いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
269 / 505
第五章~花の行方~

二百六十八話

 気がつけば――宏ちゃんの腕のなかで、うとうとと微睡んでいた。
 仰向けの宏ちゃんの上に、半ば乗りかかるかたちで……背を抱かれて。お互いの脚を絡ませて、ぴったりと寄り添っている。
 
 ――ああ、あったかい……
 
 芳しい香りにうっとりしながら、緩んだ唇を動かした。
 
「宏ちゃん……」
「成。――大丈夫か?」
 
 優しく尋ねられ、頬が熱る。さっきまで、すごく奔放に振舞ってしまったのを、思い出してしまったん。……と、腰の奥に残る、甘い痺れが大きくなりそうで、慌てて頷く。
 宏ちゃんは、ほうと息を吐いた。
 
「つい、貪り過ぎた。お前が可愛くて……」
「そ、そんな……ぼくのほうこそっ」
 
 すごくしたかった――言いかけて、照れくさくなって口を噤む。もぞもぞと逞しい胸に頬を埋めると、喉の奥で笑う気配がある。
 
「嬉しいよ」
「……ほんと?」
「うん。俺も、お前が欲しかったから」
 
 そこまで言うと、宏ちゃんはぎゅっ、とぼくを抱いた。咄嗟に抱き返し――じっと温かい腕に囲われていると、からだの奥から安堵がこみ上げてくる。
 
「宏ちゃん、大好き……」
 
 心から、沁み出すような思いを、言葉にする。
 
「俺も。お前が大好きだよ」
 
 宏ちゃんは頷いて、大きな手のひらで背中を撫でてくれた。情欲を感じない、泣く子をあやすような優しい手つき。「大丈夫だよ」って伝えてくれるときの――
 
「……っ」
 
 なぜだか、胸がきゅうと痛くなって、鼻を啜る。
 逞しい胸に頬を寄せると、鼓動を感じた。どくんどくんって、力強い響きに耳を傾けながら――ぼくは、そっと目を閉じる。
 
 ――宏ちゃんがいてくれれば、だいじょうぶなんだって。
 
 
 
 
 
 
 
 ***
 
 
 
 
「成ちゃん、おいで」
 
 涼子先生が、笑って手招きする。ぼくは、喜びに胸をふくらませながら、とことこと駆け寄った。 
 お勉強の時間の後、先生がこっそり連れてきてくれた、医療棟。「大切な宝物」を紹介すると、嬉し気に耳打ちされて……ぼくは、嬉しくてたまらなかった。
 
  ――宝物を見せてくれるなんて、”とくべつ”みたいや!
 
 涼子先生は、清潔で、明るい廊下を進み……大きな窓の嵌ったお部屋の前で止まった。見覚えのあるその場所に、どくんと鼓動が跳ねる。
 
 ――ここは……あの、怪我をした夜に見た場所?
 
 突然、逃げたくなった。
 自分でも、その気持ちに戸惑ってたら――手を握られた。
 
「――ほら、見てごらん!」
「……!」
 
 まるで、やわらかな光が、差しているみたいやった。
 お部屋の中には、たくさんの小さなベッドが並んでいて――ふくふくした赤ちゃんたちが、眠っていた。看護師さんが、大切そうに赤ちゃんたちを見守っている。
 涼子先生は、ぼくの背をぽんと叩いた。
 
「ここはね、成ちゃんの先輩たちが、生んでくださった赤ちゃんたちのお部屋なんや。見てみぃ、みんな可愛らしいやろう?」
「センターの、あかちゃん……」
 
 心臓が、どきんと鼓動する。
  
「ほんまに、立派なお仕事やんな。でね……ほら、見て」
 
 先生はこっくり頷いて、ひとつのベッドを指さした。――「これが本題」なのだと言って。ふっくらした片頬に、照れくさいような笑みが乗る。
 
「成ちゃん、見える? あれが、”宝物”――うちの、家族なんやで」
 
 今まで、見たことがないほど……とても幸せそうで、誇らしそうな笑顔だった。
 
 
 
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。