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第五章~花の行方~
三百六話
「え……?」
お兄さんの言葉に、ぼくは目を瞠る。
「宏章は、あなたに今回の件を伏せてゆくようにと言った」
「……!」
息を飲む。お兄さんは淡々と続けた。
「あなたは当事者で、知る義務と責任がある。それなのに「自分が解決するから言うな」の一点張りだ。だから、俺はあなたに伝えに来た」
「そう、だったんですか……」
「綾人の時と同じだ。あなたは、また何も知らないところだったんだ」
告げられた事実に、呆然としてしまう。
――また、宏ちゃんに抱えさせるところやったん……?
そういえば……宏ちゃんは、ぼくの不安に気づいてくれているみたいやった。やから、一人で確認に行ってくれて、ぼくを関わらせないようにしてくれたの?
陽平のことで、ぼくを傷つけまいとして。
――『犯人が誰であれ、俺はお前を悲しませたりしない』
昨夜にはもう、そのつもりでいてくれたのかな。
ぼくは、きりきりと唇を噛み締めた。
「……お兄さん、教えて下さってありがとうございます。ぼく、宏章さんに気遣ってもらってばっかりでした」
宏ちゃんに申し訳なくて、仕方なかった。大切なお家も壊されて、悔しかったのは宏ちゃんなのに。ぼくのことばかりを気遣ってくれて……
「本当に申し訳ありません……!」
深く頭を下げると、お義母さんが慌てたように声を上げはった。
「成くんのせいじゃないって! 宏はかっこつけだからさ、甘えとけばいいの」
「お義母さん……」
励ますように肩を揺すられて、涙ぐんでしまう。すると――お兄さんが、苛立たし気にため息を吐いた。
「そういう問題じゃない」
「……え?」
「あなたは、またそんなことを言っているのか? あいつは、また大切なことを黙っていた。自分の思うように事を進めようとして。つまりは、あなたのことを蚊帳の外にしていたんだぞ?」
強い言葉に、ぼくは少し狼狽する。
「そんな、蚊帳の外やなんて……宏章さんは、ぼくを気遣ってくださっただけです。ぼくのために……」
優しい夫を想い、鼻の奥がツンと痛んだ。
「申し訳ないのは、ぼくの方ですっ。宏章さんの優しさに甘えて、何も言えなくして。ぼく、もっとしっかりします。宏章さんに守ってもらってばっかりにならないように……!」
背筋を伸ばして、お兄さんを見上げた。
そして、ハッと息を飲む。お兄さんの黒い瞳は、ますます冷たく強張っていたんよ。
「――優しい?」
お兄さんの声は低くて、小さかったのに、部屋中に響く。――怒っているだけじゃなくて、何か形容しがたいどろどろしたものが、含んでいるみたいやった。
怒鳴られたわけでもないのに、不安がじわじわと募っていく。
「優しいか……なるほどな。綾人を排除することも、あなたにとっては「優しさ」の範疇内になるわけか。合点がいったよ」
「……っ」
お兄さんは、ふっと笑った。
「綾人から、聞いたよ。謝罪に来てくれたのかと思えば、「宏章の意向通りにする」と伝えに来ただけだったそうじゃないか。あなたはあいつより、宏章をとったんだものな」
「それは……」
綾人に不義理をしている自覚はあって、二の句を継げなくなる。
お兄さんは、冷たく続けた。
「兄として、そこまで弟を想って貰えて感謝するところなんだろうな。だが……俺は、あなたが盲目になっているようにしか思えない」
お兄さんの言葉に、ぼくは目を瞠る。
「宏章は、あなたに今回の件を伏せてゆくようにと言った」
「……!」
息を飲む。お兄さんは淡々と続けた。
「あなたは当事者で、知る義務と責任がある。それなのに「自分が解決するから言うな」の一点張りだ。だから、俺はあなたに伝えに来た」
「そう、だったんですか……」
「綾人の時と同じだ。あなたは、また何も知らないところだったんだ」
告げられた事実に、呆然としてしまう。
――また、宏ちゃんに抱えさせるところやったん……?
そういえば……宏ちゃんは、ぼくの不安に気づいてくれているみたいやった。やから、一人で確認に行ってくれて、ぼくを関わらせないようにしてくれたの?
陽平のことで、ぼくを傷つけまいとして。
――『犯人が誰であれ、俺はお前を悲しませたりしない』
昨夜にはもう、そのつもりでいてくれたのかな。
ぼくは、きりきりと唇を噛み締めた。
「……お兄さん、教えて下さってありがとうございます。ぼく、宏章さんに気遣ってもらってばっかりでした」
宏ちゃんに申し訳なくて、仕方なかった。大切なお家も壊されて、悔しかったのは宏ちゃんなのに。ぼくのことばかりを気遣ってくれて……
「本当に申し訳ありません……!」
深く頭を下げると、お義母さんが慌てたように声を上げはった。
「成くんのせいじゃないって! 宏はかっこつけだからさ、甘えとけばいいの」
「お義母さん……」
励ますように肩を揺すられて、涙ぐんでしまう。すると――お兄さんが、苛立たし気にため息を吐いた。
「そういう問題じゃない」
「……え?」
「あなたは、またそんなことを言っているのか? あいつは、また大切なことを黙っていた。自分の思うように事を進めようとして。つまりは、あなたのことを蚊帳の外にしていたんだぞ?」
強い言葉に、ぼくは少し狼狽する。
「そんな、蚊帳の外やなんて……宏章さんは、ぼくを気遣ってくださっただけです。ぼくのために……」
優しい夫を想い、鼻の奥がツンと痛んだ。
「申し訳ないのは、ぼくの方ですっ。宏章さんの優しさに甘えて、何も言えなくして。ぼく、もっとしっかりします。宏章さんに守ってもらってばっかりにならないように……!」
背筋を伸ばして、お兄さんを見上げた。
そして、ハッと息を飲む。お兄さんの黒い瞳は、ますます冷たく強張っていたんよ。
「――優しい?」
お兄さんの声は低くて、小さかったのに、部屋中に響く。――怒っているだけじゃなくて、何か形容しがたいどろどろしたものが、含んでいるみたいやった。
怒鳴られたわけでもないのに、不安がじわじわと募っていく。
「優しいか……なるほどな。綾人を排除することも、あなたにとっては「優しさ」の範疇内になるわけか。合点がいったよ」
「……っ」
お兄さんは、ふっと笑った。
「綾人から、聞いたよ。謝罪に来てくれたのかと思えば、「宏章の意向通りにする」と伝えに来ただけだったそうじゃないか。あなたはあいつより、宏章をとったんだものな」
「それは……」
綾人に不義理をしている自覚はあって、二の句を継げなくなる。
お兄さんは、冷たく続けた。
「兄として、そこまで弟を想って貰えて感謝するところなんだろうな。だが……俺は、あなたが盲目になっているようにしか思えない」
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