いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
295 / 485
第五章~花の行方~

二百九十四話

しおりを挟む
「宏ちゃんの、すけべ」
 
 お腹の上にわだかまった掛け布団を、口元まで引っ張り上げる。――した後の、気だるくて熱っぽい空気で、お部屋はいっぱいやった。
 隣で、大きな体を投げ出していた宏ちゃんが、不思議そうに言う。
 
「ん? どうした」
「計ったでしょ。ヒートなんて言うて……」
 
 ヒートなんかじゃなくて、宏ちゃんの手でその気にさせられて……体いっぱいを愛された。
 頬をぷくりと膨らませると、宏ちゃんは笑った。
 
「ああ。――お前を連れ込んで、これをしたかっただけだろ、って?」
 
 悪戯な手が、お布団の上からぼくの脚の間に触れる。さっき、散々与えられた快楽がぶり返しそうになって、慌てて足を閉じる。
 
「もう、宏ちゃんっ」
「はは……悪い、悪い。可愛いから、触りたくなんだ」
 
 灰色がかった瞳をやわらかく細め、宏ちゃんはぼくの頭を撫でる。子猫を愛でるように優しい手つきに、すぐに絆されちゃう。 
 ぼくは、広い胸に頬を寄せて、じっと夫の顔を見上げた。
 
「ねえ、宏ちゃん」
「何だ?」
「あのね……ぼくの体、どうだった? 本当に……そろそろ、来そうやった?」
 
 おずおずと尋ねてみると、宏ちゃんは目を丸くする。
 
 ――中谷先生に、順調に開いてきてるって言われたけど。ちゃんと、変わってきてるのかな?
 
 さっきはあんな風に言ったものの、宏ちゃんが本当に心配してくれたのは、わかってるねん。
 ぼくの体に、変化が起きてきてるなら……とても、嬉しいのやけれど。
 
「そうだなあ……」
 
 すると、宏ちゃんはぼくを抱きかかえ、項に顔を埋めた。
 
「……お前の香りが、日に日に強くなってるのがわかるんだ」
「あっ……ほんと?」
 
 温かい吐息が首筋を撫で、ぴくんと肩が震える。宏ちゃんは、穏やかな声音で囁きながら、大きな手でぼくの肌を撫でた。
 
「うん。項と、背中……あとは、ここな」
「ひゃっ」
 
 閉じた脚の間を、手のひらが潜って来る。熱い指先が、生殖弁を優しく擽って、目を見開いた。
 さっき、宏ちゃんので”そう”されたように、ぴったりと閉じた肉の合わせ目を押されると――じわ、と甘い痺れがぶり返す。
 
「あぁ……宏ちゃんっ……」
「お前から、甘い桃みたいな匂いがするんだ。熟して、はやく食ってくれって言うみたいに……」
「ふぁ……っ」

 宏ちゃんの灰色の目が、ぼくの目を覗き込む。

「お前は咲く。もうすぐ……俺には、わかるんだ」
 
 低い声が、鼓膜を震わせる。宏ちゃんの体から、獰猛な森の香りが立ち上り……食べられちゃいそうって、ちょっぴり怖くなる。
 
 ――でも。
 
 ぼくは、逞しい胸にひっついて、甘い陶酔にぎゅっと目を閉じた。宏ちゃんの手を求め、勝手に開いていく膝を、止めることが出来ない。
 だって、本当に望んでいることだから。
 
「嬉しい……宏ちゃん。ぼく、早く咲きたい」
 
 ――あなたのために……今度こそ。
 
 十四の時に、一度咲きかけた。
 それからずっと、未熟なままだったぼくは――陽平の元でもう一度、咲く機会を待っていた。
 
 ――『お前みたいな欠陥品、誰が妻に欲しがるか!』
 
 また、咲けなくて。もう無理なのかって、怖かった。ぼくは、誰のためにも咲けないのかと……こてんぱんに自信がなくなったん。
 ……だけど、宏ちゃんのもとにきて、ぼくは変わった。

――『可愛い、成』

 ちっぽけな体を、宝物みたいに抱きしめてくれた。だから――自分が、ダメじゃないのかもって、思えるようになったん。

「宏ちゃん……」

 ぼくは、宏ちゃんの頬に手をのべた。
 彼の大きな手が、すぐに手の甲を包んでくれて、涙が溢れる。
 
「成、大好きだよ」
「ぼくも、大好き」
 
 ずっと優しくしてくれて、ありがとう。
 宏ちゃんにひっついて、ぼくは喜びの嗚咽を漏らした。


しおりを挟む
感想 261

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました

山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。 王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。 レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。 3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。 将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ! 「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」 ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている? 婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

処理中です...