いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第三章~お披露目~

百八十二話

 しゅるり。
 心臓が壊れそうにドキドキしていても、衣擦れの音はよく聞こえた。宏兄の手元で、ぼくの腰紐がどんどん長くなっていくのを、「ひゃああ」と叫びたい気持ちで見守る。
 
 ――怖くないのと、恥ずかしいのは、また別……!
 
 ぎゅっと肩にしがみつくと、頬にキスされる。
 
「……恥ずかしい?」
「だ、だって……」
「恥ずかしそうなのも、そそるけどな」
「もうっ……宏兄っ」
 
 ぽか、と肩を叩くと、宏兄は笑う。
 ふいに、おなかに大きな手が触れて、驚く。いつの間にか紐が解かれて、ローブが大きくはだけていた。
 
「あ……!」
「だめだよ」
 
 とっさに、前をかき合わせようとした手を、取られる。驚きの声は、深いキスで封じられちゃった。それから――するするって衣擦れの音と、背なかをタオル地が滑っていく感触。
 逞しい胸に抱き寄せられて、袖を抜かれた。
 
 ――あ……脱がされちゃってる……
 
 宏兄のキスに溺れながら、泣きたいほどの切なさに襲われる。
 ……自分で脱ぐのと、違う。
 大切な人に、衣服って言う外殻を、全部脱がされて……裸の自分を望まれるってこと。こんなに、恥ずかしくて……焦がれるような気持ちになることやったん?
 
「宏兄……」
「……ああ」
 
 低く甘い、宏兄のため息に、ぞくんと背筋が震える。
 シーツの上に、横たえられて――一糸まとわない肌を、宏兄の熱い眼差しが撫でていく。くすぐったいほどの視線に、身をくねらせると……そっと肩を掴まれた。
 
「……もっとよく見せてくれ」
「……!」 
「すごいな……華奢で、どこも真っ白で……白磁みたいだ」
「……えっ! そ、そんな……」
 
 甘く囁かれて……顔がこれ以上ないほど、熱くなる。両手で顔を覆うと、もごもごと呟く。
 
「う、嬉しいけどっ……それほどのものでは……」
「なんで? こんなに魅力的なのに」
「そ、そんなこと……子どもみたいやしっ……?」
 
 両頬を包まれて、キスされる。潜り込んできた舌が、やわらかく動いて、自信のない言葉をさらってしまう。
 
「……子供なら、俺も苦労しない」
「……っ」
「お前は、綺麗だ」
 
 真摯な囁きに、きゅんと胸が高鳴った。
 
 ――宏兄……!
 
 蜂蜜のように甘い声と――浅黒い肌から香る、芳しい木々の匂い。宏兄の全てが、ぼくの心を温めてくれる。
 夢中で、背中に抱きついていると……大きな手が、ぼくの輪郭をなぞる。しっとりとした熱い手のひらに、肌を撫でられて……涙が滲んだ。
 
「あ……」
「お前の肌……なめらかで、すごく気持ちいい」
「……っ、ほんと?」
「ああ。もっとくっついて」
 
 体を起こされ、お膝の上でぎゅっ、と抱きしめられる。
 大きな手が、背中を何度も撫でてくれた。いつも、「大丈夫だよ」って伝えてくれるときみたいに。
 
 ――気持ちいい。ぽかぽかして……
 
 ぼくは宏兄にくっついて、ほうと息を吐く。
 でも――少しだけ、いつもと違う。安心するだけやなくて……お腹の奥がじんじんと、甘く潤んでいく気がする。
 なんだか息が苦しくて……急き立てられるように、宏兄に抱きついた。
 
「……宏兄っ。宏兄……」
 
 ぎゅう、と広い背中を二本の腕で、締め付ける。もどかしくて……そうすれば答えが絞り出せるんやないかってくらい。
 
「成、いい子だ……」
 
 がむしゃらなハグに、宏兄はくすりと笑った。やけに嬉しそうな声音に、びっくりしていると――頬に、からかうようにキスされる。
 ちゅ、ちゅって、小鳥が啄むようなキス。唇の端や、顎にも……数えきれないほど。
 
