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第四章~新たな門出~
二百三十三話【SIDE:陽平母】
天井がスッ飛びそうな怒声に、晶ちゃんと椹木がぎょっとした顔で振り返った。
その間抜け面に向かって、私は怒鳴る。
「寝たくなかったですって? 私の息子と寝て、死にたいですって……!? よくも、よくもそんな事が! 何度も、自分から家に来ていたじゃないの!」
嫌だったというなら、なんで私の息子と寝たの。
初めてのときだけじゃない。何度も、何度も抱き合っていたのを、私は知っているのよ。
――愛していないなら! 抱かれるのを望んでいないなら……まともなオメガは、アルファと二人きりになったりしないわ!
仕事だからと、不特定多数の雄の子を孕むよう教育されている、センターのオメガと私たちは違うわ。オメガである前に、人間としての教育を施されている私たち、良家のオメガは……唯一の人と契る権利を持っているのだから!
「そうでしょう? 晶ちゃん。私の息子を愛しているから、何度も寝たんでしょう!?」
晶ちゃんは、私の怒りに多少怯みながらも、反論する。
「だっ、て……俺、陽平のことは弟みたいに思ってたから! だから、成己くんのことで悩んでるの、放っておけなくて……あんなことされても、友達までやめたつもり、無かったからっ……」
「晶君……」
涙で声を詰まらせる晶ちゃんが、椹木に身を寄せる。
「……椹木さんっ……信じられないでしょ? どうせ、俺なんか、汚いって思ってるよね……」
「いいえ……そんなことは……」
椹木は動揺しながらも、震える肩を抱いて擦ってやっている。
あくまで、”陽平が”無理やり行為に及んだ体で話を勧められ、私はますます頭に血が上った。
「人聞きの悪い言い方はやめて! 晶ちゃん、一度だって嫌がってなんかなかった!」
「ひっ……」
「城山さん、落ち着いてください。まず、話しをゆっくり聞きましょう……」
怯えたように、引き攣った泣き声を上げる晶ちゃんを、椹木が庇う。――すでに絆されかけている様子に、この場の流れの悪さを悟った。
椹木は、オメガ愛護主義者。アルファとオメガが事件を起こせば、いつだってオメガを庇うタイプの男だ。
この状況では、泣いて怯える晶ちゃんの方を信じるだろう。私が、どれだけ二人は合意だと言っても……晶ちゃんがそれに頷かない限りは!
目の前が、真っ暗になる。
――晶ちゃん。あくまで、私や陽平ちゃんを悪者にするつもりなの?
「晶ちゃん、本当のこと言って。今なら、許すからっ……!」
晶ちゃんを、縋るように見つめる。
けれど、晶ちゃんは傷ついたように目を揺らし、顔を背けた。
「ママの事……大好きだった。でも……俺の事、わかってくれてるって思ってたよ……」
「!」
はらはらと、赤い頬に涙が伝う。見たことがないほど、弱弱しくて……男心をくすぐるような媚態だった。
そう――媚態、なの。私は、優しく美しい「王子様」の像が、がらがらと砕けていく音を聞いた。
「そういう、こと……」
はは、と乾いた笑いが漏れた。
私の小さな王子さまは、どこにもいない。
ここに居るのは、私の息子を誑かした挙句……他の男に媚態を見せる、淫らなオメガ。
私の、大っ嫌いなタイプ。
「……やめて!」
こんな子は、私の息子には相応しくないって思った。
なんで、晶ちゃんが。……そんな風に思ったのは、晶ちゃんにじゃなかったのに。
――どうして、私を裏切るの!?
怒りで、くらりとする脳の裏側で……聞こえてきたのは、やわらかな声音だった。
『はじめまして、春日成己と申します』
そうよ。最初から、気に食わなかった。
儚い顔立ちに、愛らしいほほ笑みを浮かべたオメガ。センターで、「アルファに愛される教育」を受けてきた、家畜のような男の子。
『こいつ、成己は俺の同級生で……趣味も合うし。まあ、良い奴だから』
陽平は、照れるとぶっきらぼうになるの。
成己さんを紹介するときの口調で、気に入っているのはすぐにわかったわ。
気に食わなかった。
だって、成己さんは、世間知らずで拙くて……そんな初々しさを売りにするような、センターのオメガらしいオメガに、息子が引っかかったのよ。嘆かわしくて、たまらなかった。
『あなたは、私の息子に相応しくないわ』
そう露骨に態度に出しても、あの子ったら、ニコニコと笑みを浮かべてた。私に気に入られたいって、ひしひしと伝わってきて気分が悪かった。息子だけでなく、私達にまで媚びるなんて、淫らな子だって。
なのに、一瞬で――私の隣の夫が、心を許したのがわかったわ。
――息子だけじゃなく夫にまで、気に入られようなんて……なんて、浅ましい子なの!?
死ぬほど、気に入らなかった。
オメガは、たった一人の人に愛されれば、それでいいはずでしょう?
不特定多数のアルファに気に入られようなんて、ケダモノの本性よ。私のような、良家のオメガには考えられないことだった。
だから、成己さんは家に入れたくなかった。
『弓依、ふたりは新居を気に入ってくれたかな?』
『……ええ、喜んでたわ』
『母さん、ごめん。その日は、成己と出かけるから』
『……そう』
なのに、陽平もあの人も、成己さんを気にかける。
私の気持ちを、置き去りにしていく。
『ママ、わかってあげて。陽平はいま、浮かれてるだけだよ。一番好きなのは、ママだよ?』
……晶ちゃん。
凛として、王子様のような晶ちゃんなら……私を悲しませないと思ったのよ。
その間抜け面に向かって、私は怒鳴る。
「寝たくなかったですって? 私の息子と寝て、死にたいですって……!? よくも、よくもそんな事が! 何度も、自分から家に来ていたじゃないの!」
嫌だったというなら、なんで私の息子と寝たの。
初めてのときだけじゃない。何度も、何度も抱き合っていたのを、私は知っているのよ。
――愛していないなら! 抱かれるのを望んでいないなら……まともなオメガは、アルファと二人きりになったりしないわ!
