273 / 505
第五章~花の行方~
二百七十二話
センターに行ってから、三日――和やかに日々が過ぎていく。
「ああっ」
ある日の昼下がり。
TVでニュースを見ていたぼくは、座ったままぴょんと浮き上がった。
「ど、どうした!」
驚き顔の宏ちゃんが、ペンを取り落とす。
ぼくは、興奮気味に腕を引っぱって、TVの前に連れていった。
「宏ちゃん、見てっ。原稿展のニュースやってるで!」
液晶画面に映っているのは、間違いなく軌跡社で。番組のリポーターさんが、にこやかに盛況ぶりをお茶の間にお伝えしてる。
何度かお邪魔したことのある建物に、たくさんの人が押し寄せている光景は、圧巻だ。
「宏ちゃん、すごいお客さんやねえ。あちこちの県……外国からいらっしゃった人もいるって!」
「ほお。そういや、百井さんが、SNSの反響もでかかったって言ってたなぁ」
感心したように、宏ちゃんは顎を撫でる。
――軌跡社の原稿展は、毎度すっごく盛況なんやけどね。今期は、所属クリエイターさんの動きが、いちだんと大きかったからかも(もちろん、宏ちゃんも!)。
――すごいなあ。こんなに沢山の人が、大ファンなんよね……!
ぼくは、桜庭宏樹のサイン本を手に入れた、と笑顔でインタビューに答えるお客さんを見て、ほうと息を吐いた。
「いいなあ。ぼくも、桜庭先生のサイン本欲しい」
「えっ。成になら、いつでも書くぞ?」
宏ちゃんは、テーブルを指し示す。そこには、百井さんが届けてくれはった桜庭先生の新刊が、どんと積まれてる。
――『桜庭先生の本が、会場でどんどん出てるんです! せっかくですから、じゃんじゃんサインしてお客様にもっと喜んで貰いましょう!』
と言うことでね。宏ちゃんは、追加のサインをせっせと書いてるところなん。
ぼくは、ごくりと唾を飲み――ぶんぶんと頭を振る。
「ダメっ。そんなズルは、ファンとしていけません」
いくら妻と言えども、ファンとして超えてはいけない一線がありますので。
メッと指を立てると、宏ちゃんはふき出した。
「本当に真面目だなぁ、成は」
「わあっ」
突然、ぬいぐるみみたいに抱きしめられて、目を白黒する。活き活きとした緑の匂いが鼻をくすぐった。――ピクニックに行ったような、わくわくする香り。
ぼくも笑って、胸の前にまわされたがっしりした腕につかまった。
「えへ。桜庭先生が、大好きなだけですよっ」
「くっ……桜庭に妬きそうだ」
「何言うてるん。宏ちゃんのヤキモチ焼き」
桜庭先生は、宏ちゃん自身やん。
くすくす笑っていたら、宏ちゃんが甘い声で囁く。
「お前が大好きなだけ」
「も、もう……」
後ろを振り向くと、頬にやわらかく唇が落ちる。……そして、優しいキスに、ほころんだ口にも。
「……なあ。真面目で可愛い奥さんに、サイン本をプレゼントするにはどうしたらいいかな?」
悪戯っぽい声が、問いかける。
ぼくはくすぐったい気持ちで、宏ちゃんを見つめると、お願いを口にした。
「じゃあ……原稿展に行きたいですっ」
体調が良くなるまでは、とお預けになっていた原稿展。顔の痣もすっかり消えたし、宏ちゃんと一緒に見に行きたい。
宏ちゃんは、にっこりして頷く。
「わかった。今度の休みに行こうか」
「やった! ありがとう、宏ちゃん」
バンザイすると、宏ちゃんは頭を撫でてくれた。
「ああっ」
ある日の昼下がり。
TVでニュースを見ていたぼくは、座ったままぴょんと浮き上がった。
「ど、どうした!」
驚き顔の宏ちゃんが、ペンを取り落とす。
ぼくは、興奮気味に腕を引っぱって、TVの前に連れていった。
「宏ちゃん、見てっ。原稿展のニュースやってるで!」
液晶画面に映っているのは、間違いなく軌跡社で。番組のリポーターさんが、にこやかに盛況ぶりをお茶の間にお伝えしてる。
何度かお邪魔したことのある建物に、たくさんの人が押し寄せている光景は、圧巻だ。
「宏ちゃん、すごいお客さんやねえ。あちこちの県……外国からいらっしゃった人もいるって!」
「ほお。そういや、百井さんが、SNSの反響もでかかったって言ってたなぁ」
感心したように、宏ちゃんは顎を撫でる。
――軌跡社の原稿展は、毎度すっごく盛況なんやけどね。今期は、所属クリエイターさんの動きが、いちだんと大きかったからかも(もちろん、宏ちゃんも!)。
――すごいなあ。こんなに沢山の人が、大ファンなんよね……!
ぼくは、桜庭宏樹のサイン本を手に入れた、と笑顔でインタビューに答えるお客さんを見て、ほうと息を吐いた。
「いいなあ。ぼくも、桜庭先生のサイン本欲しい」
「えっ。成になら、いつでも書くぞ?」
宏ちゃんは、テーブルを指し示す。そこには、百井さんが届けてくれはった桜庭先生の新刊が、どんと積まれてる。
――『桜庭先生の本が、会場でどんどん出てるんです! せっかくですから、じゃんじゃんサインしてお客様にもっと喜んで貰いましょう!』
と言うことでね。宏ちゃんは、追加のサインをせっせと書いてるところなん。
ぼくは、ごくりと唾を飲み――ぶんぶんと頭を振る。
「ダメっ。そんなズルは、ファンとしていけません」
いくら妻と言えども、ファンとして超えてはいけない一線がありますので。
メッと指を立てると、宏ちゃんはふき出した。
「本当に真面目だなぁ、成は」
「わあっ」
突然、ぬいぐるみみたいに抱きしめられて、目を白黒する。活き活きとした緑の匂いが鼻をくすぐった。――ピクニックに行ったような、わくわくする香り。
ぼくも笑って、胸の前にまわされたがっしりした腕につかまった。
「えへ。桜庭先生が、大好きなだけですよっ」
「くっ……桜庭に妬きそうだ」
「何言うてるん。宏ちゃんのヤキモチ焼き」
桜庭先生は、宏ちゃん自身やん。
くすくす笑っていたら、宏ちゃんが甘い声で囁く。
「お前が大好きなだけ」
「も、もう……」
後ろを振り向くと、頬にやわらかく唇が落ちる。……そして、優しいキスに、ほころんだ口にも。
「……なあ。真面目で可愛い奥さんに、サイン本をプレゼントするにはどうしたらいいかな?」
悪戯っぽい声が、問いかける。
ぼくはくすぐったい気持ちで、宏ちゃんを見つめると、お願いを口にした。
「じゃあ……原稿展に行きたいですっ」
体調が良くなるまでは、とお預けになっていた原稿展。顔の痣もすっかり消えたし、宏ちゃんと一緒に見に行きたい。
宏ちゃんは、にっこりして頷く。
「わかった。今度の休みに行こうか」
「やった! ありがとう、宏ちゃん」
バンザイすると、宏ちゃんは頭を撫でてくれた。
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。