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第五章~花の行方~
三百二話
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「あ、あのっ、どこへ向かってるんでしょう?」
高級車の広いシートに、溺れるように座りながら、ぼくはお義母さんに問う。
「どこって言うでもないかな。ぶらっと遊びに行くの」
「ぶらっと」
お義母さんは、のんびりした様子で答えはった。
「僕、ノープランで動きたいんだよねえ。成くんもないかい? ぶらっと、気の赴くままに出かけたいとか」
「あっ。あるかもです」
ふらっと、気の向くときに本屋さんに行ったりしたい。それに、献立の足らずまいの為に、仕事中の宏ちゃんの手を止めずに済んだら、どれほどいいか。
そう言うと、お義母さんは「だよねえ」と眉を下げる。
「成くんも、護衛がついたら自由に動けるよ。いま、宏が良い人を探してるらしいから、あとちょっとの辛抱さ」
「宏ちゃんが、護衛を?」
まったく初耳で、ぼくは目を丸くする。
「昨夜訊いたらね、暁子ちゃん……宏のお姉ちゃんに、護衛の派遣を依頼してるんだって。お姉ちゃん、アメリカでセキュリティ部門を請け負ってるんだ」
お義母さんのやわらかな声に、誇らしげな響きが混じる。
ぼくは、宏ちゃんの気持ちに胸を打たれていた。
――宏ちゃん、ぼくの為にそんなことまで……
「嬉しい。ぼく、知りませんでした……!」
「宏も言えばいいのに、かっこつけなんだよね」
お義母さんはエムアンドエムズの袋を開け、ひっきりなしにぽりぽりと噛んではる。甘いチョコレートの匂いのする笑顔が、くるんとこっちを向いた。
「ってわけでさ、今日はまだいないから、成くんの護衛。僕と一緒に、ショッピングとしゃれこもうじゃない」
「はいっ。お買い物、嬉しいです」
ぼくが、ぺこりと頭を下げると、「固い固い!」とお義母さんがツッコんだ。
三時間後――ぼくとお義母さんは、百貨店の喫茶室で向かい合っていました。
「いやー、歩いた歩いた。脚がパンパンだよ~」
「わかりますー。でも、色々見れて、楽しかったですっ」
「さすが若いなあ」
お義母さんのご友人のね、経営するデパートに遊びに来たん。
――ほんとに、沢山のお店まわったなあ……!
お義母さんね、すっごくパワフルなん!
着いてすぐ、お義母さんのお気に入りのお店に行って、香り止めのクリームを合わせてもらってね。次は地下へ降りて、お世話になった人への贈り物に、果物とお煎餅を買ったん。それから、ファッションフロアをぐるりと回って――
「うーん、そろそろくたびれたねえ」
って、同じフロアの洋菓子屋さんで一休みってなったん。
お義母さんとショッピングって、実はドキドキしてたんやけど。盛りだくさんで、緊張する暇もないくらいやったよ。
ぼくは、袋が山盛りの荷物置きに布をかけ、きちんと坐り直す。
「あのっ、お義母さん、この度はありがとうございました。素敵なスカーフを頂いて……」
「ん? いいんだよぉ、政くんのシャツ選ぶの、手伝ってもらったしね。むしろ、一枚っきりで良かったの?」
「はいっ! すっごく満足です」
小首をかしげて言われ、笑顔で力強く頷いた。
――だって一枚で、ぼくが付けてるのが六十枚買えちゃうんだもの……!
こめかみに冷や汗がたらーと伝う。
以前、宏ちゃんも同じのを買ってくれようとして、「家計~!」って泣いて止めた品物なん。そんな高いもの、お義母さんから頂いてええんやろか……
「成くん、遠慮し過ぎだよ。ってか宏のやつ、そんなにケチなのかい?」
「いえいいえ! むしろ、ぼくがケチなので……!」
ぎょっとして弁明する。なんか、変な宣言になっちゃった。
「そう? 宏章は昔からのんびりしてるから、親としちゃ心配でねえ。不自由してない?」
「いつも優しくしてもらってますっ。ぼくの方が、宏章さんのことを頼りにしてばっかりで……」
「ほんと~? 姑だからって気を遣わなくていいよ?」
「ほ、本当です!」
お義母さんは、疑わしそうにじーっとぼくを見つめる。
――あかーん! ぼくのせいで宏ちゃんの名誉が……!?
困り切って話を変えようとしたとき、タイミングよくお給仕さんがやってきはった。
「お待たせいたしました」
「あ、ありがとうございます……!」
しずしずと品物を並べ、一礼すると去っていかはる。その背に、ぼくは感謝の気持ちをこめて会釈をした。
テーブルの上には、ホットの紅茶が二人分ずつ。お義母さんが選んでくれはった、ガトーアナナスっていう、パイナップルのケーキが二皿。
お義母さんが、嬉しそうにフォークを手に取った。
「終わってなくて良かった。夏のケーキだけど、ここはこれが美味しいから、食べて欲しかったの」
「嬉しいです。ぼく、パイナップル好きなんです」
お義母さんに続いてひとくち切りとって、口に運ぶ。
甘酸っぱく煮込んだパイナップルと、ふんだんに香るバターが贅沢で、うっとりしてしまう。
「すごく美味しいです~」
「でしょう。宏もね、大好物で。昔からこればかり食べるんだよ」
「……えっ!」
ぼくは、思わず目を瞬いた。
――宏ちゃんが、パイナップルのケーキを……?
