒に入れて。……お義母さんへの誕生日プレゼントに添えて、これで準備完了や。
「はぁ~、良かった。あとは、本番を待つだけ……!」
ぼくは、ほっと胸を撫で下ろす。
テーブルの上の書き損じをまとめて、ホッチキスで留めた(また、メモ帳にするんよ)。
筆記具と纏めて、道具箱にしまうと……うんと伸びをした。
「うー……」
緊張で強張った肩を、引っ張る。カレンダーを確認し、意気込んだ。
――ついに、明日が……お義母さんの誕生会!
初めてお会いする、宏兄のご両親。
……ぼく、受け入れてもらえるやろか? 緊張でドキドキする胸に、「すうはあ」と新鮮な空気を取り込んだ。
「うぅ……サボちゃんっ」
部屋の隅で、ちょっこりと咲いているサボちゃんに、話しかける。真昼の光が、大きな窓から降り注いで、トゲトゲの輪郭が光っていた。
「どうしよう……ううん、慌てても仕方ないねんけどっ。大丈夫かなあ」
おろおろと話しかけると、やわらかい棘がきらりと光る。「なあに?」とでも言いたげな、まん丸いフォルムに目尻が下がった。
そっ、と棘に触れる。
「……今度は……嫌われませんように」
宏兄の側にいたいから。宏兄の大切な人に、嫌われたくない……。
陽平のお母さんの冷たい眼差しが浮かぶ。竦みそうになるけど……ぶんぶんと頭を振った。
「えーいっ! ぐだぐだ考えるの、禁止っ」
明日は、お義母さんのお誕生日なんやから。お祝いする気持ちが、なにより大事やもん。
――そう! おめでとうの気持ちを伝えにいく! 辛気くさい顔、してちゃダメ……!
ぎゅ、と拳を握る。
「よしっ、気分転換でもしようっ」
お仕事中の宏兄には、申し訳ないけども。
ぼくは本棚に近づいて、一冊抜き出した。
桜庭先生の、さぼてん堂シリーズの、1巻目。本は殆ど全部、陽平の家に置き去りにしちゃったけど、これだけは持ち歩いてたん。
「えへへ……読むの、久しぶり~」
久しぶりの愛読書に、頬がゆるむ。
桜庭先生の小説は、なんでも好きなんやけどね。
デビュー作の、さぼてん堂はやっぱり格別やなあって、思う。
――桜庭先生の……宏兄のデビュー作。努力と夢の結晶やもんね。
そっ、と表紙を撫でた。――もう覚えているくらい、読んだ物語やけれど。大好きな小説って、何回読んでも凄くいいよね。
にこにこしながら、ページを繰り始める。暫く読み進めていると……
――『……春日、ちょっと早い』
突然――笑い混じりの声が、甦ってきた。
「!」
ぼくは、はっと息を飲む。
――……陽平……
ぼくの手元を覗き込む、甘えるような紅茶色の瞳。ページを押さえた、骨ばった大きな手……
かつて……一緒に、この本を読んだときの思い出が、どっと溢れてきて。
「……っ」
ぼくは、とても読んでいられなくなり……本から目を上げた。拳を振り上げたい気持ちを堪えて、大切な本を閉じる。
ぎゅ、と胸に抱えたまま……ううと唸った。
「なんで……この本まで……っ」
大好きな本なのに、読むのが辛くなっちゃうなんて。
……陽平をひきずってるから?
「ちがうもん……!」
陽平のことは、忘れるって決めた。ぼくは、宏兄と夫婦になって、生きていくんやから……!
涙が溢れないように、きつく目を閉じる。
――どうして、いまさら思い出すん? こんなの、宏兄に申し訳ない。どうしたらいいの……
宏兄と夫婦になれて、幸せなのに。陽平との日々を思い出すと、ズキズキする。
自分が後ろ向きに思えて、嫌やった。
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