いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第四章~新たな門出~

二百九話【SIDE:陽平】

 成己がいない。
 その事実は、俺を酷く狼狽させた。部屋中のドアを叩き開け、成己を呼んだ。しかし、どこにも成己の姿はない。
 
『成己! どこだ!』
 
 頭を掻きむしった。スマホを取り出して、あいつの番号を呼び出した。
 呼び出し音が続くのに苛つき、衝動的に切っては何度もかけ直す。
 
 ――どこへ消えた? あいつに行くところなんて、無いはずなのに……!
 
 もしかして、俺の言葉に悲観して……?
 最悪の想像が浮かびかけた、その時だった。ぷつり、と呼び出し音が途切れ、通話が繋がった。
 
『成己! どこに――』
『城山くん』
 
 しかし――呼びかけに答えたのは、成己の声ではなかった。
 低く、自信に満ちた男の声音。野江――そう気づいたのと、相手が話しかけてくるのは同時だった。
 
『やあ。ずい分、ごゆっくりだったね』
『なんで、あんたがッ……どう言うことだ! 成己はどこだ?!』
 
 なんで、成己の電話に野江が出るんだ。わけが解らず、完全に頭に血が上ってしまう。電話口に怒鳴りつけると、野江は静かな声で言った。
 
『成は、俺と一緒に居るよ』
『……は?』
 
 耳を疑った。
 
――……成己は、野江のもとに行ったのか? 俺の家を出て。
 
 寄り添う野江と成己の姿が浮かび、不快に脳がグラリと揺れる。
 
『ふざけんな……ッ! 成己を出せよ!』
『あの子は席を外してる。話したいなら、君が来いよ』
 
 野江の声は、落ち着き払っていた。俺をいなす響きさえあって、歯ぎしりする。
 
『てめえ……人のものに手を出したのか』
『文句があるなら。君は成のアルファとして、責任を果たすべきだな』
 
 ぴしゃりと遮られ、瞠目する。
 
『俺が成を守ったから、何だって言うんだ。三日も経って、やっと連絡してきた君が』
『……!』
 
 カッと頭が煮えて、言葉を失う。あと二三言言い残し、野江は通話を切った。――言い返すことも出来ないままで、やり場のない怒りを持て余す。
 
『成己の奴……俺を馬鹿にしやがって!』
 
 心底、許せないと思った。
 まさか、野江の所にいるなんて……心配していたのに、全てを無下にされた気がしたんだ。
「俺だけじゃない」のだと、成己が勝ち誇る様を幻視し、心が荒れ狂った。
 

 
 
 物思いに沈んでいると、不意にインターホンが鳴った。
 急いで出て見れば、晶が目を丸くして立っていた。
 
『よ。なんとなく……お前の事、心配になってさ』
『晶……』
 
 母さんに俺が帰ったと聞いて、様子を見に来たらしい。とりあえず家に上げると、洗濯物を片付けたり、残り物を捨てたりと、晶はまめまめしく世話を焼いてくれた。
 晶に気にされていることが、傷つけられた自尊心を温めてくれる。
 
『あー、美味そうなの発見』
『食いたいなら食えよ』
 
 成己に買って来たものだったが、最早どうでもいい。それより、晶へのお礼にしてしまえ――そう思って、二人でプリンを平らげてやった。晶はことさら明るく振舞っていて、いじらしく思えた。
 
『――ええっ。成己くん、野江さんと一緒に居たのか?! 三日も!』
『ああ。野江が電話に出て……間違いねえよ』
 
 野江と成己が共に居たことを話すと、晶は憤慨してくれた。
 
『信じらんねえ。腹いせにしても酷すぎる。陽平が浮気なんてする奴じゃないって、なんで解んねえんだろ……?』
『野江が良いんだろ。俺より、付き合い長いし……』
『そんなことない。お前は良い奴だろ。成己くんは、馬鹿だよ……』
 
 成己は愛されているから、俺の価値を解っていないんだって。早く説得しないと、彼は必ず後悔するって、俺の頭を抱いてくれた。
 晶に優しくされるほど、成己への悔しさでたまらなくなる。
 
 ――成己、なんでだよ! お前は、俺だけじゃないのか……!
 
 髪を梳かれ、芳醇な香りに包まれるうちに……乱暴な衝動がこみ上げてきた。
 もうどうにでもなれと、間近にある頭を引き寄せて、唇を奪う。――すぐに絡んできた舌からは、甘いプリンの味がし、余計に苦しかった。
 
 

 
 それからは、嵐のようだった。
 晶を寝室に連れ込んで、激しく求めあった。晶に欲望を突き立てるほどに、成己への憎悪が搔き立てられた。俺に許さなかったくせに、野江には抱かれたのだろうか、と。
 
 ――『あの、陽平っ。今夜どうする?』
 
 越してきた夜のことだ。成己はそう言って、ぎゅっと俺の手を握った。
 パジャマがわりのスエットを纏った体から、ほんのりと甘くフェロモンが香っていて。成己の、真っ赤に火照った項を見たら……急に、気恥ずかしくてたまらなくなった。
 まだ早いと思った。色々言って誤魔化して、背中を向けて布団に潜り込んだ。
 
 ――『……そっかぁ! たしかに、ゆっくりでええよね』
 
 成己は頷いて、俺の隣に寝そべると、すぐに寝息を立て始めた。正直、肩透かしを食った気がしたが……たしかに成己の体は幼い。だから、心も幼いに違いないと、納得したんだ。
 俺たちは、まだこのままでいい、って。
 
 
 それなのに――俺が手を出さなかったものを、野江に触れさせやがった。
 むしゃくしゃしながら白い体に挑みかかると、晶は嫌がらず、俺を受け止めてくれた。それどころか、両脚を俺に絡め、「もっと」と甘く喘いだ。
 
『陽平、好き……! こんなの、お前だけだからっ……』
『晶……!』
 
 必死に俺を求める晶に、心が癒される。
 成己に、思い知らせてやりたかった。――俺だって、お前だけじゃないんだと。
 
『晶。俺も、ずっと好きだった』
 
 成己なんかどうでもいい、と言い聞かせるよう……晶に愛を囁いたときだった。
 
 ――バタン!
 
 いきなりドアが開き、成己が部屋に飛び込んできたのは。
 
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