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第五章~花の行方~
二百八十八話
「~♪」
ぼくは鼻歌を歌いながら、七分袖のゆったりしたTシャツに頭を通した。
「あれ。ちょっと大きい? パンツもワイドやと、てるてる坊主みたいかなあ……」
鏡の前に立って、おかしいところを調節する。納得の出来になったのを見て……でれっと笑み崩れてしまう。
「うう。気を抜いたら笑っちゃう~」
頬を押さえると、かっかと熱い。今日のことで、気合が入り過ぎているからかもしれへん。
――何と言っても……今日は、待ちに待ったデートですから!
綾人と仲直りしてから、一夜明け。ちょうど久しぶりのオフやったんで、前から約束していたデートに行こーってことになったんよ。
今日はね、まずお買い物に行って。それからお昼ご飯を食べて、原稿展っていう予定なんやで。
「ふふ。軍資金も持った。今日の星占いは二位やったし……きっと、桜庭先生のサイン本を手に入れますっ」
拳を握り、気合を入れていると、「成ー」と部屋の外から呼ばれる。一足先に出て、車内を涼しくしてくれている宏ちゃんに違いなかった。
浸りすぎて、思ったより時間が過ぎていたことに気づく。
「わあ、いけない……はーい、今行きますっ」
ぼくはバッグを肩にかけて、部屋を出た。
火の元と、戸締りを道順に確認してから、じりじりする日差しの中に飛び出すと――爽やかな風が、髪をとかすように吹き抜けていく。
風の匂いにかすかな秋の気配を感じ、目を瞬いた。
――こんなに暑いのに。もう、秋なんやなあ……
濃密な毎日を過ごしていると、時間がゆっくりに感じる。それでも、たしかに時が経っているんだ。
「なーるー」
「宏ちゃん、お待たせ!」
いつものワゴン者の側で、手を振っている宏ちゃんに、ぱたぱたと駆け寄った。
「おお。今日はまた、一段と可愛いなあ」
「えへ。宏ちゃんも、かっこいいよ」
子犬みたいに頬を包まれて、くすぐったくて笑っちゃう。
宏ちゃんは、Tシャツとパンツの上にシャツを羽織っただけのシンプルな出で立ち。でも、セレブのオフショットみたいにゴージャスだった。
――このところ、原稿原稿、お店! でシャツとチノパン、エプロン! て感じやったもんね。すっごく新鮮……
見惚れていると、ちゅっと唇に軽いキスが降ってきた。
「ひゃっ」
は、白昼堂々!
かあ、と頬が一気に燃え上がった。宏ちゃんは悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「可愛い顔してるから、つい」
「もう……ご近所さんに見られても、知らんよっ」
ぷい、とそっぽを向くと、頭を撫でられた。
「ごめん、ごめん」
「……う」
優しい眼差しに、怒っていた肩が落ちた。
いつでも好意を伝えようとしてくれる、宏ちゃんの大胆さが嬉しくもあって、怒れない。
――恥ずかしかっただけで、やじゃないもの。それに……
自信がなくて、よくウダウダしてしまうぼくは……宏ちゃんのそういうところに、救われてるから。
ぼくは、にっこり笑った。
「何でもないよっ。行こ!」
「ああ」
ぼくたちは笑い合い、車に乗り込んだ。
「じゃあ、安全運転で」
「はい、お願いしますっ」
すると、カーステレオからは、ぼくの好きな歌が流れていて、気持ちが浮きたった。
――優しいなあ、宏ちゃん。
運転席に座る夫をこっそり眺めながら、しみじみと思う。
「どした?」
「ううん、なんでも」
甘い歌声が、久しぶりのデートで弾む気持ちに沿うように響いた。
ぼくは鼻歌を歌いながら、七分袖のゆったりしたTシャツに頭を通した。
「あれ。ちょっと大きい? パンツもワイドやと、てるてる坊主みたいかなあ……」
鏡の前に立って、おかしいところを調節する。納得の出来になったのを見て……でれっと笑み崩れてしまう。
「うう。気を抜いたら笑っちゃう~」
頬を押さえると、かっかと熱い。今日のことで、気合が入り過ぎているからかもしれへん。
――何と言っても……今日は、待ちに待ったデートですから!
綾人と仲直りしてから、一夜明け。ちょうど久しぶりのオフやったんで、前から約束していたデートに行こーってことになったんよ。
今日はね、まずお買い物に行って。それからお昼ご飯を食べて、原稿展っていう予定なんやで。
「ふふ。軍資金も持った。今日の星占いは二位やったし……きっと、桜庭先生のサイン本を手に入れますっ」
拳を握り、気合を入れていると、「成ー」と部屋の外から呼ばれる。一足先に出て、車内を涼しくしてくれている宏ちゃんに違いなかった。
浸りすぎて、思ったより時間が過ぎていたことに気づく。
「わあ、いけない……はーい、今行きますっ」
ぼくはバッグを肩にかけて、部屋を出た。
火の元と、戸締りを道順に確認してから、じりじりする日差しの中に飛び出すと――爽やかな風が、髪をとかすように吹き抜けていく。
風の匂いにかすかな秋の気配を感じ、目を瞬いた。
――こんなに暑いのに。もう、秋なんやなあ……
濃密な毎日を過ごしていると、時間がゆっくりに感じる。それでも、たしかに時が経っているんだ。
「なーるー」
「宏ちゃん、お待たせ!」
いつものワゴン者の側で、手を振っている宏ちゃんに、ぱたぱたと駆け寄った。
「おお。今日はまた、一段と可愛いなあ」
「えへ。宏ちゃんも、かっこいいよ」
子犬みたいに頬を包まれて、くすぐったくて笑っちゃう。
宏ちゃんは、Tシャツとパンツの上にシャツを羽織っただけのシンプルな出で立ち。でも、セレブのオフショットみたいにゴージャスだった。
――このところ、原稿原稿、お店! でシャツとチノパン、エプロン! て感じやったもんね。すっごく新鮮……
見惚れていると、ちゅっと唇に軽いキスが降ってきた。
「ひゃっ」
は、白昼堂々!
かあ、と頬が一気に燃え上がった。宏ちゃんは悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「可愛い顔してるから、つい」
「もう……ご近所さんに見られても、知らんよっ」
ぷい、とそっぽを向くと、頭を撫でられた。
「ごめん、ごめん」
「……う」
優しい眼差しに、怒っていた肩が落ちた。
いつでも好意を伝えようとしてくれる、宏ちゃんの大胆さが嬉しくもあって、怒れない。
――恥ずかしかっただけで、やじゃないもの。それに……
自信がなくて、よくウダウダしてしまうぼくは……宏ちゃんのそういうところに、救われてるから。
ぼくは、にっこり笑った。
「何でもないよっ。行こ!」
「ああ」
ぼくたちは笑い合い、車に乗り込んだ。
「じゃあ、安全運転で」
「はい、お願いしますっ」
すると、カーステレオからは、ぼくの好きな歌が流れていて、気持ちが浮きたった。
――優しいなあ、宏ちゃん。
運転席に座る夫をこっそり眺めながら、しみじみと思う。
「どした?」
「ううん、なんでも」
甘い歌声が、久しぶりのデートで弾む気持ちに沿うように響いた。
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