いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第四章~新たな門出~

二百二十七話【SIDE:晶】

「ああ、蓑崎さん。こんにちは」
 
 野江は、気さくそうに見える笑みを浮かべた。俺は愛想笑いをはりつける。

「野江さん。この前は、すみませんでした。途中で帰ってしまって」
「いえいえ、とんでもない。その後、お加減はいかがです?」
「もう、すっかり」
 
 どうでもいい話を振りつつ、あたりを観察する。……どうやら、成己くんの姿は無いらしいと知り、ほっとする。
 いま会ったら、喧嘩しか道はない。

「蓑崎さんは、貴彦さんとご一緒ですか」

 何の衒いもなく尋ねられ、目を見開く。――それから、ムッとした。俺がアルファの婚約者について回るような奴だと思ってるわけ?

「一人ですけど。何か問題でも?」

 野江の隣に並び、ぐっと顎を突き上げて言う。
 すると、野江は僅かに目を瞬いて、首を傾げた。

「いいえ。ないですよ」

 そう言って、近くの飲料品の棚からお茶を三本抜き出し、籠に入れた。俺は、肩すかしを食った気分で、一歩距離を詰める。

「野江さんも、コンビニなんて使うんですね。なんか意外」
「そうですか? 便利ですし、よく利用しますよ」

 野江は言いながら、りんごのドライフルーツとナッツの袋を取り、籠に足す。

「それ、美味しいですよね」

 つい口に出すと、切れ長の目がふと動いた。
 長い睫毛の下、グレーの瞳が問うようにこちらを見下ろしていて、少したじろぐ。

「あ……俺の好きなヤツなんです。どっちかっていうと、イチジクの方が美味しいと思うけど」
「そうなんですか」
「……なんで、他人事なんです?」
「俺は食べたことないので」
「ふうん……」

 答えながら、相手の反応を待っていたことに気づく。窺うような真似をしたのは、初めてだった。

――わけわかんないんだけど。

 面白くない。
 たぶん、この男の顔が良くないんだ。
 野江の一族は整った容姿をしてるけど、この男は特に図抜けてる。
 顔が良いと言うのは、中身に関係なく尊敬されやすい。だから、チャランポランの根無し草と噂が立っていても、馬鹿にされることがないのだろう。
 
「やっぱ、アルファって得だな……」
 
 思わず、ぼそりと呟いた。
 わがままに振舞っていても、周りが尊重してくれるアルファ。
 胸に羨望の火がちりつく。こんな風なら、父も俺を捨てはしなかっただろう――なんて、意味のない夢想をした。

「~♪」

 ふと気がつくと、野江は鼻歌を歌いながら、パン売り場を冷やかしていた。
 カチンときた。

――……自分のことばっかかよ?! 社会性ゼロじゃん。

 さっきから、とことんマイペースに振る舞っている野江を睨む。
 友人の婚約者と会って、その態度とかありえないんだけど。なんで俺ばっか気を使ってんだよ。
 やっぱ、成己くんの相手だけあるってことか。

――ムカつくな……ちょっと、からかってやる。

 負けず嫌いの血が騒ぐ。
 俺は不敵に笑うと、野江に近づいて、声をかけた。

「野江さんは、成己くんと一緒じゃないんですね?」
「ん? ええ」
「じゃあ、お一人だ」

 野江は、メロンパンとあんぱんで悩んでいるらしい。どっちでもいいだろ、と思いつつ顔には出さない。

「俺、これから待ち合わせなんですけど……少し、目眩がして。申し訳ないんですが、車で送って頂けませんか?」

 米神を押さえて、具合の悪いふりをする。実際、暑さには辟易していたから、真に迫っているはず。

――まあ、ウソだけど。なんで、お前なんかの車に乗らなきゃなんねーんだよ。

 内心で、ぺろりと舌を出す。
 これでノってきたら、「気が変わった~」って目の前で、思い切りドア閉めてやろう。

――どうせアルファは、断られるなんて思わないだろ。思い切り、鼻で笑ってやる。

 婚約者がいるくせに、他のオメガを車に乗せようとする奴が悪いし。
 傲慢なアルファの鼻っ柱、叩き折ってやる!

「それは大変だ。すぐに送りましょう」

 野江は目を丸くし、すぐに請け負った。俺ば笑いをこらえながら、「ありがとうございます」と頭を下げた。
 バーカ。


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