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第五章~花の行方~
二百八十六話
「お兄さんに傷つけられた綾人の、ぼくは味方でいたかった。オメガってことを受け入れられていないのに、口うるさくしたら嫌かもしれないって……」
でも、本当は……口うるさくして、嫌われるのが嫌やっただけかもしれない。
綾人が危ない目に遭う事と比べたら、そんなの大したことじゃないのに。
「綾人、本当にごめんね……」
ぎゅっと唇を引き結ぶ。後悔で、口の中が苦かった。
――綾人が、こんなぼくに嫌気がささないでくれるなら……仲良くしてほしい。そう言いたい。でも……
今も、家の前で待ってくれている、宏ちゃんの顔が浮かぶ。
ぼくと宏ちゃんは、ここに来るまでに話をした。朝ごはんを食べながら、ゆっくりと――ぼくの望みや……宏ちゃんがぼくに望んでいることを。
――『俺は、お前が綾人君の試金石になるのは嫌なんだ』
宏ちゃんに、「ちゃんとするから綾人と仲良くしたい」と伝えたら、こう言ったん。
『綾人君をお前が導くのは、彼のためになる。けど……それは、一筋縄じゃいかない。彼が自覚を持つまでに、お前が危険な目に遭うことはわかりきってる。今度みたいに、兄貴の馬鹿がやらかすことだって』
ぼくの頬を撫でる宏ちゃんは、辛そうに言った。――人の葛藤は、そう簡単に消えるものじゃないからって。
『成が綾人君と仲良くするのが駄目なんじゃない。ただ……お前に危険な目に遭ってほしくないんだ』
強く抱きしめられた。……宏ちゃんがどれほど、ぼくを大切に想ってくれているか、痛いほどに伝わってくる。
この想いを無視してまで、通したい我は無いって思えた。
――だから、いま……ぼくが言えるのは「ごめん」だけなんだ。
ここまで来ておいて、中途半端な自分に嫌気がさす。
言葉が継げないでいると……カタン、とドアが揺れた。
「成己。オレ、大丈夫だ」
はっきりとした声が、言う。ぼくは目を見開いた。
「お前にばっか、頑張らせたりしねぇよ。オレも、ちゃんとする。すぐは無理かもわかんねぇけど……でも、頑張るから!」
綾人が、ドア越しに手を重ねた気配がした。
「だから、大丈夫。オレ、頑張って信用取り戻すからさ。そしたら、また胸張って遊びに行くから!」
「綾人……!」
胸がじんと熱くなる感動に、涙が込み上げた。
自分の事情で、勝手なことばかり言ったのに。
「……嬉しい。そんな風に言って貰えて」
「当たり前じゃん。友達だぞ!」
歯切れのよい返答が返る。
ぼく達は、扉越しに笑い合った。
「話せたか?」
お暇を告げて、お家を出ると宏ちゃんが待ち構えていた。ぼくは、笑って頷く。
「うん! ありがとう、宏ちゃん」
綾人と少し話をして、ぼく達はしばしのお別れをした。
でも、また会えるから――そう思うと、気もちは明るい。それにね、ケーキのおすそ分けと、勉強の差し入れのドライフルーツとナッツのお菓子を渡すとき、少しだけドアを開けてくれたん。
『ありがとう、成己!』
痩せていたけれど、変わらない笑みが浮かんでいるのが見えて、ホッとした。
――綾人と話せてよかった……きっと、大丈夫やんね。
喜びがこみ上げて、隣を歩く宏ちゃんの手を取った。
「ん?」
「ううん。宏ちゃん、ありがとう」
優しい眼差しに、ほほ笑み返す。
宣言通り、ずっとドアの前で待っていてくれた、心配性の夫。
――ぼくも、頑張らないと。優しい宏ちゃんを、あんまりやきもきさせないように。
でも、本当は……口うるさくして、嫌われるのが嫌やっただけかもしれない。
綾人が危ない目に遭う事と比べたら、そんなの大したことじゃないのに。
「綾人、本当にごめんね……」
ぎゅっと唇を引き結ぶ。後悔で、口の中が苦かった。
――綾人が、こんなぼくに嫌気がささないでくれるなら……仲良くしてほしい。そう言いたい。でも……
今も、家の前で待ってくれている、宏ちゃんの顔が浮かぶ。
ぼくと宏ちゃんは、ここに来るまでに話をした。朝ごはんを食べながら、ゆっくりと――ぼくの望みや……宏ちゃんがぼくに望んでいることを。
――『俺は、お前が綾人君の試金石になるのは嫌なんだ』
宏ちゃんに、「ちゃんとするから綾人と仲良くしたい」と伝えたら、こう言ったん。
『綾人君をお前が導くのは、彼のためになる。けど……それは、一筋縄じゃいかない。彼が自覚を持つまでに、お前が危険な目に遭うことはわかりきってる。今度みたいに、兄貴の馬鹿がやらかすことだって』
ぼくの頬を撫でる宏ちゃんは、辛そうに言った。――人の葛藤は、そう簡単に消えるものじゃないからって。
『成が綾人君と仲良くするのが駄目なんじゃない。ただ……お前に危険な目に遭ってほしくないんだ』
強く抱きしめられた。……宏ちゃんがどれほど、ぼくを大切に想ってくれているか、痛いほどに伝わってくる。
この想いを無視してまで、通したい我は無いって思えた。
――だから、いま……ぼくが言えるのは「ごめん」だけなんだ。
ここまで来ておいて、中途半端な自分に嫌気がさす。
言葉が継げないでいると……カタン、とドアが揺れた。
「成己。オレ、大丈夫だ」
はっきりとした声が、言う。ぼくは目を見開いた。
「お前にばっか、頑張らせたりしねぇよ。オレも、ちゃんとする。すぐは無理かもわかんねぇけど……でも、頑張るから!」
綾人が、ドア越しに手を重ねた気配がした。
「だから、大丈夫。オレ、頑張って信用取り戻すからさ。そしたら、また胸張って遊びに行くから!」
「綾人……!」
胸がじんと熱くなる感動に、涙が込み上げた。
自分の事情で、勝手なことばかり言ったのに。
「……嬉しい。そんな風に言って貰えて」
「当たり前じゃん。友達だぞ!」
歯切れのよい返答が返る。
ぼく達は、扉越しに笑い合った。
「話せたか?」
お暇を告げて、お家を出ると宏ちゃんが待ち構えていた。ぼくは、笑って頷く。
「うん! ありがとう、宏ちゃん」
綾人と少し話をして、ぼく達はしばしのお別れをした。
でも、また会えるから――そう思うと、気もちは明るい。それにね、ケーキのおすそ分けと、勉強の差し入れのドライフルーツとナッツのお菓子を渡すとき、少しだけドアを開けてくれたん。
『ありがとう、成己!』
痩せていたけれど、変わらない笑みが浮かんでいるのが見えて、ホッとした。
――綾人と話せてよかった……きっと、大丈夫やんね。
喜びがこみ上げて、隣を歩く宏ちゃんの手を取った。
「ん?」
「ううん。宏ちゃん、ありがとう」
優しい眼差しに、ほほ笑み返す。
宣言通り、ずっとドアの前で待っていてくれた、心配性の夫。
――ぼくも、頑張らないと。優しい宏ちゃんを、あんまりやきもきさせないように。
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