163 / 505
第三章~お披露目~
百六十二話
「……成、大丈夫か?」
ぼくをソファに座らせて、宏兄が労わるように肩を撫でてくれた。
叔父様とお話してる最中に、様子がおかしくなったぼくを気遣って、連れ出してくれたん。
「うん、もう平気……ごめんなさい、宏兄」
「謝らなくていい。俺の方こそ、気づけなくてごめんな」
俯くぼくの頬を、大きな手が包んでくれた。優しい眼差しに、涙が出そうになる。
「……ずっと挨拶ばっかで疲れたろう? 綾人くんと、ゆっくりごはん食べておいで」
宏兄がほほ笑んで、提案してくれる。
ぼくは、慌てて頭を振った。
「う、ううん、もう大丈夫。ぼくも、ご挨拶に……」
「学生時代の腐れ縁どもと話すだけだから。これから、いくらでも顔を会わす機会はあるさ」
ぽん、と大きな手が頭に乗る。宏兄は、綾人にぼくを託し、また賑わいの中に戻って行った。
――行っちゃった……
ずーん、と落ち込んでしまう。
……ぼくのアホ。ばか、おたんこなすっ。脳内の自分に、ぽかぽかとパンチを食らわせる。
ちゃんとしようと思ってたのに。――陽平がいたことに、あんなに動揺してしまうなんて。野江家のパーティに、あいつが招かれてることくらい、わかるはずやったのに。
「……っ」
陽平……蓑崎さんと、城山のお義母さんと……三人でいた。仲良さそうやった。
よせばいいのに、寄り添う姿を思い出す。
胸がきりきりと苦しくなるって、わかるのに……どれだけ、懲りないんやろう。
蓑崎さんは……本格的に、婚約破棄をしたのかもしれない、とか。あの人は、お義母さんとも仲良しやから、きっとすべてが上手くいくんやろうな、とか。
負けの思考に入ってしまって、嫌な考えが止まらない。
「……ううっ」
ぱちん、と頬を叩く。
でないと、泣きそうやった。
――結局は、ぼくが邪魔ものやったんや。陽平にとって、ぼくとのことは……やっぱりボランティアでしかなかったんや。
胸がグルグルして、気持ち悪い。
陽平のことなんか、もう忘れてやったと思ったのに。――こんなことで、いちいち堪えたくない。
ぼくはもう、宏兄の奥さんで。彼とずっと、一緒に生きていきたいんやから……。
「……成己、大丈夫か。なんかスッとするもん、持って来てやろうか?」
綾人が、凛々しい眉を八の字にして、優しい声をかけてくれた。お兄さんと一緒に回っていたのに、心配してわざわざ来てくれたんよ。
ぼくは、急激にわれに返って――申し訳なくなる。
「ありがとう、大丈夫だよ。ごめんね、綾人……」
「何言ってんだよー。緊張してっと、気持ち悪くなることってあるよ。全然気にすんな」
「……綾人~」
優しさが胸にしみて、目が潤む。
――ありがとう……。
両手を伸ばすと、ガシッと握りかえされた。心強い感触に、胸に火が点る気がする。
ぼくは、きゅっとお腹に力を入れて、立ち上がった。
「よし。元気出てきたっ」
「無理すんなよ? ゆっくりしとけば……」
「ううん、もう平気。それに……安心したら、おなか減って来ちゃって」
お腹を擦って言うと、綾人もニカッと笑ってくれた。
「よし、じゃあ、メシ食うか」
「うんっ!」
「成己~、エビのやつ食った? めっちゃ美味いんだけど!」
「ねっ、美味しいね! こっちの、冷たいスープも美味しいよ」
お食事用のテーブルで、ぼく達はうっとりと舌鼓を打っていた。
――すごい。ごはん、本当に何を食べても美味しい……!
ビュッフェ形式でね、一流ホテルのシェフがこれでもかー! と粋をこらしたお料理がずらりと並んでて。しかも、どんどん補充されて、いつでも出来立てなん。
ぼく達以外にも、お食事を楽しんでる人がいっぱいやった。
「あっ、この白見魚のパイ。宏兄、絶対好き」
あとで、美味しかったよって話したいな。そんなことを考えて、頬張っていたせいで、にやついていたみたい。綾人にからかわれて、頬が熱くなった。
「もう、綾人ってば!」
「いやいや。仲が良くて何より」
談笑していると、視線を感じた。振り返ると、近くのテーブルの人達に見られてて。ひそひそと何か話されてるみたいで、不思議に思う。
――ぼく、なにかおかしかったかな……パイ、割れちゃったから?