高級車の広いシートに、溺れるように座りながら、ぼくはお義母さんに問う。
「どこって言うでもないかな。ぶらっと遊びに行くの」
「ぶらっと」
お義母さんは、のんびりした様子で答えはった。
「僕、ノープランで動きたいんだよねえ。成くんもないかい? ぶらっと、気の赴くままに出かけたいとか」
「あっ。あるかもです」
ふらっと、気の向くときに本屋さんに行ったりしたい。それに、献立の足らずまいの為に、仕事中の宏ちゃんの手を止めずに済んだら、どれほどいいか。
そう言うと、お義母さんは「だよねえ」と眉を下げる。
「成くんも、護衛がついたら自由に動けるよ。いま、宏が良い人を探してるらしいから、あとちょっとの辛抱さ」
「宏ちゃんが、護衛を?」
まったく初耳で、ぼくは目を丸くする。
「昨夜訊いたらね、暁子ちゃん……宏のお姉ちゃんに、護衛の派遣を依頼してるんだって。お姉ちゃん、アメリカでセキュリティ部門を請け負ってるんだ」
お義母さんのやわらかな声に、誇らしげな響きが混じる。
ぼくは、宏ちゃんの気持ちに胸を打たれていた。
――宏ちゃん、ぼくの為にそんなことまで……
「嬉しい。ぼく、知りませんでした……!」
「宏も言えばいいのに、かっこつけなんだよね」
お義母さんはエムアンドエムズの袋を開け、ひっきりなしにぽりぽりと噛んではる。甘いチョコレートの匂いのする笑顔が、くるんとこっちを向いた。
「ってわけでさ、今日はまだいないから、成くんの護衛。僕と一緒に、ショッピングとしゃれこもうじゃない」
「はいっ。お買い物、嬉しいです」
ぼくが、ぺこりと頭を下げると、「固い固い!」とお義母さんがツッコんだ。
三時間後――ぼくとお義母さんは、百貨店の喫茶室で向かい合っていました。
「いやー、歩いた歩いた。脚がパンパンだよ~」
「わかりますー。でも、色々見れて、楽しかったですっ」
「さすが若いなあ」
お義母さんのご友人のね、経営するデパートに遊びに来たん。
――ほんとに、沢山のお店まわったなあ……!
お義母さんね、すっごくパワフルなん!
着いてすぐ、お義母さんのお気に入りのお店に行って、香り止めのクリームを合わせてもらってね。次は地下へ降りて、お世話になった人への贈り物に、果物とお煎餅を買ったん。それから、ファッションフロアをぐるりと回って――
「うーん、そろそろくたびれたねえ」
って、同じフロアの洋菓子屋さんで一休みってなったん。
お義母さんとショッピングって、実はドキドキしてたんやけど。盛りだくさんで、緊張する暇もないくらいやったよ。
ぼくは、袋が山盛りの荷物置きに布をかけ、きちんと坐り直す。
「あのっ、お義母さん、この度はありがとうございました。素敵なスカーフを頂いて……」
「ん? いいんだよぉ、政くんのシャツ選ぶの、手伝ってもらったしね。むしろ、一枚っきりで良かったの?」
「はいっ! すっごく満足です」
小首をかしげて言われ、笑顔で力強く頷いた。
――だって一枚で、ぼくが付けてるのが六十枚買えちゃうんだもの……!
こめかみに冷や汗がたらーと伝う。
以前、宏ちゃんも同じのを買ってくれようとして、「家計~!」って泣いて止めた品物なん。そんな高いもの、お義母さんから頂いてええんやろか……
「成くん、遠慮し過ぎだよ。ってか宏のやつ、そんなにケチなのかい?」
「いえいいえ! むしろ、ぼくがケチなので……!」
ぎょっとして弁明する。なんか、変な宣言になっちゃった。
「そう? 宏章は昔からのんびりしてるから、親としちゃ心配でねえ。不自由してない?」
「いつも優しくしてもらってますっ。ぼくの方が、宏章さんのことを頼りにしてばっかりで……」
「ほんと~? 姑だからって気を遣わなくていいよ?」
「ほ、本当です!」
お義母さんは、疑わしそうにじーっとぼくを見つめる。
――あかーん! ぼくのせいで宏ちゃんの名誉が……!?
困り切って話を変えようとしたとき、タイミングよくお給仕さんがやってきはった。
「お待たせいたしました」
「あ、ありがとうございます……!」
しずしずと品物を並べ、一礼すると去っていかはる。その背に、ぼくは感謝の気持ちをこめて会釈をした。
テーブルの上には、ホットの紅茶が二人分ずつ。お義母さんが選んでくれはった、ガトーアナナスっていう、パイナップルのケーキが二皿。
お義母さんが、嬉しそうにフォークを手に取った。
「終わってなくて良かった。夏のケーキだけど、ここはこれが美味しいから、食べて欲しかったの」
「嬉しいです。ぼく、パイナップル好きなんです」
お義母さんに続いてひとくち切りとって、口に運ぶ。
甘酸っぱく煮込んだパイナップルと、ふんだんに香るバターが贅沢で、うっとりしてしまう。
「すごく美味しいです~」
「でしょう。宏もね、大好物で。昔からこればかり食べるんだよ」
「……えっ!」
ぼくは、思わず目を瞬いた。
――宏ちゃんが、パイナップルのケーキを……?
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