いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第四章~新たな門出~

二百三十二話【SIDE:陽平母】十二日0時09分ちょっぴり加筆しました

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「――何をしてるんです!」

 血相を変えた椹木が、私に殴りかかる晶ちゃんを取り押さえる。

――た、助かった……

 私は床にへたり込んだまま、不穏に鼓動する胸を押さえる。

「うあああ~!」

 安堵したのも束の間、晶ちゃんは泣き叫びながら、暴れている。

「あああぁ! 離せぇ!」
「晶君、落ち着きなさい!」

 上半身を羽交い締めにされているせいか、自由な両足でドタバタと床を踏み鳴らしている。駄々っ子のような振る舞いに、唖然とした。

――これは、私の知ってる晶ちゃんなの?

 晶ちゃんといえば、王子様みたいで。綺麗で、賢くて……優しくて。

『ママ、荷物貸して。持って上げる』
『ありがとう! 晶ちゃんは紳士的ね』
『当然だよ、ママは可愛いもの』
『晶ちゃんったら!』

 いつも、私を気遣ってくれたわ。それなのに……殴られてジンジンする頬を押さえて、涙ぐんだ。

「なんでなの?」

 わあわあ泣き喚いて、椹木に引きずられているこの様は、まるで晶ちゃんらしくない。
 私は、晶ちゃんに問いかけた。

「晶ちゃん、どうしたの? なんでそんなに怒るの?」

 私は晶ちゃんを助けるために、頑張ったのよ。縋るような想いで、晶ちゃんを見つめる。すると、晶ちゃんは涙声で叫ぶ。

「酷いよ、ママ……! 俺が何したって言うの? 俺、ママのこと好きだったのに!」
「……もちろん、私も好きよ! だから、晶ちゃんには陽平と幸せになってほしくて」

 必死に言い募ると、晶ちゃんは見開いた目から滂沱の涙を流した。

「余計な真似しないで! いつ、俺が……そんなこと頼んだの! なんで、こんな酷いことすんの!」
「えっ……?」

 酷いことって、どういうこと? 私は晶ちゃんの言うことがわからなかった。

「だって、晶ちゃんは陽平が好きでしょう? 好きな人と一緒になりたいでしょう?」

 立ち上がって、晶ちゃんに近づく。椹木が抱えているから、晶ちゃんは身動きが出来ないみたい。その代わり、自由になる目で、私を睨みつけ、叫んだ。

「好きじゃない! 陽平なんか好きじゃないよッ!」

 私は、笑った。安心したから。
 陽平を好きじゃないなんて、ありえないもの。晶ちゃんは、蓑崎のお父様の事を恐れて、こんなに騒いでいるんだって思ったの。
 安心させるように、微笑む。

「嘘言わないで。お父様のことは心配しなくていいのよ。椹木さんも、身を引いて下さるそうだし……」
「違う……違うぅ」
「認めて。晶ちゃんは、陽平が好き。だから、恋人しかしないことを許したんでしょ?」

 テーブルから写真を拾い上げ、眼前に揺らした。――それには、晶ちゃんと陽平が、ベッドで愛し合っている姿が、ハッキリと写ってる。

「……っ」

 椹木が、沈痛な面持ちで顔を逸らした。私はフフンと鼻で笑い、晶ちゃんに念を押す。

「ね? こんなこと、好きじゃなきゃしないわね?」
「うーっ!」

 晶ちゃんは、真っ赤になって照れているみたい。
 涙を拭いて上げようと、ハンカチを頬に当ててあげると、激しく頭を振って避けられる。

――もう、どうして? こんなに子供みたいに、頑是ない振る舞い……

 少しムッとして、「晶ちゃん」と強く呼ぶ。

「お願い、勇気を出して。私は、貴方を助けにきたの。貴方のことが大切だから――でもね、晶ちゃんも踏み出さなきゃ、幸せになれないわっ!」

 言い聞かせるよう、声を張る。
 晶ちゃんにわかって欲しかった。欲しいものは、自分で手に入れなければ、いけない。選ばれしオメガは、待っているだけじゃダメなんだって。
 すると、晶ちゃんは「うう」と呻いて、怒鳴った。

「ママなら、わかってくれると思ったのにっ……!」
「……晶ちゃん?」
「俺は、望んで陽平と寝たんじゃない! こんなこと、全然したくなかった!!」
「……え?」

 言われたことの意味が、わからなかった。

「な……に、言ってるの?」
「言葉通りだよっ……ひどいよ、ママ! 俺が抑制剤効かないの、わかってて! 望んでセックスしたみたいに! 俺は、陽平と、こんなことになって、死ぬほど辛かったのにぃっ!」

 晶ちゃんは、ボロボロと大粒の涙を零す。
 それは、まるで……レイプの被害者のように、悲痛な叫びだった。

――この子、何を言っているの?

 言葉を失っていると、椹木は動揺して叫んだ。

「ど、どういうことですか? これは、望んだことではなかったと?」
「……そうだよっ! 俺は、したくてしたんじゃない。弟みたいな陽平と、こんなことになって……恥ずかしくて、死にたくて……なのに、こんなっ……うわあああ!」
「晶君……!」

 晶ちゃんは、身をもぎ砕いて叫んだ。自らを「汚い、汚い」と嫌悪するように、悲しげに首を振る。
 椹木は、激しく動揺しながらも……晶ちゃんを抱き寄せる。

「俺なんて、もう死んじゃいたい……こんな汚い……!」
「落ち着いて下さい……どうか」
「うわああッ!」

 椹木の腕に縋り、顔を真っ赤にして晶ちゃんは泣きじゃくる。まるで、私が悪者であるかのように。
 陽平に……私の息子に抱かれた体を、汚いと叫んで……
 私は、こめかみでブツンとなにか切れたのを感じた。


「……城山さん。申し訳ありませんが、お話はまた日を改めて……」

 申し訳なさそうに、声を上げた椹木が、目を見開く。
 ふふ。私の顔、そんなに怖いかしら?
 私は、写真を床に叩きつけ、叫んだ。
 
「ざっけんじゃないわよッッッ!!!!」

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