ぼくは、慌てて姿勢を正した。
「成己、あっちにデザート系があるみたいだぞ」
「行ってみよっか!」
お皿が空になって、ぼくと綾人は、もう一度列に並び直すことにした。
お料理を見てるだけでも目が楽しい。見たことのないお料理について、綾人と談笑していると……「ねえ」と声をかけられた。
「はい?」
振り返ると、さっき近くのテーブルで食べていた人たちやった。二人組の男の人で、同年代か少し上くらいに見える。
「ずっとお二人ですよね」
「僕らも二人で。良かったら、同じテーブルで話しませんか?」
にこやかに話しかけられて、ぼくと綾人は顔を見合わせる。
――この人達、穏やかに見えるけど……なんか目の奥が嫌な感じがする。
綾人も、同じ気持ちみたい。でも、お義母さんのパーティのお客さんに、失礼するわけにもいかへんし……そう思ってるんがわかる。
「なにかたべます? 僕がとってあげますよ」
悩んでるうちに、ぴったりと横につかれてしまって、ぎょっとする。行きがけの駄賃とばかりに、腰に手を添えられ、慌てて身を躱した。
「ひえっ」
「あれ、嫌がるふり? それとも、そういう趣向なのかな」
猫なで声で、わけのわからないことを言われて、鳥肌が立つ。
恐る恐る隣を見れば、綾人の眉間の皺が深くなってる。
どうしようっ。冷や汗をかいたとき――
「あの。――お困りなら、何かお手伝いしましょうか?」
低い、落ち着いた声がその場に割って入った。
「さ、椹木さん……!」
その人は、上品なスーツを着た、長身の男性で――一目でアルファとわかる。穏やかな物腰なのに、鷹のような目に見下ろされ、若者二人は震えあがっていた。
ぼくをソファに座らせて、宏兄が労わるように肩を撫でてくれた。
叔父様とお話してる最中に、様子がおかしくなったぼくを気遣って、連れ出してくれたん。
「うん、もう平気……ごめんなさい、宏兄」
「謝らなくていい。俺の方こそ、気づけなくてごめんな」
俯くぼくの頬を、大きな手が包んでくれた。優しい眼差しに、涙が出そうになる。
「……ずっと挨拶ばっかで疲れたろう? 綾人くんと、ゆっくりごはん食べておいで」
宏兄がほほ笑んで、提案してくれる。
ぼくは、慌てて頭を振った。
「う、ううん、もう大丈夫。ぼくも、ご挨拶に……」
「学生時代の腐れ縁どもと話すだけだから。これから、いくらでも顔を会わす機会はあるさ」
ぽん、と大きな手が頭に乗る。宏兄は、綾人にぼくを託し、また賑わいの中に戻って行った。
――行っちゃった……
ずーん、と落ち込んでしまう。
……ぼくのアホ。ばか、おたんこなすっ。脳内の自分に、ぽかぽかとパンチを食らわせる。
ちゃんとしようと思ってたのに。――陽平がいたことに、あんなに動揺してしまうなんて。野江家のパーティに、あいつが招かれてることくらい、わかるはずやったのに。
「……っ」
陽平……蓑崎さんと、城山のお義母さんと……三人でいた。仲良さそうやった。
よせばいいのに、寄り添う姿を思い出す。
胸がきりきりと苦しくなるって、わかるのに……どれだけ、懲りないんやろう。
蓑崎さんは……本格的に、婚約破棄をしたのかもしれない、とか。あの人は、お義母さんとも仲良しやから、きっとすべてが上手くいくんやろうな、とか。
負けの思考に入ってしまって、嫌な考えが止まらない。
「……ううっ」
ぱちん、と頬を叩く。
でないと、泣きそうやった。
――結局は、ぼくが邪魔ものやったんや。陽平にとって、ぼくとのことは……やっぱりボランティアでしかなかったんや。
胸がグルグルして、気持ち悪い。
陽平のことなんか、もう忘れてやったと思ったのに。――こんなことで、いちいち堪えたくない。
ぼくはもう、宏兄の奥さんで。彼とずっと、一緒に生きていきたいんやから……。
