いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
300 / 505
第五章~花の行方~

二百九十九話

「宏章様、成己様。失礼いたします」 
 
 離れの探索を終えたとき、見計らっていたように東さんが訪ねて来はった。
 東さんはお部屋にしずしずと歩み入り、莞爾とする。
 
「お部屋はお気に召して頂けましたでしょうか?」
「はい、とっても!」
「ありがとう、じいちゃん。昔のまんまで驚いたよ」
 
 声を揃えてお礼を言うと、東さんは誇らしそうに胸を張った。
 
「ほほ。野江家の使用人として、当然のことにございます。この東の目が黒いうちは、ご滞在の間中、お二人に不便な思いなどさせません! ご入用のものは何でも、二十四時間お申し付けくださいまし」
「ありがとう。でも、夜は寝てくれよな」
 
 大らかな笑みを浮かべ、宏ちゃんが東さんの肩をぽんと叩いた。
 
「じきにお夕食の時間ですが、どうなさいますか?」
「ああ、ありがとう……成、何が食べたい?」
「えっ!? えと、ぼくは、お義母さんの食べたいものが食べたいです」
 
 いちばん年少のぼくに、それは荷が重いですっ。冷や汗を垂らし、選択のボールをお義母さんに向かって放り投げる。すると、二人はきょとんと顔を見合わせて、「ああ」と拳を打った。
 
「気にしなくていいぞ、うちはメシは一緒に食わないから。な、じいちゃん?」
「ええ。奥様は会食続きでしたので、お粥を召し上がるそうです。成己様も、どうぞお好きなものをお申し付けください」
 
 当たり前のように微笑まれて、ぼくはびっくりした。
 ごはんって、家族で一緒に食べるものやと思ってた。ご家庭によって、いろいろな食卓のかたちがあるんやねえ。
 
「えと。それじゃ――」
 
 
 
  
「いただきまあす」 
 
 サンドイッチにかじりつくと、ローストビーフの美味しいお汁が、口いっぱいに溢れた。すごく豪華な味わいに、ぼくは目をかっと瞠る。
 
「うぅ。美味しい……!」
「口に合ったみたいで、良かった」
 
 お昼をたくさん頂いたので、軽食をリクエストさせてもらってん。そうしたら、東さんが母屋へ頼みに行ってくれはってね。すぐに、あったかいお茶と、サンドイッチを離れに持ってきて下さったんよ。
 ローストビーフとポテトサラダの豪華なサンドイッチは、お店で出てくるみたいな味。宏ちゃんの曰はく、野江家にはお料理専門の使用人さんが常駐してはるんやって。
 
 ――『内線電話から、なんでもお申し付けください』
 
 東さんはお料理を届けてすぐに、風のように去っていかはった。
 やから、今は離れの居間で、宏ちゃんと二人向かい合って夕ご飯です。とっても気楽、なんやけど……
 
「……もぐ」
「どした、成?」
 
 宏ちゃんは例にもよって、すでに食べ終わってる。
 のんびりと食後のコーヒーを啜りつつ、ぼくの一挙手一投足を見守っていた彼は、目ざとくぼくの様子に気づいてしまう。
 
「う、ううん。なんもないよっ」
「いや、無くはないだろ? 状況が、状況だし」
「う……」
 
 心配そうな宏ちゃんの眼差しから、逃れられそうになくて――ぼくは、観念した。サンドイッチをお皿に置くと、おずおずと切り出す。
 
「あの……何でもないの。ただ、すごく気を遣ってもらっちゃってるなあって」
「ん? どういうことだ」
 
 宏ちゃんが、不思議そうに目を瞠る。
 
「こうして、ずっと二人きりにさせてくれてて……朝ごはんも、ここに持ってきてくれはるって、東さん仰ってたし」
 
 ひょっとして、ぼくの為に気遣ってくれてるんじゃないかなって、思ってん。宏ちゃんと二人きりでいると、うちに居るみたいでとっても落ち着く。
 とはいえ、夫の実家なんやもの!
 
 ――お世話になるのは、ぼくの方やと言うのに。このまま、甘えてていいのかな……?
 
 しょんぼりと俯くと、宏ちゃんが息を吐く。
 
「まったく、お前は……」
「わあっ」
 
 大きな手に、頭をわしわしと撫でられる。
 
「お前の方が、気を遣いすぎだよ。嫌な目にあって大変なときくらい、自分のことだけ考えときなさい」
「ひ、宏ちゃん……」
 
 言葉こそ窘めているけれど、とても温かい声音だった。ぼくは、知らず詰めていた息を吐きだして――ゆるゆると肩から力が抜けていく。
 たしかに、親切にしてもらって不安になるなんて、贅沢やんね。
 
「ありがとう、宏ちゃん」
 
 にっこりすると、くしゃくしゃになった髪を優しく梳いてくれた。
 子犬になった気分で、目を閉じていると……宏ちゃんはため息のように優しく、呟く。
 
「心配するな、うちの家族は変わってるしな。俺のメシと言ったら、ここで食うもんだったから」
「え?」
 
 思わず顔を上げると、宏ちゃんは眩しげに目を細めていた。
 
「俺はお前と二人で嬉しかったよ」
 
 
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。