いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第三章~お披露目~

百八十話

「成……!」
 
 かき抱くように、背中に腕がまわって、キスされた。唇に、あたたかな体温が重なって、胸が切なく震える。
 
 ――宏兄……!
 
 ずっと、こうしてほしかった。
 宏兄の側にいて、話しながらずっと……。欲しいものが得られた喜びに、胸がはちきれそう。
 ぼくは必死に大きな背中に縋りつく。背伸びして、薄い唇に自分のそれをくっつけた。
 
「ひろにいっ……」
「……可愛い。もっとして、成」
 
 低く甘い声に、耳の奥から溶かされた。 
 宏兄は、ぼくの背をぎゅっと抱いて……好きにさせてくれる。不器用なお話に、優しい相槌を打つように、ぼくを甘やかしてくれた。
 ふわふわといい気分になって、立っていられなくなる。
 
「あ……」
「成。好きだよ」
 
 足がふにゃふにゃして、宏兄にしがみ付いていると……ふわりと抱き上げられた。
 驚いて、目をパチパチさせるぼくに、宏兄は優しく囁く。
 
「……行こうか」
「……!」
 
 どこに、なんて聞かなくてもよかった。
 宏兄の首にしがみ付き、頷くと――優しく抱かれたまま、歩み出される。
 燃えそうな頬を、ぼくは広い肩に押し付けた。
 
 
 
「んっ……」
 
 ベッドに下ろされた途端、唇が重なった。――ほんの少し、離れていたことも惜しむように。
 ぼくも、覆いかぶさる大きな体にしっかりとしがみついて……甘い感触に夢中になってしまう。
 
 ――きもちいい……
 
 宏兄の体から、シャワーのように森林の香りが浴びせられる。
 息が詰まるほどの、芳しい香り。――なんだかひどく切羽詰まって、泣きたくなってしまう。つま先が、布団の上をもじもじとさ迷った。
 
「成……」
 
 熱い声で呼ばれて、「あ」と口を開くと、舌が差し入れられた。
 どきどきしながら、待っていると――宏兄が、ちょんとぼくに触れる。その瞬間……甘いお菓子を食べたように、口の中が潤ってしまう。
 
 ――わっ、恥ずかしい……!
 
 かあ、と頬が熱った。広い肩にしがみ付けば、やわらかな動きが始まった。
 くちゅ、とくっついた口の狭間で、水音がする。
 宏兄の舌は、ぼくの口の中を味わうように探った。――ぼくが、甘い飴玉を隠し持ってるみたいに、丹念に。

――……あ……頭が、ぽうっとする……

 ぼくは、宏兄に口を明け渡す、甘い感覚にうっとりとする。「ひろにい」って呼ぶけれど、甘えた声しか出ない。
 言葉も、弾む吐息も……ぜんぶ宏兄に食べられちゃいそう。
 
「……成、かわいい」
 
 一瞬、唇が離れたときに、濡れた声が囁いた。――ぞく、と背筋が痺れて、からだに固く力がこもる。
 おなかの奥が、きゅんと甘く痛んだ。
 
「ひろにいっ」
 
 なんでか、切なくてたまらなくて、宏兄に体を寄せる。
 
 ――もっと、キスしてほしい。
 
 焦がれるような気持ちで、キスを求めた。
 宏兄に唇をくっつけると、背中を抱きしめる腕に、ぎゅっと力がこもる。……その熱さにも急き立てられて、ぼくは宏兄の唇に、はむりと噛みついてしまった。
 
「……っ」
 
 宏兄が、くすぐったそうに息を詰める。その声が色っぽくて、ぼくは顔が真っ赤になるのを感じた。
 もっと聞きたくて、もう一度仕掛ける。――かぷりと、薄いけれど、弾力のある唇を挟んだ。
 
「こら……成っ」
 
 すると――いたずらっ子だな、とでも言うように、宏兄がぼくの肩をぽんと撫でる。
 仄明るい寝室では、その目元が赤く染まっているのがわかっちゃう。
 
 ――宏兄、かわいいっ……
 
 ぎゅっと首に抱きつく。後頭部を優しく撫でられて、笑いが漏れた。
 子どもの頃――後ろから、おどかしたり。急に飛びついたり。
 構ってほしくていたずらをすると、宏兄はいつもこうして許してくれた。
 そんなふうにされると、ますます調子に乗っちゃうのに。ぼくは、にっこりして、宏兄の頬を包んだ。

「えへへ。宏兄……」
「おいおい……」

 はむはむと甘えるように、唇にじゃれていると――
 
「あっ」
 
 ちく、と唇になにか触れた。驚いて、声を上げると、宏兄が慌てたように顔を離す。
 
「悪い、成。痛かったか?」
「う、ううん。へいき。驚いただけで……」
 
 きょとんとしていると、宏兄がほっと息を漏らす。その唇の狭間を見て――ぼくは「ちくり」の正体を知った。
 宏兄の上の唇からは、長く鋭い牙が覗き、白く輝いていた。

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