「……成己、大丈夫か。なんかスッとするもん、持って来てやろうか?」
綾人が、凛々しい眉を八の字にして、優しい声をかけてくれた。お兄さんと一緒に回っていたのに、心配してわざわざ来てくれたんよ。
ぼくは、急激にわれに返って――申し訳なくなる。
「ありがとう、大丈夫だよ。ごめんね、綾人……」
「何言ってんだよー。緊張してっと、気持ち悪くなることってあるよ。全然気にすんな」
「……綾人~」
優しさが胸にしみて、目が潤む。
――ありがとう……。
両手を伸ばすと、ガシッと握りかえされた。心強い感触に、胸に火が点る気がする。
ぼくは、きゅっとお腹に力を入れて、立ち上がった。
「よし。元気出てきたっ」
「無理すんなよ? ゆっくりしとけば……」
「ううん、もう平気。それに……安心したら、おなか減って来ちゃって」
お腹を擦って言うと、綾人もニカッと笑ってくれた。
「よし、じゃあ、メシ食うか」
「うんっ!」
「成己~、エビのやつ食った? めっちゃ美味いんだけど!」
「ねっ、美味しいね! こっちの、冷たいスープも美味しいよ」
お食事用のテーブルで、ぼく達はうっとりと舌鼓を打っていた。
――すごい。ごはん、本当に何を食べても美味しい……!
ビュッフェ形式でね、一流ホテルのシェフがこれでもかー! と粋をこらしたお料理がずらりと並んでて。しかも、どんどん補充されて、いつでも出来立てなん。
ぼく達以外にも、お食事を楽しんでる人がいっぱいやった。
「あっ、この白見魚のパイ。宏兄、絶対好き」
あとで、美味しかったよって話したいな。そんなことを考えて、頬張っていたせいで、にやついていたみたい。綾人にからかわれて、頬が熱くなった。
「もう、綾人ってば!」
「いやいや。仲が良くて何より」
談笑していると、視線を感じた。振り返ると、近くのテーブルの人達に見られてて。ひそひそと何か話されてるみたいで、不思議に思う。
――ぼく、なにかおかしかったかな……パイ、割れちゃったから?
ぼくは、慌てて姿勢を正した。
「成己、あっちにデザート系があるみたいだぞ」
「行ってみよっか!」
お皿が空になって、ぼくと綾人は、もう一度列に並び直すことにした。
お料理を見てるだけでも目が楽しい。見たことのないお料理について、綾人と談笑していると……「ねえ」と声をかけられた。
「はい?」
振り返ると、さっき近くのテーブルで食べていた人たちやった。二人組の男の人で、同年代か少し上くらいに見える。
「ずっとお二人ですよね」
「僕らも二人で。良かったら、同じテーブルで話しませんか?」
にこやかに話しかけられて、ぼくと綾人は顔を見合わせる。
――この人達、穏やかに見えるけど……なんか目の奥が嫌な感じがする。
綾人も、同じ気持ちみたい。でも、お義母さんのパーティのお客さんに、失礼するわけにもいかへんし……そう思ってるんがわかる。
「なにかたべます? 僕がとってあげますよ」
悩んでるうちに、ぴったりと横につかれてしまって、ぎょっとする。行きがけの駄賃とばかりに、腰に手を添えられ、慌てて身を躱した。
「ひえっ」
「あれ、嫌がるふり? それとも、そういう趣向なのかな」
猫なで声で、わけのわからないことを言われて、鳥肌が立つ。
恐る恐る隣を見れば、綾人の眉間の皺が深くなってる。
どうしようっ。冷や汗をかいたとき――
「あの。――お困りなら、何かお手伝いしましょうか?」
低い、落ち着いた声がその場に割って入った。
「さ、椹木さん……!」
その人は、上品なスーツを着た、長身の男性で――一目でアルファとわかる。穏やかな物腰なのに、鷹のような目に見下ろされ、若者二人は震えあがっていた。
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。