「ひゃっ……くすぐったいよぅ」
「ほらっ、逃げるな。可愛いから、キスさせろ」
「やあっ」
 
 つい笑った唇を、キスでふさがれる。……抱きしめられて、するの好き。うっとりと目を閉じて、受け入れていると……気がつけば、またベッドに背中がついていた。





 天井を背にした宏兄は、燃えるように熱い目をしている。――しゅる、と腰ひもを解いたと思うと、ローブが大きくはだけた。
 
「あっ……!」
 
 均整のとれた、逞しい体が露わになる。浅黒いなめらかな肌に、汗が滲んで……はっとするほど、綺麗。
 宏兄は、惜しげもなく脱いでしまうと、ぼくの上に覆いかぶさった。
 
「可愛いなあ、お前。こんなに真っ赤になっちまって」 
「だ、だって……」
 
 目のやり場に、困るんやもんっ。
 おろおろしているのが面白いのか、宏兄は声を上げて笑った。むっとして、睨むと……宏兄は、ぼくの指先に口づけた。
 
「!」
「ごめんな。あんまり嬉しくてさ」
 
 上目にぼくを見つめて、宏兄ははにかんで笑う。そんな王子様みたいな仕草も様になるなんて、ちょっと悔しい。

――ぼくだって……!

 ぼくは両腕を伸ばして、ぎゅっと首にかじりついた。
 
「成?」
「ん……」

 薄い唇に、自分の唇を押し付けた。合わせ目をぺろ、と舐めると……思い切って、侵入する。
 宏兄は、無作法なぼくを招き入れて、好きにさせてくれた。
 それに勇気を得て、宏兄のなかを冒険する。
 
 ――えっと。宏兄は、どんな風に……
 
 宏兄のやり方を思い出して、懸命に舌を動かす。気持ちよくなって欲しくて、頑張っていると、大きな手に頭を撫でられた。
 
「っ、宏兄……きもちいい?」 
「いいよ……もっとしてくれ」
「うんっ」
 
 褒められて、嬉しくなる。
 整った歯並びを舌先で舐めると、宏兄が息を漏らした。
 ――きもちいいのかな? 調子に乗って、鋭い牙に狙いを定める。飴を舐めるように、丁寧に舌を絡めると……ぐい、と頭が引き寄せられた。
 
「んむ……?!」
 
 宏兄に、思い切り反撃されてしまう。舌を拘束し、優しく噛まれて、唇がとろとろになる。少し強くされると、言葉にならない泣き声が出てしまった。

――きもちいい。知らへんかった、こんな……

 宏兄の、強引で激しいキス。優しいのも、激しいのも……どっちも好き。
 
「あ……うう……」
 
 知らないうちに……もじもじと、内ももを擦り合わせていた。
 すると、しっとりとして熱い手のひらが……ぼくのお尻を包む。
 別の手で、脇腹を撫でられて、吐息が震えた。――そんなとこ、くすぐったいはずなのに。
 
「ああっ……!」
「成……かわいい」
 
 指先で撫でられるたび、吐息を弾ませてしまう。
 もう一方の大きな手に、掴まれたままのお尻が……落ち着かない。時折、優しく指が食い込んできて、たまらない気持ちになる。

「やあ……」

 背中を撫でられて、びくんと体が震える。さっきまでと、違う。

――きもちいい? どうして……?

 体を、撫でられているだけなのに。
 腰の骨の奥から、ぱちぱちって炙られるように甘痒くなってきて……
 
「や、あ……ひろにいっ。だめっ」
「……どうして?」
「へん……おなか、苦しいっ。熱い……」
 
 とぎれとぎれに、体の異変を告げると……宏兄は、頬にキスしてくれる。

「それで良いんだ。そのまま、受け入れて……」
「……っ……良いの?」

 ぐす、と鼻を鳴らす。
 こんなに恥ずかしいのに……これでいいん?

「ああ。成の体、熱くなって……すごくいい匂いがする」
「……ほんと?」
「俺を欲しがってる。……嬉しいよ」

 宏兄が、ぼくの首筋に鼻を埋める。
 深い興奮を帯びた声に、とくんと鼓動が跳ねた。涙が溢れて、熱い頬を伝う。

「宏兄……」

 ぼくの体に、宏兄が喜んでくれてる。――ぼくでも、宏兄の期待に……応えることが出来るの?
 嬉しくて、涙が止まらない。しゃくりあげると、抱き寄せられた。

「成……好きだよ」
「……っ、うん。ぼくも、大好き」

 項にキスされて、心が震える。ぼくは、宏兄を振り返り、ぎゅっと抱きついた。

「宏兄、もっと教えて……宏兄のこと……」
「……ああ。俺も、お前を知りたい」

 強く、抱き返される。
 むせるほどの木々の香りに包まれて……ぼくは、幸福な吐息を漏らした。

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