いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第五章~花の行方~

三百一話

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 明日、犯人がわかるんや。
 つい強張ったぼくに、宏ちゃんが穏やかな声で言う。
 
「心配しなくていい。犯人が誰であれ……お前を悲しませたりしない」
「――宏ちゃん」
 
 ぼくは、そのときふと思ったん。
 宏ちゃんは……ぼくが、何を恐れているのか知っているのかもしれないって。
 しばらく黙って歩いていると、離れの灯りが見えてきた。――うさぎやと違う、オレンジ色の切ない光。
 
「なあ、成」
 
 ふと、宏ちゃんが言う。
 
「大丈夫だよ。ややこしい事は、さっさと解決しちまってさ。早く、二人の家に帰ろうな」
「……うんっ!」
 
 組んだ腕に力を込めると、宏ちゃんはそっとぼくの方に身を寄せた。――下ろしたままの長い髪が頬に触れ、そっと目をつむる。
 
 ――宏ちゃん、大好き。
 
 ヒグラシの声に、鈴虫が混じる。
 こんな庭園にも、虫の鳴き声があるなんて不思議……甘いキスに酔いながら、ぼくは変なことを考えていた。
 
 
 
 翌日、朝早くに宏ちゃんは出かけて行った。セキュリティの管理会社の人と会うんやって。ぼくも同席したいって、言ったんやけど……
 
「ありがとな。でも、今のお前を男に見せるのは、俺が我慢ならんから」
 
 こんなことをケロリと言っちゃうから、宏ちゃんは怖い。
 たじたじになったぼくは、お留守番を承知しました。それでね――
 
「わあ、可愛い……! 宏章さん、パイプくわえてるっ。探偵さんやろか?」
「そうなのです! この頃はしきりに、俺はホームズになると仰せで」
 
 今は東さんに、宏ちゃんの小さい頃のお写真を見せて頂いているんよ。 ぼくが一人で退屈しないかって、たくさんのアルバムを抱えてお話に来て下さったん!
 写真の宏ちゃんはまだ幼くて、五歳くらいなのに気取ってパイプを咥える様は、なんとも可愛い。
 
「気難しい大叔父様にパイプをお借りになったと聞いて、卒倒しそうでしたよ」
「あはは」
 
 東さんが生き生きと話してくださる、幼いころの宏ちゃんに胸がきゅんとする。
 
「東さん、ありがとうございます。こんなに素敵なものを見せてくださって」
「いえいえ、喜んで頂けて嬉しゅうございます。宏章様の奥様になる方にご覧になって頂こうと、ずっと用意してきたものにございますから……」
「ほ、ほんとうですか……!」
  
 あんまり嬉しくて、頬がぽぽっと赤らんだ。
 
 ――宏ちゃんを大切に思う人に、受け入れてもらえたんやろうか……
 
 東さんは「ほほ」と笑い、ページを繰って説明を続けてくれる。
 
「……宏章様は、昔から本当にお優しくて。私の具合が悪いと、妻よりも先に気づいて下さったり。里心のついている使用人を、お使いの名目で外に出してあげたり」
「わあ……! 宏章さんらしい」
 
 優しいエピソードの数々に、くすりと笑いがこぼれる。
 ずっと知らなかった、ぼくと出会う前の夫。それでも、紛れもなく宏ちゃんやって思えて、慕わしくてたまらない。
 
「……ん?」
 
 ぼくは、一枚の写真に目をとめた。とても綺麗な女の子と、お兄さんと思しき少年と……ずっと幼い宏ちゃんが映っている。背後にある大きなソファは、昨日お邪魔した洋間にあったものに違いない。
 なんとなく奇妙なものを感じて、凝視していると、東さんが由来を説明してくれる。
 
「ああ、このお写真はですね――」
  
 そうして、和やかに談笑していると――離れのドアが激しくノックされる。
 
「ごめんくださあい!」
 
 バンバン、と戸が跳ねる音がして、ぎょっとする。
 
「お義母さん!?」
「やあ、どうもどうも」
 
 扉に殺到した東さんの肩越しに、お義母さんが飄々と手を振っていた。
 
「どうなさったんですか?」
「成くんを誘いに来たんだよー」
「えっ」
 
 ぼくを?
 きょとんとしてしまうと、お義母さんは言う。
 
「鬼のいぬまに洗濯ってね。成くん、オメガ同士なんだし、気を使わないでいいよ!」
「えっ、あの」
「さあ出かけよう!」
「ち、ちょっと待ってください……!」
 
 なんかこのやり取り、デジャヴを感じるのですが……!
 ぼくはお義母さんに手を引かれ、離れを飛び出した。
 
 
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