仕事だからと、不特定多数の雄の子を孕むよう教育されている、センターのオメガと私たちは違うわ。オメガである前に、人間としての教育を施されている私たち、良家のオメガは……唯一の人と契る権利を持っているのだから!
「そうでしょう? 晶ちゃん。私の息子を愛しているから、何度も寝たんでしょう!?」
晶ちゃんは、私の怒りに多少怯みながらも、反論する。
「だっ、て……俺、陽平のことは弟みたいに思ってたから! だから、成己くんのことで悩んでるの、放っておけなくて……あんなことされても、友達までやめたつもり、無かったからっ……」
「晶君……」
涙で声を詰まらせる晶ちゃんが、椹木に身を寄せる。
「……椹木さんっ……信じられないでしょ? どうせ、俺なんか、汚いって思ってるよね……」
「いいえ……そんなことは……」
椹木は動揺しながらも、震える肩を抱いて擦ってやっている。
あくまで、”陽平が”無理やり行為に及んだ体で話を勧められ、私はますます頭に血が上った。
「人聞きの悪い言い方はやめて! 晶ちゃん、一度だって嫌がってなんかなかった!」
「ひっ……」
「城山さん、落ち着いてください。まず、話しをゆっくり聞きましょう……」
怯えたように、引き攣った泣き声を上げる晶ちゃんを、椹木が庇う。――すでに絆されかけている様子に、この場の流れの悪さを悟った。
椹木は、オメガ愛護主義者。アルファとオメガが事件を起こせば、いつだってオメガを庇うタイプの男だ。
この状況では、泣いて怯える晶ちゃんの方を信じるだろう。私が、どれだけ二人は合意だと言っても……晶ちゃんがそれに頷かない限りは!
目の前が、真っ暗になる。
――晶ちゃん。あくまで、私や陽平ちゃんを悪者にするつもりなの?
「晶ちゃん、本当のこと言って。今なら、許すからっ……!」
晶ちゃんを、縋るように見つめる。
けれど、晶ちゃんは傷ついたように目を揺らし、顔を背けた。
「ママの事……大好きだった。でも……俺の事、わかってくれてるって思ってたよ……」
「!」
はらはらと、赤い頬に涙が伝う。見たことがないほど、弱弱しくて……男心をくすぐるような媚態だった。
そう――媚態、なの。私は、優しく美しい「王子様」の像が、がらがらと砕けていく音を聞いた。
「そういう、こと……」
はは、と乾いた笑いが漏れた。
私の小さな王子さまは、どこにもいない。
ここに居るのは、私の息子を誑かした挙句……他の男に媚態を見せる、淫らなオメガ。
私の、大っ嫌いなタイプ。
「……やめて!」
こんな子は、私の息子には相応しくないって思った。
なんで、晶ちゃんが。……そんな風に思ったのは、晶ちゃんにじゃなかったのに。
――どうして、私を裏切るの!?
怒りで、くらりとする脳の裏側で……聞こえてきたのは、やわらかな声音だった。
『はじめまして、春日成己と申します』
そうよ。最初から、気に食わなかった。
儚い顔立ちに、愛らしいほほ笑みを浮かべたオメガ。センターで、「アルファに愛される教育」を受けてきた、家畜のような男の子。
『こいつ、成己は俺の同級生で……趣味も合うし。まあ、良い奴だから』
陽平は、照れるとぶっきらぼうになるの。
成己さんを紹介するときの口調で、気に入っているのはすぐにわかったわ。
気に食わなかった。
だって、成己さんは、世間知らずで拙くて……そんな初々しさを売りにするような、センターのオメガらしいオメガに、息子が引っかかったのよ。嘆かわしくて、たまらなかった。
『あなたは、私の息子に相応しくないわ』
そう露骨に態度に出しても、あの子ったら、ニコニコと笑みを浮かべてた。私に気に入られたいって、ひしひしと伝わってきて気分が悪かった。息子だけでなく、私達にまで媚びるなんて、淫らな子だって。
なのに、一瞬で――私の隣の夫が、心を許したのがわかったわ。
――息子だけじゃなく夫にまで、気に入られようなんて……なんて、浅ましい子なの!?
死ぬほど、気に入らなかった。
オメガは、たった一人の人に愛されれば、それでいいはずでしょう?
不特定多数のアルファに気に入られようなんて、ケダモノの本性よ。私のような、良家のオメガには考えられないことだった。
だから、成己さんは家に入れたくなかった。
『弓依、ふたりは新居を気に入ってくれたかな?』
『……ええ、喜んでたわ』
『母さん、ごめん。その日は、成己と出かけるから』
『……そう』
なのに、陽平もあの人も、成己さんを気にかける。
私の気持ちを、置き去りにしていく。
『ママ、わかってあげて。陽平はいま、浮かれてるだけだよ。一番好きなのは、ママだよ?』
……晶ちゃん。
凛として、王子様のような晶ちゃんなら……私を悲しませないと思ったのよ。
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