いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第五章~花の行方~

二百八十三話

 その夜、ぼくは自室で物思いにふけっていた。
 
「……はぁ」
  
 昼間の出来事を思い返し、ため息が漏れた。
 ……あの後ね。お店に杉田さんがいらっしゃったことで、話し合いは強制的にお開きになったんよ。
 
 ――『また来る。それまでに考えが変わっていることを祈るがな』
 
 去り際のお兄さんの、怒りに燃えた眼差しを思い出し、身震いする。宏ちゃんに言っているようで……あれは、ぼくに向けた言葉なのだと、わかったから。
 ぱたん、ローテーブルに突っ伏す。
 
「ぼく、どうしたらいいんやろ……」
 
 宏ちゃんもお兄さんも、本気で怒っていた。
 特に、いつも優しい宏ちゃんが、あれほど頑なな怒りを見せるなんて。
 
 ――『俺は後悔してない』
 
 綾人につき合いを止めるよう、言っていたなんて……あの、優しい宏ちゃんが。
 
「……っ」
 
 突っ伏したまま、頭を囲った腕に爪を立てる。
 ちっとも気づかなかった。ぼくに知らせずに――遠ざかろうとした綾人にも、遠ざけた宏ちゃんにも。
 
 ――ぼくは、なんて鈍感なんやろう。
 
 二人は、ぼくの大切な人なのに、辛い思いをしていたことも知らなかったなんて。
 身じろいだ拍子に、指先に何かが当たる。見れば、綾人に渡そうとラッピングした、お菓子の包みやった。
 
「……こんな、渡せるどころと違うかったんやね」
 
 オレンジの包みを取り上げて、自嘲する。
 とにかく綾人に謝らないと、と思った。お兄さんは、綾人が落ち込んでいるって言っていたもの……

 ――『成、大丈夫か?』
 
 そのとき、優しい声が甦り、包を取り落としそうになる。
 
「宏ちゃん……」
 
 綾人に、謝りたい。「辛い思いをしてるの、気づけなくてごめん」って。
 でも、お兄さんの言うように、宏ちゃんを責めるなんて出来ない。
 だって、宏ちゃんにも謝りたいから――ひとりで、辛い思いをさせてごめんなさいって。

――『綾人が可哀想だ!』

 お兄さんは、綾人の事を想っているから、こんなことを言えば失望されるかもしれない。友人として、相応しくないと思われるかもしれない。
 身が竦む思いだった。

「けど、無理や……!」

 だって、わかってる。
 怪我をしてから、宏ちゃんがどれほど心配して、献身的に支えてくれたか。

――『成、かわいそうに……』

 痛みで食べられないときは、毎食栄養たっぷりのポタージュを作って、手ずから飲ませてくれた。夜、魘されて目が覚めると……いつも、抱きしめてくれていた。
 お仕事も忙しいのに、宏ちゃんが体を悪くしちゃうって言ったら、笑って言うたん。
 
「成が痛んでいると、俺も痛いから、って……」
 
 胸が、愛おしさでズキズキ痛む。

「……っ」

 ぼくは、何があっても……宏ちゃんを責められっこない。
 わかるんやもん。
 宏ちゃんは、ぼくを深く心配してくれていて、こんな手段にでるしかなかったんやって。
 そもそも全部、ぼくがまいた種なのに。――宏ちゃんがいない時は、ぼくが家主。……椹木さんを、家にいてもらう判断をしたのは、ぼくだ。

「ぼくが、謝らなきゃ。宏ちゃんは悪くないって、わかってもらわなきゃ……!」

 ぼくのせいで、宏ちゃんを……家族と仲違いさせちゃいけない。

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